60話 あなたの名は3
巨大冷蔵庫……もといマリオネットのメンテナンスポッド。フロント部が開き中の様子が露わになる。中に入っていたのは、
「では主様後ろを向いていてください」
グキッ! といいそうなほどの早業でシアンさんの手が俺の頭に伸びそのまま後ろを向かされる。イテテ……
まあ過去2回の遭遇から分かっていたことだが、多分あの中にいるのは全裸の女性だろうだからな。
「あら~、ここは?」
後ろからシアンさんの物とは違う妙にのんびりとした声が聞こえてきた。
「はい、あなたはこれを着てください」
そう言って何やら後ろでガサガサとやり始めた。衣服をあらかじめ用意していたのだろう。つまり今の状況は周到に用意されたものであり、俺がマスター登録すると言うことはシアンさんの中では既定路線だったわけだ。
「上手くいったな。スルーズ連邦製の新型だ。しかも新品だぜ。」
「第二世代型人型戦闘機か、実在したんだねえ」
後ろ……入ってきた通路を向いている俺にそんなことを言いながら近づいてくるレイヴンさん達。何がやったのか知らないがレイヴンさんが綺麗な顔でサムズアップを決めている。
俺は恨めしげな目でレイヴンさん達を見る。
「まあ騙し討ちみたいになったのは悪かったよ。良いじゃねぇか1人や2人増えたって!」
「どーんと構えていこうよ!」
気まずいのか2人が色々言って誤魔化そうとしてくる。バンバンと背中とか叩いてくるし。
後ろからは衣擦れの音が聞こえてくる。
そうしてしばしの沈黙が続いた。
さて、着替えも終わったらしく全員で席を囲む(そこら辺にあった椅子を集めた)。
この部屋に保管されていたポッドから出てきたのはやはりと言うか人型戦闘機であった。シアンさん達とは別の国――スルーズ連邦製の機体だそうだ。まあ違いなんて分からないんだけれどね。
アークトゥルスさんはシアンさん達より若干年上に見える黒髪美人だ。シアンさん達に負けず劣らずのスタイルを誇っている。そうしてメイド服だ。
……シアンさんは一体いくつのメイド服を買っていたのだろうか。ついでにシアンさん達もそうなのだが胸やお尻の辺りがパッツンパッツンなのが目に毒なのだが。
「【アークトゥルス】と申します~。よろしくお願いします~。えっと機体指揮権保有者はあなたですよね?」
「え? あ、はい秋月啓太と申します。」
なんだかおっとりとした人だ。垂れ目だし雰囲気とかと相まって、癒やし系とでも言うのだろうか。絶対マイペースな人だコレ。
「まあ、ケイタさんですか? アキヅキさん?」
「あ、秋月が名字で啓太が名前です。」
「そうなの~じゃあ……『けいちゃん』って呼ぶわね~。私も名前が長くて呼びにくいでしょうから『アーク』って呼んでくださいな」
異性をいきなり愛称呼びとかどうよ? 女友達すらいない(いや、普通に話とかはするがそこまで仲の良い子はいなかったという意味でね)俺にはハードル高くない? ……まあ別に良いけど。慣れる云々じゃなくて諦めの境地だ。まあマリオネットって個性的な人が多いからこんな感じなのだろう。
「アークトゥルス。私はアトランティア王国製マリオネットである【シアン】です。あなたも主様の指揮下に入ったのです。これから共に主様の権力基盤強化に向けて邁進しようではありませんか。」
「あー……、まあコイツの言うことはともかくマスターの指揮下に入ったんだしよろしくな」
「ボクは彼の指揮下って訳じゃないんだけれどよろしくー」
皆がそれぞれ声を上げていく。それをニコニコと聞いているアークトゥルスさん……愛称、アークさん。
「ちょっと待ってね~……」
そう言うと、少し上を向きボーっとしているアークさん。
「ねえ、何してるんだろ?(ヒソヒソ)」
「どっかにアクセスしてるな……ここの中枢か?(ヒソヒソ)」
何やら心ここにあらずのアークさんの様子を見て隣にいたレイヴンさんに聞くと何やら通信中らしい。ああ、あるよね。電話してたら周囲の様子が見えなくなるとか。歩きスマホダメ! 絶対!
「……なるほど~。大体分かりました。データの一部に改竄の跡が見られて違和感がありますが、重要な部分は無事だったので~」
「……(ギクッ!)」
アークさんの言葉になぜか少しビクッとするシアンさん。何かやったらしい。
「さてさてでは私のことはもう知っていると言うことですよね~」
「ええ、大体は。」
「では私達の母国が衰退した理由については?」
「そちらは知りません……知っているのですか?」
「データが残っていましたので~。共有しますね。」
何やらシアンさん達の間でやり取りがなされている。会話の内容は聞こえてくるのだが所々しか分からない。その後、皆が無言になる。そして、
「そうですか。」
「はあ……マジか」
「ボクは知っていたけどね」
「は? 聞いていませんが?」
「だって言われなかったもん」
何やらやり取りのあと、シアンさん達が納得したと思ったら、今度はヴァーミリオンさんが何やら言い出した。
結果としては古代魔法文明の滅亡理由についてだった。シアンさんとレイヴンさんは知らなかったが、この基地のデータバンクには残っていたのでそれをシアンさん達にも共有出来るようにしたらしい。そうしたらヴァーミリオンさんは知っていたが聞かれなかったので言わなかっただけだと言い出してシアンさんが問い詰めたと。
俺だけ置いてきぼりになってしまった。まあ別に古代魔法文明の滅亡理由について聞かされても何が出来るわけでもないのだが。暗い話になるだろうし聞かなくてもいいや。
「あーと、それで話し合いはいいのかな? 俺はこれからどうすれば良い?」
俺はこれからどうするべきか聞いてみたのだが、
「まずはこの基地の機能を復活させるべきでしょう。何かするにしても手札は多い方が良いかと」
「じゃあさ、まずは隣に行こうよ。あそこにはいっぱいいるし。この人数だと基地の機能の復旧は無理だよ。」
「分かりました。では行きましょうか」
「え、あの、何?」
俺は何が何だか分からない。この施設の復旧は分かったが、またこれからどこかに行くらしい。
「まあまあ、ここは素直に従っとけ。どうせ後で分かることだ」
レイヴンさんがそんなことを言いながら肩にポンと手を置いてきた。
別の格納庫に移動するらしい。そうして皆が移動し始める。
「改めて自己紹介を、私はM2統合管制用人型戦闘機【アークトゥルス】です。あ、マリオネットⅡというのは第二世代型と言う意味で――」
移動中にアークさんから詳細な自己紹介を受けた。と言ってもそこまで知識があるわけではなく俺に必要な知識は名前と後は戦闘力ぐらいだろうか(本当はスリーサイズも知りたいけどシアンさん辺りに怒られそうなのでやめておく)。
アークさんは情報処理能力が非常に高く、基本的には後方での作戦立案や他機体の管制などをメインの任務にしているらしい。それでありながらスペックはレイヴンさんに匹敵する物があるという事を誇らしげに語っていた。
おっとりお姉さんがドヤ顔で語る様は可愛かったので少々見とれて聞き逃した部分があるがまあ良いだろう。多分。
後、何か保護者権限がシアンさん達よりも限定されているとか言っていた。ロボットの反乱を危惧した科学者がなんとかかんとか。
とにかく主人に対してシアンさん達ほど依存しない? とかだ。
おっとりお姉さんポジの人




