61話 いっぱいいる……
令和もよろしくお願いします。
さて、あれから隣(と言っても少し離れていた)の倉庫の扉の前に来た俺たち。
地下通路から扉にアクセスするため薄くて人力で開けられるような簡素な物ではなくて重厚な物だ。それでいて通路の上いっぱいまで扉が有りかなり大型の機械も出し入れが出来るだろう。といっても通路側の大きさの制約があるのだが。
そうしてその扉の前に俺たちが立つと同時に「ビー!」と言う機械音が鳴り、扉がゆっくりと左右に開き始めた。多分誰かが遠隔操作をしたのだろう。壁の上の方にある注意を知らせる黄色の回転灯が回っている。
やがて扉が開ききると同時に内部の電気が付いていく。そうして中にあったのは……
「ナンじゃこりゃぁぁ!!」
等間隔に並んだ透明なカプセルだった。
中はよく分からない液体で満たされており、その中には人が浮いていた。
それが部屋の中に多数存在する。
これは……SF映画にあるクローン培養施設だろうか。かなりの数の人間が液体の中で浮かんでいる。
ざっと見た感じ液体の中でプカプカと浮かんでいる人達は皆同じ外見に見える。本当にクローンか?
アークさんとシアンさんはさっさと中に入っていって壁にある端末だろうか、に何やら打ち込んでいる。
「全機無事ね。データ更新して起動すればすぐ使えるわよ~」
「そうですか。良かったです。」
「あの……ちょっと説明が欲しいのですが。」
シアンさん達だけで納得されてしまっても……俺、一応保護者だろ? いや、別に主従関係とかにこだわるわけではないが。
なんだかどんどん帰還から遠ざかっていないか?
「あー、まあ、あっちは忙しそうだからオレから説明しておくよ」
「レイヴンさん……」
レイヴンさんカッケー! 色々教えてください! 出来ればスリーサイズも。
シアンさんとアークさんは色々と忙しそうなのでレイヴンさんとヴァーミリオンさんが相手をしてくれるらしい。
あれ、そういえばネルソンどこ行った? 周りを見回すと、ちゃんと入り口の所でお座りしていた。さっきから一回も吠えたりしていない。賢いヤツだ。でもネルソンは別に連れてこなくても良かったかもしれないな。することないし。
ここにいるのはクローンと言えばその通りなのかもしれない。シアンさん達と同じ兵器の一種だ。
【強装歩兵】と呼ばれる歩兵戦力である。人型戦闘機が戦闘艦や戦闘機(航空機)の代替戦力であるのに対しオートドールは歩兵の上位互換兵器である。そのため戦闘能力ではマリオネットに及ばないものの歩兵としては十分なスペックを誇る。又、量産性にも力を入れられており、同一外見の個体が多数存在する。
と言うような話だ。ここで培養液? に入っている人達は正確には人ではないそうで……
ただ外見は人とそう変わらないと思う。
じっと見る……裸の女の子を。おっぱい、股間……
そう、オートドールというのは十代半ば程度の女性だ。少なくとも外見は。
とりあえず記憶領域をフルに使いこの光景を脳に焼き付けようと思う。
「今マスターがエロい目で見ているのがJC14A1て言う型式の強装歩兵だ。この格納庫の他にも保管されている。確か約250機がいたはずだ。あと別の所にアップバージョンのJC14A2って言うのもいる。こっちは40機ぐらいだったかな。」
べべべ、別にエロい目で見ていないし、けけ、研究のため見てるだけだし!
尚、後にJC14A1が256機、JC14A2が42機であったことが判明する。
JC14……14歳の女子○学生? 確かに言われてみれば……いや、14歳よりはもう少し年上のような気もするが……
じゃなくて!!
「そ、そんなにいるの! どうするの!? 誰が面倒見るの!?」
「この基地である程度の自給自足の運用が可能なはずだ。足りない物は外から持ってくるしかないだろうな。指揮権限は秋月啓太に一本化している。シアンのヤツがメインコンピューターをイジってたからな」
シアンさんがこの基地のメインコンピュータをハッキングして指揮権限を俺に書き換えていた。なんとコレが一番時間がかかったらしい。ファイヤーウォールを破るのに苦労しましたがこの程度なんて事はありません。アトランティア王国の技術は世界一ィィ! とかいい顔で言っていたらしい。さっきアークさんが感じていた違和感はコレだったようだ。
「いやいやいやいや! 俺が保護者って、こんな大勢、何がしたいの、シアンさんは!」
「オレも良くわかんねぇんだけど……(マスターを還さないようにハーレムで囲おうとしてますとか行ったらマズいよな。なーんでそんなに固執すんのかね)」
「寂しいんだよ、きっと。ほらボクたち国が無くなって知り合いとかいないじゃない? ある意味今のケータと同じだよ。知らない世界に一人放り出されたみたいな? (そんな殊勝なヤツじゃないだろうねー。マリオネットの主従関係ってここまで依存性が強かったっけ?)」
「……ま、まあそういうことなら」
そうか、シアンさんも寂しかったのか。3000年も経ってしまって確かに知り合いと呼べる人はいないものな。俺は帰れるかもしれないという希望があるからやってこれた部分もあるが、彼女たちはそれこそタイムマシンでもないと故郷には戻れないんだ。そう考えると彼女は今必死に知り合いや自分たちの世界の痕跡を探しているんだろう。
「なるほど、分かった。」
「「分かったの!?」」
懐の広いところを見せたつもりだったが、なぜかレイヴンさん達が驚いていた。
しばらくレイヴンさん達と話していたが、どうもシアンさん達は動きそうにない。
「おーい、マスターに他の所も案内させるぞ、ここは任せて良いか?」
レイヴンさんがシアンさん達の方に向かって声を掛けるとシアンさんが端末を操作しつつ親指を上に立てた。OKなんだろう。
「じゃあ、他の所も回ろうぜ。」
「も、もういないよね。マリオネットとかオートドールとか……」
「今から行くのは車両とかあるところだよ。他にも色々行くから位置関係とか覚えとけばいいんじゃない?」
そうして案内された他の倉庫。ここは普通で安心した。
保管されていたのは車両……自動車などだ。多分魔力で動くモーター式だろうが外見は地球の物とそう変わらない。高機動車や軍用トラックなどが止めてあった。又他の倉庫には装甲車や戦車まであった。見た目はアメリカ製の装備っぽい物が多くあった。装甲車はスト○イカーっぽいし、戦車はエイ○ラムスっぽい外観をしている。
レイヴンさんによると、戦車などの主砲は実弾ではなく魔力によるビーム砲らしい。
あと、異世界っぽく10mを超える人型ロボットがあったのが印象的だった。実際には土木作業用のパワードスーツなのだという。
「あんなデカブツ戦場で使えるかよ。良い的になるぜ」
「機構も複雑だし、マリオネットの方が強いよね。」
だって。ロマンがないなあ。
その他には、航空機類の格納庫もあった。同じく魔法機関で動くヘリコプターがあった。これもアメリカテイストの中型多用途軍用ヘリコプターみたいだ。携帯ロケットをケツにくらってダウンするヤツ。
戦闘機や輸送機の類いは非常に少なかった。ここは陸軍が中心の基地であったため陸軍所属のヘリコプターはかなりの数があったのだがその他の航空機は数えるほどしかない。
航空機用掩体や整備施設類が地上に固まっていたと言うのも理由だそうだ。そもそも滑走路がないため飛行機だけあっても運用できないのだが。
そうして一通り格納庫施設類を見て回ったところでもう夜も遅い時間になっていたため地下室を後にした。
なお、シアンさん達はまだ作業中だと言うことで、レイヴンさん達と夕飯を食べて。その日は眠りにつくことになった。
◇◇◇
「いいの~。あの子を司令官にして?」
「問題ありません。主様は信用できます。実務は私達が行えば良いのですし。」
「お飾りじゃねーか」
「さすがに可哀想じゃない?」
「そう言う意味ではありません。主様は私達の心の寄り所であり、新世界の主なのです(うっとり)」
(なんかヤバくね?)
(うん、普通におかしいよね?)
(私はかまいませんよ~。けいちゃんは可愛いですし~)
夜、マリオネットによる密談が行われる。
「ところでJC14は起動できたのか?」
「大丈夫よ。でも衣服や装備品がないわね~」
「それなのですが、主様からいただいたスマートフォンに興味深いデータがありました。アップロードします。」
啓太がシアンに譲ったスマホにある各種データが基地のコンピューターに共有される。
そこにあったのは水着姿の啓太(と友人)の自撮り写真であった。
「間違えました。」
そこにあったのは、『近代兵器に関する考察』、『宇宙戦艦ヤ○ト』や『産業革命と近代文明』などの各種電子書籍のデータだ。これは啓太が主に趣味や暇つぶし、一部は学生時代に勉強のため購入していたものである。
「あら~本当ね」
「スゲえな。これがマスターの世界か」
「こう見ると科学技術のみでボク達の文明と遜色ない程度まで発展していたんだね。」
「これを参考に装備品を整えようと思います。基地の生産施設は使用可能ですね?」
「問題ないわよ。魔力リアクターもちゃんと動いているし、各種原材料も保管状態は良好よ~」
マリオネット達の会議は続く。
なおJC14強装歩兵には、このスマートフォンのデータにあった『女子高校生』と言う項目により衣服が作成される事になった。
また『銃火器』のデータ及びヴァーミリオンのいた可潜艦ミューラーより見つかった武器類の解析も進んでおり、拳銃やライフルなどの実弾兵器がJC14用に製造されることになった。
新世界の神になる!
なぜ型番にアルファベットやローマ数字が使われているのか深く考えてはいけない。お兄さんとの約束だ!
ちなみにJCはジョイントコマンド(統合軍?)の略。女子○学生ではない。




