52話 コロッサス
貴族の乗っている馬車に速度を合わせているものの、それでも長距離ランナー程度の速度は出ている。馬車というのはもっと遅いイメージがあったのだが意外だ。
先ほど馬車の護衛の人に聞いてみたところコロッサスへは明日の昼頃に到着予定だそうだ。結構近いところまで来ていたのだと驚いた。
今晩は、途中にある大きめの街で一泊するようで、もう既に話は通っているとか。勿論彼女たちの方が、と言う意味で。俺たちの方は初見なので別途宿探しが必要であるが。
街について、宿探しをと思ったがそういえばシアンさんが彼女たちの馬車に乗ったままだったのを思い出し、そのまま彼女たちの泊まるという宿屋までついて行くことに。
しばらくして見えてきたのはこの街では一番高級そうだと思われる建物だった。その建物前で俺たちも止まり前の馬車からシアンさんが出てくるのを見ていた。
シアンさんは少し疲れたような感じだった。道中のスキンシップが激しかったそうだ。
合流したシアンさんの話では向こうの奢りで「同じ宿に泊まりましょう」と言われて了承したそうだ。
余談ではあるが、ヴァーミリオンさんも車庫入れが上手かった。
あと、ネルソンについては厩舎の方で勘弁してくれと言われているので、そちらにいる。食事もちゃんとした物を与えると言われている。俺たちの立ち位置は貴族の客人なのでおそらくそのペットなどでも粗末には扱われないだろう。
「夕食も誘われていますし、その方が都合が良いかと。後、お話ししたいことが。」
そう言うシアンさんと一緒に宿の中に入っていく。
勿論、俺はシアンさん達とは別の1人部屋であるが話したいことがあると言うのでシアンさん達の部屋を訪ねていた。
さて、ここに来る途中、シアンさんとクリスティーヌさんにより有意義な話し合いとやらが行われていたそうだ。
「まず、主様に相談もせずに決めてしまったことには謝罪いたします。――――」
別に謝罪の必要は無いのだが、話が進まないと考え、受ける。
謝罪を受けた後、話し合いの内容が語られる。
まず、道中のモンスター退治によりクリスティーヌさんを助けた件について、礼金では無くコロッサス内の住居を紹介して貰うと言うことで方向がまとまっている。これは、我々の旅の目的――地球への帰還方法の調査――の観点からコロッサスには長期滞在が予想されること。そのため、宿に長期間宿泊するよりは借家などの拠点を構えた方が活動しやすいのでは無いかという考えにより、シアンさんから提案したそうだ。
もう一点、クリスティーヌさんのお父さん……コロッサスの領主についてであるが、クリスティーヌさんが珍しい品があれば父親へのお土産としたいので譲って欲しいというようなことを言われているらしい。これについてシアンさんが了承した。もし価値のある物であれば、先の物件の件について最大限の便宜を図ると言ってきている。場合によっては資金全てを出しても良いとまで。
「オリハルコンなどの武具を譲ることを検討しています。」
シアンさんのいた施設から持ってきて死蔵していた武具類があるのでそれを渡そうというのだ。勿論問題ないので了承した。
この世界ではオリハルコンやミスリルは希少品であり気に入って貰えるであろう。
シアンさんには、場合によっては貴族の庇護や後ろ盾を得られると言う目論見もあるそうだ。そうで無くとも領主なのだから良好な関係を気付いておくのは損にはならないだろうと。(よほどあくどい人物の場合を除いて)
その他には、色々と馬車の中で話したのだが、基本的にはぼかしている。シアンさんの正体であるとか、俺の正体であるとか。
また、ここでも俺たちの乗っている魔導馬車が非常に珍しく譲って欲しいと言外に言われたらしいがそこは拒否した。その後の追求(魔導馬車の出所など)が大変だったらしい。
◇◇◇
お呼ばれしている夕食の席に、俺たちは死蔵していた武具類の中から比較的豪華な見た目の(領主が剣を振るうわけも無くおそらく飾っておくであろうことから)オリハルコン製の種類の違う剣(両手剣と短剣)を2振り選び持って行く。
そのついでにネルソンを見てきたが、ホテルマンが緊張した面持ちで夕食を与えていた。あれは貴族のペットだと誤解しているのだろうか。
「お招きいただき、ありがとうございます。」
相手は貴族なので、着席の前にお礼を述べお辞儀をする。そうして持ってきた剣を差し出す。
「シアンさ……の方から話を伺っています。こちらは俺たちが冒険中に古代魔法文明の遺跡で見つけたオリハルコン製の剣です。もしよろしければこちらをお父様へのお土産としてはいかがかと」
「まぁ! 古代魔法文明の遺物。オリハルコン製の剣ですって!」
先に来て優雅に着席していたクリスティーヌさんであるが、剣の事を聞くと大きな声を出し立ち上がった。
「セバスチャン、鑑定を!」
「はい、お嬢様」
立ち上がり俺から剣を受け取ると、斜め後ろで綺麗な姿勢で立っていた執事(と思われる人)に声をかけて、さっそく鑑定させている。
後ろにいた人はセバスチャンと言うのか。非常に執事っぽい名前だ。
それにしても鑑定スキルか。アゲアゲさんといいよくあるスキルなんだなあ。
「おお!……どちらも本物でございます。お嬢様。」
鑑定していたセバスチャンであるが目を見張り感嘆の声を漏らす。
「まあ、本当にいただいてもよろしいの?」
「これほどの物……何か裏があるのでは?」
セバスチャンが一瞬思案し何か勘ぐり始めたが裏なんてない。むしろ貰ってくれという感じだ。
「いえ、実は以前商人に適正価格が分からないと買取を断られてしまいまして。クリスティーヌ様はコロッサスでの住宅を手配してくれるとのことですので、あわよくば資金も出していただければと……その程度の考えですよ。」
「なるほど、分かりましたわ。コロッサスでの物件はこちらですべて面倒を見ましょう。」
「ありがとうございます。」
こうして、在庫がはけると同時にコロッサスでの拠点のめども立ったのだった。
その後の夕食は、クリスティーヌさんと俺たちでテーブルを囲って食事をとった。執事やメイドさんは立ったままだったし、ほかに客が見当たらなかったのだが(宿自体が貸切だったらしい)
食事はさすが貴族が泊まる宿だけはあり非常に美味しくボリュームもあった。ただ主食はパンなんだよね。こちらに来てからお米を食べていないな。別に絶対必要というわけでは無いが、食べられないと分かると無性に食べたくなるよね。
まあそんなことより今は目の前の食事だ。
その後はクリスティーヌさんの態度がなんだか柔らかくなった。これがオリハルコン効果だろうか。金で態度を変えたと思うとちょっとアレだが、多分俺の考えすぎだろう。
そうして食事をしながら会話をしていたのだが、古代魔法文明の遺跡の冒険話などを聞きたがってきた。冒険者と言うことで、おそらく凄い冒険をしてきたとでも思っているのかも知れないが、そんなことは無く全くの偶然なのだが。死にかけたという意味では冒険と言えばそうかも知れないが話すようなことでもないし。
結局、話はしたが内容は「偶然」や「運が良かった」という評価が付いたかも知れないと思うようなものだ。




