56話 在アヴニル・スルーズ連邦軍基地
さてここで地理のお勉強の時間だ。
俺たちが呼び出されたこの世界であるが、この世界の人達は自分の住む世界を「ヘオニス」と呼んでいる。これは古代魔法文明時代にはこの惑星を指す呼称であった。
この惑星「ヘオニス」には複数の大陸があり、今俺たちがいる大陸は「アヴニル」と呼ばれている。
古代魔法文明時代、このアヴニル大陸には「アトランティア王国」と呼ばれる強国があった。そう、シアンさん達を製造した国だ。
だが世界的に見ればこのアトランティア王国というのは技術力こそトップクラスであったが国の規模としては中規模であった。
対して、古代魔法文明時代、最強の国家があった。「スルーズ連邦」と呼ばれる他の大陸にある連邦制国家である。この国は現在のアメリカのように同盟国のある各地に駐留軍を置いていた。その一つであり、アヴニル大陸最大の駐留基地が「在アヴニル・スルーズ連邦軍基地」である。
終わり。
何が言いたいのかというと
古代魔法文明……しぶとすぎじゃね? 後、なぜ俺の所に集まってくるのか?
俺が日本に帰った後のことを考えているのか?
確かに、シアンさん達のような綺麗な女性と知り合いになるのは悪い気はしない。いや、正直に言おう。ウッキウキだ。お友達になれれば勝ち組の仲間入りだし、恋人にでもなれればもはや言うことは無い。その先も……なんて考えたこともある。
でも、そう言うのでは無いのだ。何というか、俺とシアンさん達の関係は複雑だ。俺の方が一応の保護者だが彼女たちの方が遙かに役に立つし頭も良い。彼女たちには高度な自我があるくせに主従関係を求めてくる。別れる際に「はい、さよなら」とはいかないのだ。
「あの……古代魔法文明とかマリオネットとかお腹いっぱいなのですが」
「まあ、そう言うなよ。人手は多い方がいいだろ。いなくても、資金は稼げるだろうしな。」
何か人ごとのようにレイヴンさんが言ってくるんだが。
何がいるというのか……勿論アレだろう。
(なあ、シアン。なんでそんなに集めるんだ? 明確な敵のいない今は必要ないだろ。)
(情に訴えるのです。主様は良くも悪くも普通の人間です。仲良くなった多数の女性を振り切れるほどの度胸があるとは思えません。レイヴンも主様に帰って貰うのは困るでしょう)
(まあ……一応な)
(逃がしませんよ。フフフ)
(何か怖いぞ、お前)
(真面目ちゃんは病むのも早いよね~)
などというマリオネット達の悪巧みなど知るよしも無い。
さて、途中に昼食を挟みながら購入した屋敷にやってきた。
デカい屋敷だ。両隣合わせて3軒を買い取っている。屋敷の整備などは誰がやるのだろうか。
「必要なのは土地です。場合によっては建物は潰してもかまいません。」
とシアンさんが言っていた。
そしてそこからは別行動となった。シアンさんとレイヴンさんは購入した屋敷の地下を調査するらしい。ここに俺の入る余地は無い。
その間、俺は別の作業をすることにする。幸い装甲車の運転が出来るヴァーミリオンさんが一緒に来てくれるらしい。
と言っても明日のことであるが。
今日はもう日も傾いてきたし、屋敷を確認してそこで休む事になる。
庭に装甲車を止めて食料品などを下ろす。今夜も車中泊だ。なんせ屋敷はあるが家具類などは購入していないので。
一応中央の屋敷の中に入り、内部の状況を確認。その結果、綺麗な状態に保たれてはいた。ベッドは骨組みはあったのだが敷く布団が無い。その他、大きくて持ち出せなかったと思われる棚類なども残ったままだった。勿論中身は何も無い。
「建物を全て潰すのはどうかと思うんだよ。俺等の住む場所も必要なわけだし。」
「地下施設とのアクセス部はどうなんだ? 予想できるだろ?」
「大型の資材搬入口と思われる物はここではありませんでした。地下室にある床板を全て剥がして地下施設の外装を確認しましたが、一カ所に偽装されたアクセスハッチを確認しました。カモフラージュのためにこの家を残しておいた方が良いかもしれませんが……主様はどう思います?」
「どう思いますって……どういうこと?」
「この建物の地下室にさらに地下に行く扉が見つかったてことだ。この建物は残しておいてもいいんじゃ無いか? 偽装的な役割も込めてさ」
「まあ、ボクたち以外にこの事を知られると面倒事になりそうだよね~」
皆が思い思いの意見を言っていくが俺としてはせっかく購入した屋敷は残したい。と言うか住んでみたい。でっかい洋館でしかもマイホームとか憧れる。
古代魔法文明? そちらはシアンさん達の好きにしていいよ、もう……
◇◇◇
結局、建物は俺たちの拠点として残して、両脇の塀を除去して一つの大きな敷地にすることになった。建物は残しておいて、地下施設に合わせ結合――敷地を覆うほど大きな1軒の建物として再構築するなどと言うことも考えているらしい。
あと地下施設全体で言うと、俺たちの購入した土地はほんの一部だったそうだ。地下施設はかなり広く街の外――コロッサスの人間が管理していない所――まで広がっている。
一晩経って本日の予定であるが、シアンさん達は、地下施設が生きているか確認した後は屋敷の地下室を地下施設とのアクセス部としてそれなりの準備を整えるとのことだ。
対し、俺はヴァーミリオンさんに装甲車を運転して貰って資金調達と買い出しだ。資金調達はベルクさんに書いて貰った紹介状で高級店に行きシアンさんの持ってきた古代魔法文明製の武器の売却。買い出しは購入した屋敷の家具類だ。
まずは高級な品を扱っている店に向かう。武器類いではあるものの貴金属として売った方が良いのだろうか。そう思い、街の中心部近くにある、家具から装飾品などを扱っている高級店、その中でも最も大きな所に入っていった。
「いらっしゃいませ。……失礼ですが、どちらの家の方でしょうか?」
「あ、えっと啓太と言います。……冒険者をやっていて……」
「冒険者の方でしたか。すみません、こちらは貴族様など向けの高級品を扱う店舗となっておりまして……」
営業スマイルで対応する店員であるが、冒険者だと聞いた瞬間笑顔が引きつった。
「あ、はい、実は売りたい物がありまして、あと、こういった物もあります」
そう言って胸ポケットからベルクさんの紹介状を取り出した。
受け取ったそれが何かを理解した店員はビックリしたような顔をしている。
「申し訳ありませんが、少々こちらへ」
そう言ってここでも個室に通された。後ろを武器類を持ったヴァーミリオンさんが付いてくる。ここで全ての在庫を売却する予定だったのでかなり大きめの荷物になっている。自然に女性に荷物を持たせているのはなぜかって? 俺じゃ重くて持てなかったからです。
個室で待っていると、先ほどの店員とは違う上品な初老の人が入ってきた。
「失礼いたします。ケイタ様でございますね。本日は売却にやってきたと聞いておりますが」
「はい、そうなんです。こちらなのですが」
そう言って、ヴァーミリオンさんが持っていた武器類を商談用テーブルの上に置いた。
「これは武器ですか。ベルク様の紹介状があるので配慮はさせて頂きますが、武器類でしたら私どもでは無く専門の店に売った方が良いのでは?」
「最初はそう思っていたのですが、こちらは私が冒険者としての活動する中で見つけた物で、全て古代魔法文明産の物になります。なので、装飾品としての価値もあるかと思いまして。」
「な、なんと! こ、古代魔法文明……そ、その、〈鑑定〉しても?」
「はい、問題ありません」
一応持ってくる際に全てに〈鑑定〉を掛けてどんな物か確認しておいた。全てミスリルやオリハルコン製、魔剣などではずれは無かったはずだが。
「お、おお……これ……これは……お、オリハルコンの…………こちらも…………こちらはま、魔剣!? ……な、なんと……」
〈鑑定〉している初老の人であるが。その手は震えている。「おお……」とか頻繁に口から漏れているし。
全てで20品程度あったはずだ。それらを全て鑑定し終えるのに数時間がかかった。
そうして鑑定を終えた老紳士の最初の言葉が、
「全て買い取らせて頂きたく。お願いいたします。」
そう言って突然の土下座である。
「ちょちょ、ちょっと、頭を上げてください。大丈夫ですよ。売るために来たのですから。」
「おお、ありがとうございます!!」
ものすごく感激していた。涙を流しながら大声でお礼を言ってきた。
「いや、これほどの物を持ち込んで頂けるとは。私も長いこと商売をやっているのですが初めてです。さすがはベルク様お抱えの冒険者でございますな。」
なぜか貴族のお抱え冒険者とされていた。ちなみにいくらぐらいになるのかと聞いたら。最低でも白金貨で1000枚はくだらないだろうと言うことだった。
えーと、白金貨一枚が…………1000枚だと…………円換算で約100億! 凄いどころじゃ無い!
「ただこれだけの物となりますと今すぐ売り手をと言うわけには参りません。先ほど言った金額も最低値です。ですので、もう少し詳しく鑑定し、また、販売先とも調整し値段を決めたいと思いますが大丈夫でしょうか?」
「は、ははは、はい、も、も、問題ありません。」
こちらもそれで問題ないので返事をすると――アホみたいな金額に盛大にドモってしまった。老紳士は一度席を外し紙の束を持ってきた。契約書の類いだ。目録を作成し、いつまでに売却金の何%を――、手数料として――など色々と書いてあったので、端から端まで読んだ後、さらに読み返し、ヴァーミリオンさんにも確認して貰う。問題ないとのことだったのでサインをした。なんせ100億の取引だ。間違いがあってはいけない。
そうして午前は終わりだ。諸々手続きなどで1ヶ月以上後になるだろうが最低100億円相当のお金が入ってくることになる。気分はウキウキである。
「良い取引が出来ました。今後とも是非、私達の店をご贔屓にお願いします。」
店を出るときなど、先ほどの老紳士――店長だったらしい――が握手を求めてきたほか、店員さん総出で見送ってくれた。
「いやー、高く売れたなー」
気楽な感じで言うが内心ビクビクである。挙動不審気味になっていないだろうか。冷静になるんだ、俺。いいことじゃないか。これでお金の心配をせずに調査に没頭できる。
「ほんとだねー。あんな物私達の時代じゃそこそこありふれた物だったのにね。」
「そういえばシアンさん達の作業は終わったのだろうか? と言うかもう昼すぎか」
「ご飯食べていこうよ。あ、あの店とか美味しそうじゃない?」
そんな会話をしつつ、俺とヴァーミリオンさんは遅めの昼食を取った。
ロボットの反乱はヤンデレの証




