64話 報告会
会議という名の報告会が始まった。俺はノータッチだったので主に俺に報告する意味があるそうだ。四角いテーブルに各々が座っている。そうしてテーブルは表面がモニターも兼ねているようで図解で説明してくれるのだろう。
なお俺を案内してくれたJC14A2ちゃんだけは俺の後ろに立っている。彼女はあくまで案内要員であり報告会に参加するのは俺がいるからと言う理由なので、別に聞かなくても問題ないらしい。報告書はもう基地のコンピュータにアップして共有もされているそうなので。
「あーA2ちゃんも座ったら?」
「へ? あ、じゃあ失礼します。」
後ろに立っていられるのも気になるので座るように促すと、俺の横にちょこんと座った。
「では、報告します。まず基地の機能ですが生き残っていた区画は地下施設全体の96%。その全てが現在良好な状態で稼働しています。」
96%……つまり地下施設はほぼ完全な状態で生き残っていたわけである。
又、地下施設には専用のリアクターが有り施設で使用する魔力を完全に賄える。
施設は広すぎて現在は人口密度がスカスカの状態で、使用可能でも実際に使用はしていない施設も複数ある。
「本基地に保管されていたマリオネットは1体、【アークトゥルス】のみです。これは正常に稼働しました。この事についてはご存じかと思います。」
知っているね。だって起動するところを見ていたからね。今も目の前にいるしね。
あ、目が合った。にっこりと微笑まれてしまった。
「次に強装歩兵JC14ですが、本基地に保管されていたA1型、A2型双方とも全機稼働させることが出来ました。A1型256機、A2型42機が現在稼働し、各種作業を行っています。」
人数についてはレイヴンさんから聞いたほか、隣にいるA2ちゃんがここに来るときも教えてくれたし知っている。しかし合わせて300人近くがこの基地にいて、それが今動き回っていることになる。
「その他の報告事項として、各種軍用車両群は――」
そうして報告が続いていく。軍事用品などは勿論居住区画には隊員のための日用品なども多く保管されており、それらが残ったままだったそうだ。これについては嬉しい報告だ。何気にティッシュぺーパーやトイレットペーパーが無いのが辛かった。この基地の文明レベルならそれらもあるだろう。
車両用大型搬入口については現在地上に出すかどうかを検討中とか。
「ここまでで何かありますか?」
一度報告を区切ったシアンさん達がそう言ってくる。が基本は本当に報告だったので何もない。一応専門用語も出てきたがかみ砕いた表現で言い直してくれているし。
とりあえず気になった点を言えば良いのだろうか。
「あの、少し気になったんだけれどJC14て言うのは同型機が多数いるんだよね。外見は全て同じだと思うんだけれど、どうやって個体を識別しているの?」
「……JC14はA1、A2それぞれで外見もそうですが、各種性能も同じです。ですので、特に個々の識別は必要ないと思いますが?」
「え? いやさすがにそれは可哀想じゃない?」
聞くところによると服装や装備もそれぞれ同じにするらしい。個々の性能差が無いため別に必要に応じて近くにいる者を呼べば良いという感覚らしかった。
さすがにそれは人間の外見をしているので可哀想だと思う。
「では…………どうしましょう?」
「せめて番号を振るというのは? 服のどこかに番号を書いておけば見たら分かるし。」
さすがに300人近い人に名付けるほどネーミングセンスはないし、もし名付けられても覚えられないし、外見が同じなので判別できない。
なら、名札みたいにでかでかと番号でも振っておけばどうかと思った。番号で呼ばれるのはどう思うか知らないが、とりあえずはそれで我慢して貰うしかない。評判が悪かったら別の案を考えよう。
人間(あくまで外見)を番号で呼ぶ……俺も大概だな。でも、しょうが無いじゃん。
「そうですか。ちなみに主様はどのように考えていますか?」
「あー、ペンある? 白が良いかな。衣類に書いても大丈夫なヤツ」
そう言ってアークさんからペンを受け取る。ジャケットがミリタリー調の暗い系の色だったので白色の方が見やすいだろう。
「悪いんだけどジャケット脱いで貰っても良いかな?」
「はい」
隣に座っているA2ちゃんのジャケットを預かる。それを机の上に広げて左胸と背中の首筋辺りに「01」と書き入れた。そうしてそれを横に座っていたA2ちゃんに返す。
「番号ではあるけれどこれで分かるだろう。今から君はA201ちゃんだ!」
「……A201ですか……えへへ、A201」
その上着を受け取って俺に名前を呼ばれたA2ちゃん、もといA201ちゃんはギュッと上着を抱きしめてはにかんでいる。少なくとも悪い反応ではなさそうだ。どことなくチョロインの香り……
A2は42人なので二桁を後ろに付けただけの単純な呼び名だ。
ちなみにA1はA1001ちゃんからA1256ちゃんまでになる予定。
「……まあ、本人が満足そうなのでその案で行きましょうか」
シアンさん達も納得してくれた。
「次に、主様の調べ物についてです。帰還のための空間移動に関する研究ですが、この都市では50を超える研究機関又は個人が空間移動の可能性についての研究を行っています。これについては現在10の対象と接触できましたがいずれも同一世界内での移動――つまりワープの研究であり、主様の望む結果は得られませんでした。図書館などの書籍類についても同じで現時点で有力な情報はありません」
「え? シアンさん達も調べていてくれたの?」
「勿論です」
「そうなんだ。ありがとう。でも成果はなかったのか……」
どうやらシアンさん達の方でも俺の帰還方法について調べてくれていたらしい。どういった調査方法なのか知らないが聞く限り俺より大量の情報を調べてくれたようだ。俺一人でこの広い都市を調べきるとか気が遠くなりそうだからな。確かにありがたいが、彼女たちが調べてもまったく成果が出ていないというのが同時に残念でもある。先は長そうだ。
「誰が調査したの、シアンさんとレイヴンさん?」
「ええ、ヴァーミリオンやアークトゥルスなどにも手伝って頂きましたが」
「え、大丈夫だった? ヴァーミリオンさん達はステータスカードとか持っていないんじゃ……」
皆で手分けしてと聞いて気になったのはステータスカードの事だ。身分証で有り図書館などに入る際に提示しなければならなかったはずだ。持っているのは俺とシアンさん、レイヴンさんの3人だけだったはず。どうしたんだ?
「あの程度のカードなどこの施設の設備で複製可能ですので、既にヴァーミリオンだけで無く、各JC14にも持たせてあります。」
「それ、大丈夫なの?」
「バレる可能性は0です。完全にコピーできましたから。」
身分証の偽造とか大丈夫だろうか。でも考えてみればステータスカードってギルドとかでも発行しており、公的機関が管理してるという訳ではないので、大丈夫と言えば大丈夫なの……か?
大丈夫だと思っておこう、今更細かいことをいちいち気にしていたら身が持たない気がする。
「最後に、この基地は大規模で既にJC14を含め約300機が活動しております。そのため地上の屋敷からの人の出入りなどが不自然になることが予想されます。そのため、偽装を行う必要があります。」
「偽装というと……大勢が出入りしても問題ないような肩書きを付けると言うこと? 工場でも作るの?」
「半分正解です。この都市には技術研究ギルドと言う物があります。そこに申請して地上の施設を研究機関として登録する事を考えています。先ほど言っていた大型機材の搬入口も偽装の必要がありますのでその辺りの建物も含めて一帯を研究所の敷地としてしまった方が良いかと。」
「なるほど。そこは任せるよ」
この都市には技術研究ギルドという物がある。元は特許を管理するため研究者同士が作った組合だったらしいのだがそれが大きくなり現在のギルドとなっている。
その業務は特許の管理から、ギルド員への融資、出資者捜し、研究結果の発表の場の提供などまさに研究者のギルドと言ったものだ。
ただ俺はこのギルトについては行ったことがないのであまり知らない。正直関係ないと思っていたので下調べなんかもしていない。
今の言い様からしてシアンさん達は事前調査など十分にしてありそうだし任せてしまっても良いだろう。そもそも『研究所』が出来たとしても俺はそこで活動することなんておそらく無いのだから。
そうして一通りの報告が終わった。
余談ではあるがその後JC14の皆が俺にジャケットに番号を振って欲しいと言ってきた。理由は分からないが、せっかく頼られているようなので気前よく返事をした。まあ、番号を振るだけだしそこまで時間はかからないだろう。
何より可愛い女の子のお願いである。よーし、お兄さん頑張っちゃうぞー!!
白いペンて何気に書きづらいですよね。下地の色が出ちゃって。
JC14A2ちゃん一人目を即座に攻略。
基地のリアクター(発電機)は地中の魔力を回収するため、大規模な地殻変動でも無い限り半永久的な運用が可能。




