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53話 コロッサス2

 翌日、ぐっすりと眠った俺たちは朝の速い時間帯から宿をチェックアウトして出発した。隊列は前日と変わらず。

 ただし、今日は俺にも話し相手として同乗のお誘いがきた。だが俺は馬車の乗り心地の悪さという物を知っていたのでやんわりと辞退した。それにシアンさん達も今日は装甲車の方に乗っていく。街へと到着した際に「知らない人が乗っている!」となっても問題だし。クリスティーヌさんは少し残念そうにしていた。

 そうして、出発したが俺はすることも無く、ネルソンを抱きながら景色を見ていた。気分はさながらオープンカー…………オープンする部分が少ないけれど。



 時刻は昼前だろうか、のんびりと景色を楽しんでいると、目の前に巨大な人口構造物が見えてきた。


「へー、あれがコロッサスか」

「大きいね。確か大陸でも有数の都市だったっけ」


 以前調べた際には、コロッサスは最前線に近い場所にありながらあらゆる最先端技術が集まり、また各国からの援助も盛んなため大陸最大級の都市の一つだという話だ。

 戦争が技術を進ませるという事を以前どこかで聞いたことがあるが、そういった物なのだろう。


 都市の外形が見えていたが巨大すぎるせいだろうか、行けども行けども近づいているように見えない。

 そうしてようやく都市の外縁に到着したのはかなり経ってからだった。


 この都市は拡大する度に外壁を広げていったのだが、やがて拡大速度に追いつかなくなったため、兵士の見回りを強化することと引き換えに増築をストップしており現在は都市中心の高級住宅街などとの仕切りとして活躍中だ。

 と言ってもまったく仕切りがない訳では無くて、都市の最外縁部には見落としそうなほど簡素な柵が設けられており、そこから建物の密度がはっきりと変わる。

 まあ、その柵について境界線以上の役割は無いのであろう。お約束の門番だのといった存在はいない。

 先行する馬車も多少速度を落としたものの、止まること無くコロッサスへと入っていく。


 コロッサスは学術都市と言うが最外縁部に住んでいるのは低所得者であり、中心に行くほどお金持ちになっていくというよくある都市なのだが、その低所得者層には貧乏学生も含まれている。ただ治安は非常に良いようだし、別にスラムとかそういった物も今のところ目につかない。


 ちなみにではあるが、研究機関や学び舎は高級住宅街の壁に関係なくどこにでも存在する。高級区画は主に資金の豊富な研究機関や、高名な学者などが拠点を持っていたりするし、逆に外縁部には採算度外視で自身の研究に熱中する者、未だ芽の出ない無名の学者など様々な貧乏学者がいる。学ぶ側も同じように中心には仕送りなどのある裕福な家の学生、外縁部は貧乏学生など。


 それにしても、じろじろとこちらを見ている視線が複数ある。最初は前のクリスティーヌさんの馬車を見ているのかと思ったが明らかにこちらを見ている。


「何か見られているね」

「あれは好奇の視線だな。アレだろ? この装甲車は珍しいって話だからそれじゃねえの?」


 同じくハッチから半身をさらしているレイヴンが答えてくれる。レイヴンさんは俺と違って観光では無く監視の意味で外を見ているのだが。

 しかし、そうかここは学者が多いって話し出し珍しい物に興味を引かれるのだろう。


 そうして複数の視線はあるものの貴族と一緒だからか言い寄ってきたりする者は居ない。

 徐々に景色も変わっていき、外観などより高そうで階層も多い家々が立ち並ぶようになってくる。たまに妙に高い家(それでも5~6階程度であるが)もあるが集合住宅であったりテナントビルのような物であったり様々だ。


 徐々に道も良くなっていき……石畳に変わっていたようだ。

 最初から馬車の往来を予想したように道も非常に広く作られている。人間は道の両脇を、馬車などは道の中心を通ると言うルールのようなものが見られた。


「このままついて行っても良いの? なんか壁みたいなのスルーしているけれど。冒険者ギルトとか宿とかどうするの?」

「報酬を未だ貰っていませんし、止められる気配もないし問題ないでしょう」


 車内では運転席にいるヴァーミリオンさんの問いかけにシアンさんが答えていた。

 さて、そんな会話が示すとおり今し方外壁にある門をくぐった。この外壁は先に述べたとおり仕切りとしての役割しかしていないため門としては機能していない。それにこの都市の性格上高級区画にある講義に通う貧乏学生などという者も存在するため(またその逆も)でもある。

 それにいきなり景色が変わったりもしない。結局中心に行けば行くほどお金持ちになっていくのだろうが、壁の付近なら内外で明確な差があるわけでもない。


 そしてここでも変わらず、興味深そうな視線で俺たちの乗る装甲車を見てくる人が一定数いる。


 そうしてかなりの時間をかけて、街の中心部に到着した。


 中心には大きな建物が建っていた。

 この街の行政府だろうか。でも、見た目はお屋敷のようで塀も存在する。

 

 そこでようやく馬車が止まったので俺たちも続いて止まる。

 止まった馬車からセバスチャンが降りて門の所にいた警備員に話しかけるとすぐさま門が開かれた。そうして、後ろにいる俺たちにも付いてくるように合図をすると馬車は屋敷? の中へと入っていった。


 そうして屋敷のすぐ前まで馬車で乗り付けたわけだが……


「こちら、車庫に回しておきますので」

「ありがとうございます。しかしこの魔導馬車は通常と操作が違いますので、こちらで行いますよ」


 海外の高級ホテルなどで見る客の車を車庫入れしてくれるサービスマン(名前は知らない)がやってきたが、この装甲車、魔導馬車では無いため操作方法が異なっている。結局、ヴァーミリオンさんが車庫入れして別途案内という形になり。俺たちは降りて、セバスチャンの案内の元、クリスティーヌさんと合流、その後に付いていった。



「「「お帰りなさいませ。お嬢様!」」」


 クリスティーヌさんの後に付いていったのだが、屋敷の扉を開いたクリスティーヌさんを待っていたのはビシッと左右に並んだ使用人達の声を揃えたお出迎えだった。


「今日はお客様がいるわ。案内をお願いできるかしら」

「承知しました」


 堂々としたクリスティーヌさんはそんなお出迎えをものともせずにツカツカと屋敷の中に入っていく。

 外から見た感じもそうであったが、内装もTHE洋館という感じだった。実際に目にしたことは無くともネットやテレビでは何度も見たことがあると言えば分かるだろう。と言っても俺は異世界(こちら)に来てから、実際に何度か目にしているのだが。


 そうして驚いたことに出迎えてくれる使用人集団に明らかに人間ではないものが混ざっていた。見た目はデパートのマネキンである。それが使用人の服――タキシードであったりメイド服であったり――を着て並んでいる。

 勿論見栄を張ろうとマネキンを並べているわけでは無くちゃんと動いている。声が出ているのかは分からないが。

 そう、アレは以前に名前だけは知っていた魔導人形(オートマタ)と言うヤツであろう。見るのは初めてだ。こんな感じなんだなぁ。見た目マネキンが動いている様子というのはなんだか妙な感じであった。マネキンは動かないという固定観念があるからだろうか、非常に奇妙な感じがする。ちょっと……夜中に見たらチビるくらいには怖い。


「フフフ、魔導人形(オートマタ)が珍しいですか?」


 振り返ったクリスティーヌさんがそんなことを問いかけてくる。


「あ、はい。知識としては知っていましたが目にするのは初めてでして」

「そうでしょう。この屋敷にはかなりの数の魔導人形(オートマタ)がいますからね。しかもこれらは全てあのドットカール博士の作品ですから。お父様が収集家なので。」

「凄いですね」


 ドットカール博士という人が誰かは分からないが、とにかく凄いのだろう。確か魔導人形(オートマタ)というのは人間に近い外見、動作により値段が跳ね上がるらしい。ここにあるものがどの程度するのかは知らないが、低いグレードの物でも一般人が気軽に購入出来る物では無い。


「お嬢様、お着替えを」


 使用人の一人がクリスティーヌさんに声をかけると、彼女は「では後ほど」と言って行ってしまった。

 一方、後を付いていた俺たちには中年のメイドさんが「こちらへ」と声をかけてきた。応接間に案内してくれるという。




 そうして豪華な客間で待つこと少し。

 本業のメイドさんが紅茶を出してくれたのでちびちびと飲んでいたら、ガチャッと扉が開いて入ってきたのは……


「おいてかれてプンプンだよー」


 ネルソンを胸に抱いたヴァーミリオンさんだった。

 ネルソンはさすがに屋敷に入れないんじゃないかと思い置いてきたのだが、ネルソンはヴァーミリオンさんに抱かれたままこちらを不服そうな目で見ている。


 シアンさん達は部屋に入ってくるのがヴァーミリオンさんだと分かっていたようで扉の方を見て緊張したのは俺だけだったようだ。

 そうしてヴァーミリオンさんも合流してソファーに座る。非常に大きなソファーで4人がそろって座っていても余裕がある。

 ネルソンはソファーの隣でお座りしている。賢いな。

 

 所でなぜヴァーミリオンさんは俺とシアンさんの間に座ろうとするのだろうか? 座れるほど開いてないよ。何かシアンさんがぐいぐいとこちらに寄ってくるし。

 結局無理と判断したのかヴァーミリオンさんは端に座って同じように紅茶を飲み始めた。


 しかし皆、紅茶を飲む作法一つとっても優雅だな。俺だけ場違いな感じがする。

 皆喋らないし、紅茶を飲むときも音一つ立てない。

傍らには本職メイドさんが控えていて紅茶が無くなったら注いでくれるが、それ以外は沈黙だ。紅茶は美味しいのかも知れないが、緊張してあまり味が分からない。


 そうして少し緊張した時間が少し、そろそろ同じ姿勢でいるのがムズムズしてきた頃、扉がノックされる。


「失礼いたします」


 男性の声が扉の外から聞こえてきた。

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