62話 ドットカール博士
朝、起きて朝食を取ったあと今日の予定を聞くと、
「あー悪ぃ、JC14と基地関係でちょっと忙しいんだわ。シアンが残念がってた。」
と言うレイヴンさん達により俺はまた単独行動になった。マリオネット組は地下施設関連で何かと忙しいらしい。ネルソンもいつの間にか消えている。あいつは普通に餌付けされているので自然に返ることはないだろうから屋敷のどこかにいるだろうしメシの時間には出てくるだろう。
と言うわけで今日は一人で冒険者ギルドにやってきた。今回は以前みたいな下手な依頼をつかまされないように注意しないとと言う心持ちでギルドの建物に入っていく。
「あ、ケイタ様ですね。ご指名が入っております。」
ギルドに入って掲示板を見ようとしていたら、職員の人に声を掛けられた。何だろうかと思ったら以前受けた依頼についてだった。
「ドットカール氏より先日の依頼についてお聞きしたいと。明日の昼頃、又こちらに来て頂けますか。」
「はい、大丈夫です……クレームとかですか?」
「内容までは伺っていませんが、ギルドの職員も立ち会いますし無茶なことは言われないと思いますよ。」
クレームとかかとも思ったがギルドの建物内の個室でギルド職員立ち会いのもと行うと言うことなので少し安心する。
ギルドは冒険者の権利などを保護するほか仲介トラブルの対応などもしてくれる組織だ。まあそういったことが無いと会員になるメリットがないからな。
明日も多分空いているだろうから了承すると、ギルド職員は去って行った。
そうして俺は又依頼を探すのを再開する。結局一日で終わりそうで簡単な依頼と言うことで手紙の運搬の仕事を受けた。
途中、配達先でオバチャン達の井戸端会議に巻き込まれたため仕事を終えるのが遅くなってしまった。低賃金で時間外労働か。俺もこの世界に来ず会社に行っていればそういった仕事もしたのかもしれないな。
そうして翌日、同じようにシアンさん達は少し忙しいらしい。なので、本日も俺は単独行動となる。
今日は昼からギルドに行く約束があるので、午前中は調べ物をすることにした。ようやくこの都市に来て本来の目的が果たせそうである。
そうして街の図書館に行ったのだが、見た目は非常に豪華な建物だった。敷地も広そうだし、この大きさなら蔵書量も期待できそうである。
ただ、かなり高額な入場料を取られた。その上ステータスカードも提示しなければならないらしい。これはこの世界の印刷技術が未発達で本が高価であることが理由だ。そのため貸し出しは行っておらず、建物の中で見るだけである。
とはいえようやく調べ物が出来るとウキウキしながら図書館に入っていったのだが、広すぎて逆に分からない。現代の図書館のように案内板や細かくジャンル別になっていたりしない(大まかには別れているが)。
仕方なく職員の人に尋ねると非常に丁寧に教えてくれた上に、対象の本を持ってきてくれた。さすがお金を払っただけはあるなと思いながら本の内容を確認していく。
何の成果も得られませんでした。
魔法の基礎すら怪しいヤツがいきなり空間魔法の専門書なんて読んだところで分かるわけ無いのだ。職員の人になるべく簡単な物をと言った結果コレなのだから、魔法を一から学ぶしかないのだろうか。それか結果だけ研究者に会って直接聞くか。
一応時間の許す限り持ってきて貰った本の内容を理解しようとした。
結果として空間魔法の触り程度は理解できたが目的の知識は無かった。
そうして昼頃になったため図書館を後にして、昼食を屋台で取りつつ冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに着くと、俺の顔を確認した職員(昨日と同じ人)がすぐに気付いてくれて、個室へと案内してくれる。会議室と言うには手狭で10畳程度だろうか。ギルドにはこういった部屋が何部屋かある。
ドットカール博士が来るまで少し待って欲しいと言われお茶を出された。
それを飲みながらのんびり待つこと15分程度。相手方が来たようで扉が開いた。そこにいたのは初老のモノクルをかけたイギリス紳士みたいな人だった。ただし服の上に白衣を着ている。その初老の男性が職員に連れられて部屋の中に入ってくる。
俺は慌てて立ち上がり姿勢を正そうとしたのだが、
「ああ、そのままでかまわないよ」
そう言って俺の対面に座る老紳士とギルド職員。
そうして一瞬の沈黙の後、
「彼が、先日オリハルコンを持ってきてくれた冒険者だね。」
「そうです。」
初老の紳士――ドットカール博士が職員に確認している。そうして、
「すまなかった。」
そう言って頭を下げてきた。俺には何のことだか分からないので、口を出せない。
「件の依頼達成金額だが低かっただろう?」
「え、ええ。そうですね」
「実はあれは別に騙そうとしたわけではないのだよ。」
そう言いながら事情を語ってくるドットカール博士。以前から高額依頼につられて偽物を持ち込む輩が多数いたそうだ。オリハルコンはその希少性から非常に高値が付くが、見た目や質量は金(gold)と同じだ。
それはオリハルコンと金が同位体であるためで、このわずかな違いが大きな性質の違いに結びついてくるのだが……まあとにかく、『金』を『オリハルコン』だと言って持って来ると言うことが多発したそうだ。〈鑑定〉スキルなどメジャーであるがそれでも人口全体から見れば少数で実際の鑑定には時間をかかる。
そのため最近では諦めて「本物があれば良いな」程度の期待度で依頼を出していたそう。そのため依頼達成金は『金の相場』にしていたらしい。
そうしたら先日、本物のオリハルコンを持ち込んだ者(俺のこと)が居たと言うことだそうだ。それで慌てて謝罪に来たらしかった。
「いえ、私も少々無知な部分もありましたので気にしておりません」
気にしていないというのは本当だ。確かに騙されたがあのオリハルコンだってタダで手に入れたような物だし。都会ってやはり厳しいんだなあと思ったぐらいだ。
「ありがたい。それで追加の達成金を渡すために来たのだが……何分、オリハルコンの金額が高額すぎて一度に支払えないのだ。今日来たのは分割払いをお願いするためと言うこともある」
「そうなのですか、ドットカール博士は高名な方だと伺っておりますが?」
別に払ってくれるというのなら受け取っておこうと思うが分割払いが必要なほどなのか。ドットカール博士は有名人だと聞いていたので、資金的にも余裕があると思ったので聞いてみると、
「確かにそれなりに有名であるとは自覚しているが、研究資金も馬鹿にならなくてね。特に最近はオートマタをより人間に近づける研究を行っているのだが、失敗続きで――」
そう言って苦労話(ちょっと愚痴っぽい)を聞かせてくれる。彼は魔導人形研究の第一人者でその名を馳せているが、そういった成功の裏には多数の失敗があるそうだ。特に高級品のオートマタの研究など資金がいくらあっても足りないとのことだ。
なるほど、こういったことはどこでも同じなんだな。ドットカール博士も努力を積み重ねて成功を勝ち取った人物なのだろう。
「――それで、分割でお支払いすると言うことで了承頂けるだろうか?」
「ギルド側としては当事者間の話し合いで決着が付くのであれば口を挟むことはありません。」
「俺は問題ないです。実はドットカール博士の制作したオートマタという物を拝見しまして、あの依頼を受けたのも少々オートマタに興味があったからなのです。」
適正価格を支払ってくれると言うので分割でも問題ないだろう。ドットカール博士は有名人なので夜逃げの心配とかも少ないはずだ。
「ほう、私の作品を見てくれたのかね。どうだったかね?」
「動きは非常になめらかでしたね。ですが、外見が白一色というのはどういった意図が?」
「ああ、実は人間の肌の色や顔を描いた物を作ってみたのだがどうにも奇妙でね。」
なるほど、シミュラクラ現象や不気味の谷現象というものもあるし、下手に人間に近づけようとして変になったのかな。それなら思い切ってガン○ム顔にしてしまっても良いかもしれない。
その後、なぜか話題がオートマタの話になっていった。まあ俺もそういった話は興味があるので聞いていて面白いのだが、横にいるギルド職員の人は迷惑そうな顔つきだ。そういった話はここでするなと言いたそう。
そうしている内にドットカール博士は興が乗ったのかドンドンと話しかけてくる。
俺は魔法で動くロボットのような物だろうと言うことで日本での知識を交えながら相づちを打っていく。どうやって目や耳の機能を再現しているのかとか。から始まり魔法でどこまで人間らしさを再現できるのかとか。
そうしてしばらく雑談していると「うぉっほん!」というわざとらしい咳払いが聞こえてきたため話が中断した。見るとギルド職員が苦笑いを浮かべていた。
「依頼に関することは終わったようですしそろそろ……」
「おお、そうだな。なかなか見所のある若者だったのでな。それでは依頼の件は分割と言うことで、君、今度私の研究室を見学に来ないかね?」
ドットカール博士もギルド職員の言いたいところは理解したのだろう。話を切り上げ立ち上がった。その際に俺を自身の研究室に招いてくれるとのことだ。興味があったので了承したら満足そうな顔をしていた。
そうしてギルドでの会話は終了した。
ドットカール博士は今後交流が続いていくかどうかはまだ分かりません。
オリハルコン→金に酷似。金より希少。ただし魔法に対する特殊な性質を持つ。(他の創作物などでは銅に似ているなどがあるようですが、この世界では金に似ているということにしています。)
ミスリル→銀に酷似。銀より希少。ただし魔法に対する特殊な性質を持つ。




