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59話 あなたの名は2

 魔導人形という物に興味があって受けた依頼であったが、結局ドットカール博士に会うことは叶わなかった。非常に多忙な人らしい。対応してくれたのは研究所の職員だった。足に仕込んでいたオリハルコン板……クレジットカード程度の大きさだが厚みが薄く重さもそれほどではないものを差し出す。

 それを受け取った職員の方だが終始胡散臭そうだった。どうも偽物を持ってきたとでも思われているらしい。

「はい、確かに受け取りました」との言葉で依頼は終わった。……これは依頼成功なのか?


 よく分からないまま終わってしまった。その後昼食を挟んで依頼金をギルドから受け取る。依頼達成の紙も職員から貰ったし、その後ギルドからお金(かなりの大金)を貰えたので依頼成功なのだろうと思うのだが、どうもしっくりこない。


 昼食は見つけた食堂がことごとくペット不可だったので、屋台で買い食いした。


 そうして一息ついたところで重大なことに思い至った。依頼達成金がオリハルコン代金に見合っていない。その後調べたところオリハルコンというものは基本的に値がつかないほどの超高級品である(といっても需要と供給の問題で一応値段はつくが)。したがって依頼達成でかなりの大金を貰いはしたが正直オリハルコン相場の1/10以下の金額である。

 何気にオリハルコンを持っていたから受けてしまったが失敗した。オリハルコンの希少性をよく分かっていなかったと言うのもあるだろう。もう少し注意しよう。


 世間の厳しさを改めて学んだ日だった。



 そうして屋敷に帰ると、まだ工事中らしい。ただ一応夕食時には皆で食事をした。


「何気に寂しい物だなぁ」

「アォン?」

「分かっているんだよ。今までが特殊だったって。」


 シアンさん達がいないと結構寂しい物だ。いないのが普通だったのにな。そんなことをネルソンに話しかけるが分かっていなさそうだ。



 ◇◇◇



「主様、完成です!」


 翌日、朝食も食べ終わり、少し食後の休憩をしているとシアンさんがそんなことを言ってきた。そうして招かれた地下室。


 なんということでしょう! あの殺風景だった景色が今や……

 まあとにかく、地下室は劇的な変化を遂げていた。

 目の前に広がる景色はホテルのフロントのような空間であった。照明は謎の光源が周囲を明るく照らしている。床には絨毯のようなものが敷かれ、壁は清潔感のある白を基調とした壁紙で飾られている。

 最奥には以前に見たエレベーター扉がある。


「では行きましょう」


 そういうとシアンさんを先頭に皆歩き出すのでついていく。マリオネット3人組に続き、俺、ネルソンといった順だ。


「こちらの部屋自体がセキュリティーシステムを兼ねており未登録者が来た場合は警報を出します。」


 そういった説明とともに、地下室を進みエレベーター扉を開く。

 エレベーターの昇降機の中も整えられていた。


 全員が乗るとシアンさんがボタンを操作しエレベーターが動き出す。ボタンのあるところを見るとどうやら地下1階(いま俺たちが乗り込んだ階)と地下2階の二つしか行き先がないようだ。

 地下2階というのが例の何とか基地跡につながる所なのだろう。

 そうしてエレベーター特有の浮遊感を味わった後すぐに地下2階に到着したらしく、ポン! という音とともに扉が開く。


 そこで俺たちを待っていたのは……


 非常に明るい回廊であった。照明は付いたままで奥の方まで照らされている。

 シアンさんを見つけた場所がSF映画の敵宇宙船の船内とするならこちらは味方宇宙船の船内という感じだろうか。

 まあ現代でもこういった地下回廊はあるのだろう。研究所の地下室とか。


「主様、こちらへ」


 そう言ってシアンさんに呼ばれていって見るとそこには壁に埋め込まれた案内板のようなものが見えた。

 それをシアンさんが何やら操作している。案内板ではなく何かしらの端末だったようだ。そうしてブォンと言う音と共にそれが起動した。


「こちらがこの施設の全体像になります。稼働可能な施設は本来の地下部分の95%と良好です――」


 起動したそれは立体像を映し出した。3Dホログラフ映像の投影装置のようであり、表示されている映像がこの施設の外観なのだろう。表示されている映像はキューブ上の構造体が細い線で結ばれている。ルービックキューブや分子模型のような構造であった。

 立方体又は直方体が各区画でありそれをつなぐ細い線は通路だそうだ。

 現在いるところは居住区画となるらしい。その他に中央情報区画(CIC)や格納庫、さらには発電所(電気ではなく魔力だが)や生産ブロックなども存在し稼働可能なようだ。

 スルーズ連邦というのは世界最強の軍を持つ国らしく、この基地はこの大陸最大の駐留基地であるため地下施設の規模も段違いなのだとか。しかも非常に良い状態で残されていたらしい。


「一応前もって調査をしましたが、脅威と呼べるものは存在しませんでした。今日は主様にも確認頂きたい区画を案内します。」


 ちなみにこの施設に人間はいない。シアンさんが述べるところ、いた痕跡はあるのだが、何せ3000年前のことである。施設は魔法と科学技術を合わせることで何とか生きながらえたが、人間は寿命以前に食料が持たなかっただろうと。


 そうして3D映像を使用し、それぞれの区画など簡易説明が行われる。今回行くところは格納庫区画だそうだ。一応事前にシアンさん達が下見したが、各種兵器や車などかなりの物が残されており、かつ、使用可能だそうだ。

 今日はここを紹介して終わりだそうだ。そもそも基地の広さからして人間が1日で回れる広さではない。ここを2日で確認し終えたシアンさん達はどの程度のスピードで行っていたのだろうか。


 まあとにかく、俺たちはエレベーターで降りてきた居住区画を歩き進んでいく。やはり回廊は地下らしく窓が無いが、圧迫感など微塵も感じさせないほど広々としており又照明で明るく照らされ清潔感があった。本当にこれが3000年前の物かと思わせるほどであり、魔法って凄いなと思わせられる。


「疲れた……」


 もう結構歩いたのだが、まだ着かないらしい。最初に伝えられていたため納得の広さであるが、軍事施設なんだろ、緊急時とかどうするんだろうか? スクランブルとか出来ないんじゃなかろうか。

 あと周囲の景色が変わらないのが何気につらい。同じ所をぐるぐると回っているように錯覚する。迷ったら大変だろう。



 そう感じること又しばし、ようやく着いたらしい。体感で1時間ぐらい歩いたんじゃないだろうか。

 シアンさんに聞いたら約30分だった。思ったより短かった。


 そうして着いた格納庫区画であるが、どうも思っていた物と違う。軍事基地の格納庫と聞いていたので鉄骨むき出しの簡易の建物に重機が並んでいたり、飛行機が止めてあったりという感じを想像したのだが、


「それは後で行きます。まずはこちらへ」


 思ったより狭い所だった。それでも講堂ぐらいはあるが。周囲には何やら怪しげな機械が、……アナログ計器からデジタルパネルまで様々な物がある。


 そうしてその奥に鎮座する一際目立つ大型機械。計器類は全てそこにつながっているようで床はコード類が無数に這っていた。

 大型機械と言ったがそもそも何の機械なのかが分からない角の取れた立方体なのだが……見た目は大型冷蔵庫とかそんな家電製品のようにも見えるのだが。表面には何らかのマークや数字が書かれている。


 嫌な予感がヒシヒシする。


 て言うかこれアレじゃね? アレだよね絶対。


「各種セッティングは完了しています。後は魔力登録による指揮系統の明確化を行うだけです。」


 そう言いつつ、横に置いてあった何やら怪しげな機器を持ったシアンさんが近づいてきた。後ろを振り返ると通路がレイヴンさんとヴァーミリオンさんによって塞がれている。2人は片手チョップとウインクで「すまん!」的アピールをしてくる。

 じりじりと近づいてくるシアンさん。


 や、やめろぉぉ! アッア゛ァァ―――――!!


ピッ!


「登録しました。」

「…………あ、はい」


 (心の中で)必死の抵抗虚しく登録されてしまった。被保護者がまた増えるという現実。

 いや、綺麗なお姉さんは好きなんですけどね。そうほいほい来られてもですね、心の準備という物がですね……


《――登録確認 マスターコード認証 機体状態良好――》


 目の前にあった大型冷蔵庫みたいな物――まあ十中八九マリオネットのメンテナンスポッドだろう――から機械音声が流れ出す。


《――各種コマンドは正常にインストールされました M2統合管制用人型戦闘機 機体名称【アークトゥルス】起動します――》


 音声が流れ終わると、ガシュッ! と言う音と共にメンテナンスポッドのフロント部分が開く。

 そうして中から出てきたのは――

一名様ご案~内

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