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51話 新たなる出会いVer.5

「ネルソンはお利口だね」


 犬はあの後、出発する俺たちに着いてきた。

 出発しようと装甲車に乗り込んだら最後尾に当然のように着いてきた。意思疎通は完璧だったという証拠だろうか。

 今日の運転はヴァーミリオンさんが行ってくれている。ちなみにこの装輪装甲車の運転は俺はしたことが無い。車の免許は持っているので、出来ないことは無いだろうが……。今度、時間のあるときにでも習ってみるか。


 徐行程度の速度であるが、それでも一日中走り続けられるというのは機械のよい点かも知れない。燃料も魔力でありシアンさん達により補給が可能だ。


 犬にはネルソンという名前を付けてあげた。さすがにずっと犬呼びでは俺たちの方が混乱する。昔飼っていたカブトムシに付けていた名前だ。確か力強そうだとかそんな理由で名付けたものなので犬に付けても問題ないと思って同じにした。世界のビッグセブンから貰ったんだったかな。

 ネルソンは2人分の席を陣取り俺の膝を枕にしながら目を閉じていた。レイヴンさんが脇腹をつついている、ネルソンは器用に尻尾を振って手を払おうとしている。


「少し先で木が途切れています。視界も開けてきましたし、もう少しで森を抜けます。後は道に合流できればよいのですが」


 車長席から外を確認していたシアンさんの声が聞こえてきたので、上部ハッチから顔を出して前を見てみる。確かに遠くを見ると木々が途切れているように見える。

 後、急に立ち上がったため、ネルソンが何か言いたそうな目でこちらを見ている。

 シアンさんが言っていたとおり少しすると木々が途切れ、見渡す限りの草原に出た。


 木はないものの草原はかなり広い範囲に広がっており、また地面の起伏もなだらかだ。これだけの平野、しかも植物が青々と育つとなれば街やせめてそこに続く道などあってもおかしくない。


「……斜め前方に複数の人間らしき反応がありますね。狭い範囲に纏っているので通行人かと」

「え、本当?」


 いきなり良い報告。少し進めば道があるのだろう。道があるなら後はそれをたどっていけば街や村にたどり着ける。そこで、詳細な現在位置とコロッサスへの道のりを再確認し、進んでいけば……


「あー、でも変な反応もあるな。動きもおかしいし……多分戦闘中だろこれ?」


 後席でネルソンの頬をみょーんと伸ばしていたレイヴンさんがそんなことを言ってくる。その緊張感の無さとは無縁な内容だ。


「それは不味いな。相手は何?」

「丘が有り目視できませんが、エネルギー総量的には相手は大型の魔物かと思われます。」

「うーん、一応助ける用意しておこうか。恩を売れるならその方がいいし」


 まあ、戦うのは俺では無いのだが。その声を聞いて、レイヴンさんが装甲車の屋根に上り武器を手に取った。シアンさんもいつでも駆けていけるように体を緊張させている。

 俺はと言うと何とかその状況が見えないかと装甲車から身を乗り出している。その横からネルソンも身を乗り出そうとしてくる。ハッチ狭いのでやめてもらえませんか。


 そうしてなだらかな丘を越えて状況が見えてきた。

 予想は大体当たっていて、幅がそこそこ広い道があり、そこに人間の集団がかたまっていた。中心に箱形の屋根付き馬車など3台が止まっており、その周囲に兵士のような武装した人間が20名近くいる。馬に騎乗している人も3名ほどおり、それらの目の前にはティラノサウルスのようなもの(・・・・・)がいた。

 図鑑で見たティラノサウルスのようなのだが、なぜか頭と尻尾が2つある。

近くの人間と比較して非常に大きい。実物は迫力が違う。

 なお戦況は非常に悪い、見える範囲で人間の方の半数が地面に倒れており血を垂れ流していた。対するティラノサウルスモドキはほぼ無傷。

「槍を突き出して構えろ!」「うろたえるな!」「馬車を逃がせ!」など馬に乗った男達が声を張り上げている。


「スペシャルズですね。地竜種の一種ですが、弱い部類です。ただし魔物としてみれば走攻守とも非常に高いステータスを持っており脅威です。」

「人間の方は、装備が統一されてるな。ありゃ正規兵か?」


 レイヴンさんの予想通り武装した人間の方は装備が統一されている。となると、中心にいる装飾された屋根付き馬車は政府関係者などの要人と言ったところか。

 あと、スペシャルズってモンスターの名前ですか? 複数形になっているのは頭が二つあるからか。


「あれはマズいよな。加勢してあげたいんだけどシアンさん、レイヴンさんお願いできる?」

「「大丈夫 (です)」」


 ここで自分が出て行くとは間違っても言えない。あんな怪物を相手にすればジュラ○ックパー○でトイレに逃げ込んだオッサンのようになること請け合いである。情けないとは思わない。俺は自分の能力を過大評価しないのだ。決してビビった訳では無い。


「じゃあ、ヴァーミリオンさん。あの戦っているところの手前まで行ってください」

「了解~」


 そう言うと装甲車は速度を上げ、一気に丘を下ってゆく。

 道で戦っている人たちもこちらの方に気付いた用で顔を向けようとするが、ティラノサウルスモドキが強くて視線を外せない。


 ティラノサウルスモドキが振るった尻尾により岩が巻き上げられ一番後ろに止まっていた馬車を直撃した。破壊こそまぬがれた物の、衝撃で馬車が横転する。


「マズっ! シアンさん、俺は置いていって良いので早く駆けつけて――」

「主様、耳を塞いでおいてください」


 一刻の猶予も無いと思い、シアンさん達に装甲車を置いて駆けつけるように言おうとしたところ、シアンさんの方も声をかけてきたので、振り向くと以前輸送艦で見つけた対物ライフルを構えていた。


 あ、ヤベッと思い耳を塞ぐこと数瞬後、ドンッ! ドンッ! と2発発砲。


 放たれた2発の弾丸はティラノサウルスモドキの二股の頭部それぞれに命中。貫通して後頭部から血しぶきと一緒に排出された。


 一拍遅れて大きな音を立てて崩れ落ちるティラノサウルスモドキ。断末魔を上げる暇さえ無い即死であった。


 武装して相手をしていた人達は何が起きたのか分かっておらず、戦闘態勢は解除せずに未だ倒れたティラノサウルスモドキを包囲している。


 そこへ俺たちがやっと到着した。


「大丈夫ですかっ!!」


 声を張り上げて呼びかける。敵では無いと知らせると同時に加勢したのは俺たちだと知らせる。


 そこでようやく、警戒していた何人かがこちらを振り返る。


「加勢してくれたのか……感謝する。冒険者か?」

「はい、そうです」


 馬に乗った人がこちらに近づいてきてお礼を言ってくる。

 その他、ティラノサウルスモドキを警戒していた人も皆警戒を解いてこちらを見てくる。

 俺は魔物がもう死んでいるのをシアンさんに確認し、装甲車を降り、馬に乗っている人に近づく。


「移動中に襲われているのを見つけたため加勢しました。あの、馬車の方は大丈夫ですか? 怪我をされている方もいらっしゃるようですが?」


 俺がそう言うと、何人かが「そうだった!」と転倒している馬車としていない馬車に向かっていき、扉を開けて中に何か話しかけている。


 やがて転倒している馬車の扉から外に人が引っ張り出されてきた。出てきたのは3名、いずれもメイド姿であった。内1人は転倒した際に、打ち付けたのか微量だが頭から血を流していた。

 ティラノサウルスモドキと戦い負傷していた護衛の兵士達は各々腰から瓶を取り出すとそれを飲み干した。おそらくポーション類だろう。結果軽傷の人はすぐに動けるようになった。ただ重傷や死亡している人もいるようだがそちらはどうするのだろうか。


 そうして、転倒していなかった最も豪華な馬車からはタキシードを着た男性とドレスを身に纏った少女が降りてきた。

 ドレス姿の少女はいかにも高貴な所のお嬢さんといった感じだ。馬車も金の装飾がされており豪華で、知らない紋章が入っている。


「あの、助けて頂きありがとうございます」

「あ、はい……」

「もったいないお言葉です。私、冒険者のシアンと申します。こちらはパーティーリーダーのケータ。あちらはレイヴン、あそこで魔導馬車を運転しているのがヴァーミリオンと申します。」


 いつの間にか隣に来ていたシアンが口下手な俺に変わって自己紹介をしてくれた。見事なカーテシー挨拶付きでね。俺はよく分からないのでポケっと立ったままだ。馬に乗った人……多分護衛の人が俺にだけ少し厳しい視線を向けてくる。頭を下げるぐらいした方が良かったのだろうが……今更感があるな


「ご丁寧に。私、ゴッドハート伯爵が子、クリスティーヌ=ゴッドハートと申します。」


 やはりというか貴族の人だった。と言っても貴族制なんて学校の歴史で習ったぐらいしか知らないので、どの程度偉いのかが分からない。伯爵ってよく聞くけれど貴族社会だとどれくらい偉いのだろうか。また俺たち一般人との格差はどれくらいだろう。

 そのクリスティーヌさんだが、頬を染め、熱っぽい視線を向けている。

 おいおい、もしかして惚れられちゃったか? マジかよ。困るなぁ~ とヘラヘラしていたら、馬に乗った護衛の人の視線がさらにキツくなった。


「あの……失礼ですが、お姉様達は貴族に連なる者でしょうか?」

「いえ、違いますね。平民の冒険者です。」

「えっと、ではその服は? 侍女が着る服ですよね?」

「これは私達が主様であるケータ様に仕えるという意思を表すものです。」

「主というと……こちらの男性がですか」


 そう言いながらクリスティーヌさんが俺を上から下まで視線を巡らせた後、フッと鼻で笑った。

 ん?


「お姉様。もしよろしければ私の馬車でご一緒しませんか。助けて頂いたお礼もありますし。」


 そう言い、シアンさんの両手をがしっとつかんで熱っぽい視線を向けている。その視線はシアンさんとレイヴンさんに向いており、俺はまったく視線を感じなくなった。……まあ、いきなり一目惚れなんて都合の良いことあるわけないですよね~


「あ、いえ……私達はコロッサスへと向かう途中ですので」

「まあ、コロッサス! 私のお父様がそこの領主をしておりますの。是非にお話を。お力になれると思いますわ」


 彼女の目的地もコロッサスらしい。父親に会いに行く用があるのだそうだ。

 シアンさんが困ったような視線を向けてくるので、俺は苦笑しながら頷いた。


「では、決まりですわね。ささ、お姉様方こちらへ。」


 そう言って、シアンさん達を、馬車へ招こうとするクリスティーヌご令嬢。俺は無視されているのですが。

 クリスティーヌさんの周囲の護衛や侍従達は横転した馬車を戻した後、大きな故障が無いようで安心して各々出発の準備を行っている。

 対してレイヴンさんは、装甲車の方に戻ろうとする。その行動を見て焦って声をかけてくるのは案の定クリスティーヌさんだ。


「レイヴンお姉様にも是非お礼をいたしたいのですが。」

「あー、オレはいいや。護衛もあるし。シアンに任せる。」

「そうですか……」


 シュンとして、悲しそうな表情を見せたクリスティーヌさんだが、侍従の人が早く出発しようと言うと聞き分けよく馬車に乗り込んでいく。


 かくして、俺たちは、シアンさんを乗せた馬車の後ろについて行くことになった。

 3台あった馬車はクリスティーヌさん用、侍従侍女用、護衛兵用らしく、重傷者や死体はこの護衛兵用の馬車に乗せてコロッサスまで行き治療なり弔いなりをするようだ。


 運転は変わらずヴァーミリオンさん、俺は車内でネルソンと一緒に昼寝。レイヴンさんは一応護衛名目なので車外に目を見張らせていた。

ネルソンは雄です。おんにゃの子になって恩返ししに来たりはしません。

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