69話 一狩り行こうぜ! 2
シアンさん達と冒険者ギルドに行った際には必ず世紀末野郎に絡まれた。2度ある事は3度ある。そのため俺は及び腰になっていた。
「マスターがパーティーリーダなんだから一緒に行けばいいんじゃね? 別に前に立つ必要は無いんだ。マスターは後ろでドンと構えて指揮してくれりゃいい。」
そんな心中を察してかレイヴンさんが軽い感じで言ってくれた。
「いえーい! リーダー、お小遣いちょーだい!」
ん? A220ちゃんがノってペチペチと肩を叩いてくるのだが、何か不穏な副音声が聞こえたような……
確かに俺にはリーダーシップというものが足りない。
学生時代は教師の言うことを聞いて教科書を覚えていれば優等生なのだろうが、社会に出るとそれではダメだ。
シアンさん達の保護者の他、冒険者となった今、オレに求められるのは自己判断力とリーダーとしての意識だ。
シアンさん達に失望されないよう意識して動かなければ。
「ピ○チュウ100万ボトルだ!(ド○ペリ|彡サッ)」が合い言葉の某国民的アニメ主人公も自分では戦わず主役を張っているのだ。
せめてあの程度の指示は出せるようにしたい。
よし、これは俺が変わるための第一歩だ。シアンさん達と冒険者パーティーを組む以上、俺がリーダーになるのだから良いきっかけだと思え。
積極的に指示を出していこう。今までの受け身の俺とは違うのだ! マリオネットハーレム? なんぼのもんじゃい!
……すみません。半分くらいウソです。出来ればお手柔らかにお願いしたいです。
そうして俺たちは冒険者ギルドの扉をくぐった。尚、A1、A2ちゃん達も登録するわけではないが着いてきている。
計9名の大所帯だ。ちなみに冒険者パーティーは4~6人ぐらいが多い。
シアンさん達は今日は冒険者の依頼を受けると言う事でそれぞれ動きやすい私服となっている。アークさんだけは後方支援型だからかロングのスカートにヒールのある靴なのだが。
A1、A2ちゃん達はいつのもミリ系学生制服だ。……所で、なぜギルド内にまでアサルトライフルを携帯しているのでしょうか? 一応スリングで肩にかけているが。
アサルトライフルを構えた美少女4人組(内3人は外見が同じ)とかこの世界で需要ないだろ?
俺たちが建物に入っていくと酒場スペースにたむろしていた冒険者の視線がこちらを向いた。基本こういった視線は特に意味は無くどういったヤツが入ってきたのか見るための物で実際何人かは確認するとすぐに視線を戻したのだが、俺たちを……俺の後に続いて入ってきたシアンさん達を見るとヒソヒソと話し始める人達がいた。
「おいおい、女連れとはいいご身分だな。どこのお坊ちゃんだよ」
「うぉ! あの女、スゲー美人じゃね?」
「あの周りの子等はなんだ? 何持ってるんだ、杖か?」
こう言ったのは無視していれば良い。同業者を見定めているだけであって、わざわざ声をかけてきたり絡んでくる輩なんてそうそういない。
「じゃあ、ヴァーミリオンさん達は冒険者登録をしてきて。シアンさんは一緒に行って教えてあげて。レイヴンさん達は俺と一緒に適当な依頼を探そう」
「「「了解」」」
そうして俺は掲示板に向かった。受ける依頼としてはレイヴンさん達が銃火器を使いたいようなので、ゴブリンやオークなど人間に近い魔物の討伐依頼などが良いだろう。
そういえばこの世界にはゴブリンなど俺たちの世界でメジャーな魔物がいて固有名詞もそのままである。その他の固有名詞……例えば芋もimoと発音する。これには理由があって過去に召喚された勇者がそう呼んで広めたらしい。
俺としては認識のズレがなくて良いので良くやったと言いたい。固有名詞には謎翻訳が働かない場合があるからだ。
問題はシアンさん達だろうか。召喚された勇者というのは勿論古代魔法文明より後の時代なので、今度はこの世界出身であるシアンさん達が知っている言い回しと違うと言う事が出てきた。まあ地球でも3000年前の言語と現代の言語などかなり違うからね。
そのためシアンさん達はこの世界出身にもかかわらず初期は少々混乱した。すぐに書籍などで学んでしまったけれど。
さてさて、話がずれたが討伐依頼を探していこう。
クイクイ……
袖を引っ張られたのでそちらを見るとA1101ちゃんが何かを指さしていた。見ると、常設依頼と書かれた掲示板のスペースだった。
常設依頼とは基本的にいつも受け付けている依頼である。
内容は街道のゴブリン退治やオーク退治、特定の植物採取などだ。これは1匹いくらと言う計算方法でいつでも換金してくれる。
見ると、コロッサスでもゴブリンやオーク退治は常設依頼だった。ただこの街は周囲も含め、そこそこ治安が良いんだよな。街道も兵士が見回りをしていると言うし。
となると取りこぼした魔物を狩ることになるのだろうか、どの程度いるのか分からない。最悪の場合、全然見つけられないということもあり得る。範囲も『街付近』と曖昧で非常に広範囲だ。
「ふーん、こういうのがあるんだ」
ワシッ! と肩がつかまれ顔のすぐ横から声がしたのだが、A220ちゃんが後ろからのぞき込んでいた。A1ちゃんはスキンシップが好きとは聞いていたがA2ちゃんも大概だよね。
「おう、マスター、これなんかどうだ?」
俺が思案していると、レイヴンさんが一つの依頼を指していた。
「なになに……オーガ討伐」
それを俺の後ろに回り込んだままのA220ちゃんが読み上げた。
オーガ……鬼である。体格は成人男性の倍程度で膂力は人間など比にならない。
それが村に出たので退治して欲しいと言う依頼であった。内容はオーガ1体に取り巻きのゴブリンが十匹程度。村の位置は馬車で1日程度。
うん、これなら位置も数も分かっているからやりやすいね。依頼金額は比較的低めでおそらく9人で行った場合採算がとれないが、今回は銃の性能検査や運用試験なども兼ねているのでまあ別に良いだろう。
依頼主が農村の村長と言う事になっているので、そう裕福でも無いのだろう。
「いいね。それで行こうか。」
「おう、じゃあ窓口に出してくるわ」
そう言って、レイヴンさんが手続きのために依頼窓口に行ってしまった。残ったのは俺とA1ちゃん達なのだが。
A1ちゃんが自身の意見が採用されなかったからか心なしショボーンとしている。
「あー、えーと、ごめんな。出現位置が分かっていた方が簡単だろ?」
そう言いながら一番近かったA1101ちゃんの頭をポンポンと撫でてやったのだが……
A1101ちゃんは先ほどの落ち込んだ空気はどこヘやら、嬉しそうに頭をぐりぐりと当ててくる。さらに他2名がわらわらと寄ってきて頭を突き出してくる。
「あー、うん」
その他の2人も交互に頭を撫でてやるとほんわかした空気になった。
ぐりぐり……なでなで……ぐりぐり……なでなで……
「ホレホレ、ういやつめ」
「何やってんだ……」
おっと、調子に乗ってアゴの下まで撫でてしまったぜ。リアル少女にやると変態なのだが、A1ちゃんは嬉しそうで今にもゴロゴロとノドを鳴らしそうだ。
そうやってA1ちゃん達と戯れていると、戻ってきたレイヴンさんにおかしな目で見られた。
「お速いお戻りで……」
「おう、割に合わない依頼なのに酔狂だなと言われたけど、それだけだ。」
「……(むぅ~)」
おっと、A1ちゃん達が無言の圧力。それを物ともしないレイヴンさん。
この依頼、難易度が高めの割に依頼額が少なく普通に見ても割に合わないらしい。
ちなみにA220ちゃんはなぜか俺の背中にコアラのようにひっついたままだ。
「それはそうとあっちは良いのか?」
レイヴンさんがそう言いながら親指でカウンターの方を指す。
そちらの方を見ると、ちょっと困った事態になっていた。
◇◇◇
さて啓太と別行動で受付に向かったシアン達であったが、登録自体は簡単で受付で受け取った紙に必要事項をスラスラと記入し受付に返す。するとステータスカードの有無を聞かれるので「持っている」と答え、登録に必要な金額を渡す。ステータスカードを渡し記載を更新すれば登録は完了である。
今回、パーティー登録をしてしまうため受付にその旨を伝えると即座にしてくれた。勿論、ステータス関係については秘匿? しているため、ヴァーミリオン、アークトゥルス共にFランクスタートだ。パーティーランクも実績が無くFランクである。
パーティー名は任意で設定でき、人数制限は事実上無し。と言っても大多数はパーティー名は登録するし、人数は10人以下だ。
啓太達のパーティーは現在5名でパーティー名は無い。
JC14という同行者がいるのだが、冒険者では無いので報告不要だ。
手続きも終わり、シアン達は啓太達に合流しようとするがそうは問屋が卸さない。お約束はここでも有効なのだ。
「やあ、ちょっと良いかな?」
声をかけてきたのは一人の金髪の青年だった。年の頃は20歳前後でかなりのイケメンだ。全身を統一された装備でまとめており腰からは剣を下げている。そんな青年がシアン達に声をかけてきた。
「良くないです。それでは」
シアン達はそう答えてその場を後にしようとする。しかしまったく意に介した様子の無い金髪イケメンはシアン達の前に回り込むように移動する。
「僕はジョニー、Aランク冒険者をやっているんだ。」
ファサァ! と自慢の金髪を掻き上げるイケメンのお決まり動作をする青年改めジョニー。
「……はぁ。何か用でしょうか?」
シアンは渋々といった感じで足を止め応対する。ヴァーミリオンは後ろで我関せずと決め込んでいる。アークトゥルスはニコニコとしたままだ。
「君達、今、冒険者登録をしたところだしFランクなんだろう。ならボクたちのパーティーに入らないか? 『漆黒のアオバカゲロウ』と言えばこの辺りでは少し有名でね」
「はあ……お誘いはありがたいのですがもう既にパーティーを組んでいますので。そもそもAランクの方がFランクを入れる意味が分かりません。」
シアンは拒絶する。普通そこで話は終わりなのだがジョニーはこの程度ではへこたれない。
周りの野次馬達はヒソヒソと話し始める。
「おい、あの女達ジョニーに誘われているぞ」
「美人だからだろ。ジョニーは実力だけじゃ無く顔もいいからな」
「クソ、あの女の子達もジョニーにお持ち帰りされちまうのか」
「キィー、何よあの女達! 私の方がジョニー様にふさわしいのに」
「今日も格好いいな。俺、ジョニーになら掘られてもいいぜ」
「いやいや、パーティー人数の上限は定められていないんだ。どうだい、ボクたちのパーティーに皆で来ないかい?」
そう言いつつシアン達3人を見回すジョニー
3人は適当にあしらってしまえばいいと考えていたが、どうにも面倒臭いヤツらしいと今更ながらに気付いた。
そんな中で一番に動いたのは後ろで人ごとみたいにしていたヴァーミリオンであった。
「あ、ボク、夫とパーティー組んでるんで」
「え゛っ……君、既婚――「待ちなさい! 何のことですか!?」
驚いたジョニーであったがその言葉はシアンによって遮られる。
「ダーリン、お待たせ~!」
「うぇ!?」
しかしそれを意に介した様子も無く、猫撫で声で手を振りながら啓太の方にさっさと駆けていくヴァーミリオン。それを見て驚いた声を上げる啓太。
「私も主人を待たせていますので~、それでは~」
次にひらりと抜け出たのはアークトゥルスであった。ヴァーミリオンを見てピコーンと閃いたのであろう。
「…………くっ、私もお、お、夫を待たせていますので失礼します。」
最後に恥ずかしそうにしながら声を絞り出したシアンもその場を後にした。
ジョニーは放心していた。
ドン○リって100万するんですか? お酒とか高級品とかよく知らなくて……




