4話 また勉強
本日から座学なのだが、
せっかく大学を卒業し入社試験もパスしたのに、なぜ今になってまた勉強しないといけないのか。と思ってしまう。
とりあえず常識についてはそれほど離れていない。まあそもそも『人間』が生活している以上そこまで変な常識などないだろう。あるとすれば民族特有のタブーとかだが、そこら辺までは知る必要が無いのだろう。一応とはいえ、大陸最大の宗教組織に所属しているだからだ。
そう、『聖統教会』というのはこの大陸最大の宗教組織であり1強体制だそうだ。勇者召喚を行ったのもその組織力にあり、一国が『勇者』という過剰戦力を持たないように、国を跨いだ組織であり、ほぼどの国でも信仰されている『聖統教会』が行うこととなったらしい。そのため『勇者』は国ではなく、聖統教会所属となるらしい。
あとはお金については貨幣自体に価値のある金貨や銀貨などが使われているらしい。正直日本円に治すといくらか? というのは不明だが大体平民の一般家庭で1か月に金貨1~2枚で生活できるらしい。俺たちにはサンプルとしてそれぞれの貨幣を5枚ずついただいた。
鉄貨5枚、銅貨5枚、大銅貨5枚、銀貨5枚、大銀貨5枚、金貨5枚――以上がいただいた所持金であり、とりあえずそれで1か月分の生活費も兼ねていると言われた。ちなみに10枚で次の貨幣に上がり、更に金貨の上に大金貨と白金貨があるらしい。ただこっちは額が大きいため一般にはあまり使われないと言われた。まあ、すでに平民の一般家庭の2.5~5か月分のお金をいただいているし、食事と住居は『聖統教会』側で用意されているし、服についても教会の関係者だと分かるものを何着か頂いているので結構いただいていることになる。
ちなみに、やがて必要となる武器や防具なども教会側が用意してくれるらしい。
地理については現在いる大陸の人間の生存圏とそれ以外――未開拓地域を説明されて、魔王の出現が予想される位置や、魔族の本来の活動範囲。人間の活動圏については現在位置であるアーガス聖王国とその周辺の国や国内の主要な町などが説明される。といっても位置関係や街の大きさなどが主で、別に人口やら生産物の説明があったわけではない。
とりあえず人間の生存圏は大陸の東の方、西の方は未開拓地域及び魔族の生存域となっている。
なお現在いるアーガス聖王国は王国と名のつく通り、国王がいて貴族制度がある。一応俺たちは『勇者とその仲間たち』ということと『聖騎士』ということで、下級貴族程度の社会的地位が与えられている。といっても、社会的地位だけでお金も領地もないのだが。
後はこの世界特有のもの。そう魔法だ。それについて講義を受けたのだが、正直ちんぷんかんぷんだった。魔法の成り立ちとかは歴史の授業的だったのだが、体内にある魔力がどうだとか、魔法を使用する際の注意点だとか、そもそも元いた世界にない概念である。思ったとおり俺以外の奴も似たり寄ったりの反応だった。結局、講師の人もその雰囲気を感じ取って、今後の実践の時間で説明していくと言って終わった。
最初は座学なんてと思っていたが、受けてみて分かった。
暇だ。
なんせ正直半日ぐらいしか拘束されない。それ以外の時間は自由なのだが、正直何もすることが無い。スマホのゲームでもやろうと思っていたが、早々にバッテリー切れになった。充電器は持ってきていないし、そもそもこの世界に電池やコンセントなんてない。
やることが無いということと、一応座学で習う以外の知識も持っていた方がいいと思ったこともあって、本などないかと通りすがりのシスターらしき人に聞いてみたら書庫があるという。
「そこ使ってもいいですか?」
「大丈夫ですよ。その部屋に管理の人がいるので、その人に声をかけてください、あと本を破損させることの無いように。」
「わかりました。」
期待していってみたら学校の図書室よりしょぼかった。部屋はそれなりに大きいのだが、本が少ない。一応入り口近くにいた司書の人に挨拶して使用する旨を告げる。
そのあと本を一冊手に取ってみるが、ああ、なるほど、丁寧に製本されてはいるが多分手書きだ。印刷技術とか無いのかな。となると、製本も手作業かな。本は高級品ということだろうか。ならばこのしょぼいラインナップにも頷ける。
とりあえず適当に何か、役に立ちそうなものはないかと見て回る。さすがに教会の書庫だけあって、神話関係と歴史についての本が多かった。
そうやって色々と見て回っていると、誰か書庫に入ってきた。そちらを向くと、あれは香川さんか。やっぱり暇だったのだろうか。
あ、こっちに気付いた。やっぱりここは同じ召喚された者同士として声をかけるべきだよな。な、なんて声をかけようか。お、落ち着け、俺はまだ大学を卒業したばかりのピチピチの若者だ。JKとお話しするなんて余裕だよ。うん。
「か、香川さん、だったよね。どうしたの? やっぱり暇だった?」
「あ、えーと……」
「あ、秋月です。秋月啓太」
「あ、すいません秋月さん……ええ、暇だったので何かないかと思って……」
「そう、えーと、他の人たちは? ほらクラスメイトとか」
「あ、みんなは外の街を見てくるって行っちゃいました。」
「……え!? 外出ていいの?」
「あ、はい。いいそうですよ。日が落ちる前には戻って来るようにとは言われていましたが」
マジかよ。俺も行きたかった。何で誘ってくれないんだよ石田!
「秋月さんは何か調べものですか?」
「いや、俺はちょっと暇だったから何かないかと思って、」
「そうですか」
そこで会話は終了。たぶんこういう時にイケメンの東雲君あたりなら気の利いた会話もできそうなのだが、俺には無理だ。会って間もない女子高生なんて共通の話題もないし……
結局それからはそれぞれ選んだ本を机に座って黙々と読む。
ほうほう、古代魔法文明というのがあるのか。なんでも魔法により高度な文明を築いていたが3000年ほど前に滅んだらしい。いまだ各地に遺跡などが残っていてそこから高価な『魔道具』などが発掘されることがあるとか。魔道具……また新しい単語だな。えーとこれは、魔法の効果を付与させることによってさまざまな効果を生み出す道具。……魔法が使える道具というわけかな? ステータスカードも古代魔法文明の技術を解析してできているらしい。
その日は、いい時間になるまで本を読んで過ごした。
予約投稿時間を変えました。




