50話 新たなる出会いVer.4
森中での野営中に近くの茂みがガサガサと揺れた。シアンさん達は何か小さい物が近づいてくると言っていたが
茂みをかき分けて出てきたのは――
「お、犬だ」
現れたのは一匹の犬だった。かなり大きいな。大型犬種だろう。見た目はシベリアンハスキーみたいな感じ。愛玩犬では無く狩猟犬のような格好いい見た目だ。毛並みは白? ……かなり汚れていてちょっと分からない。
そういえば昔、両親に犬を飼いたいと言ったことがあったな。世話の問題やお金がかかるのでダメだと言われ代わりにカブトムシを買って貰った。「コレじゃ無い」と両親に言いたかったが、世話をし始めると思ったより可愛いヤツだった。名前も付けてやった。
さて目の前に現れた犬だがどうも歩き方がぎこちない。前足を怪我しているようだ。足を庇うようにこちらに近づいてくる。
たき火に近づこうとしているのだろうか。
ほーれほれ、と夕食にあった干し肉を手に取り目の前で揺らしてやる。
いや、野良犬や野良猫に餌を与えるのはいけないんだろうけど、勘弁して欲しい。
目論見通り、こちらを警戒したような態度を示しながらもゆっくりと近づいてきた犬は俺の手にある干し肉をクンクンと匂いを嗅ぎ出した。そうして問題ないと判断したのかその肉に噛みつき――
バタン!
「え!?」
――いきなり倒れてしまった。
「え、なに? ……もしかして肉あげたらダメだった!?」
犬にチョコレートやタマネギがダメだというのは聞いたことがあるけれど、肉がダメなんて聞いたことは無い。俺が目の前の光景にオロオロとしていると、シアンさん達が寄ってきて犬を触って様子を見てくれる。
「これは……ただの空腹ですね。足を怪我しているようなので、狩りが出来なかったのでしょう」
ただの空腹でさらに怪我をしていたため気を張り詰めていたのが、気が抜けたので気絶しただけだった。
「で、どうされるのですか? 野生動物なのであまり干渉するのもどうかと思いますが」
「さすがに見捨てるのは忍びないよ」
「そうですか。ではまず怪我を治して、その後水を飲ませた方がよいかと」
「それ、犬じゃ無くてオオカミじゃねえの?」
「見た目だけだとわかりにくいよね」
レイヴンさんが犬じゃ無くてオオカミだと言い出した。確かに言われてみればオオカミのような気もしないでも無いが……専門家では無いので判断できない。
その後、シアンさんが【ウォーター】で傷口周辺を洗浄した後【ヒール】をかけて傷口を塞いだ。傷は肉が抉れていたが骨までは損傷していなかったので下級魔法の【ヒール】出直すことが出来た。それ以上の回復魔法はシアンさん達は使用できないのでよかった。
その後、同じように【ウォーター】で体の汚れを落とす。これは不潔だとどんな病気を持っているか分からないという俺たちの事情だ。
どうやら元の毛並みは灰色と白だったようだ。確かに毛の色などを含めた見た目は犬よりオオカミに近いのか?
その後、水を口にゆっくりと流し込んで、状態が落ち着いたら目を覚ますのを待った。
「しっかし、はぐれなんて放っておけばいいのにマスターは甘いねぇ」
その光景を見ながらレイヴンさんが言ってくる。レイヴンさんが言うには野犬もオオカミも基本的に群れを作る。それが1匹で目の前に現れたと言うことは、おそらく群れを追い出されるか怪我でおいて行かれたのだろうとのことだ。なので、もし一時的に助けたとしてもおそらく今後自然界で生き残れない。
とはいえ、さすがに目の前で倒れてそれを見捨てるのは後味が悪いからなあ。まあ、回復してから考えればいいんじゃ無いだろうか。秘技先送り。
とりあえず、言い出しっぺなので目を覚ますまでは俺が見ているからシアンさん達は寝てしまってよいと言ったのだが、腐っても野生動物なので万が一と言うこともあるとシアンさん達も交代で起きている事になってしまった。
「お、目を覚ましたようだよ」
夜半過ぎ、ヴァーミリオンさんが起きている時に件のオオカミは目を覚ました。俺は横で座ったまま眠っていたようだが、その声で目を覚ました。
見ると、同じく目を覚ました犬? オオカミ? が辺りをキョロキョロを見回していた。そうして俺たちを見つけると警戒するような目つきになった。
俺が目を覚ましたら与えようと思っていた干し肉の塊を取り出し目の前でひらひらさせてやると、視線がその肉を追う。ほれっ、と目の前に肉を投げると目にも止まらぬ速さで肉にかぶりついた。
肉には勝てなかったよ……
結局与えた肉をペロリと平らげた犬? はまた気を失った。いや寝たのか?
「多分、急に食べたから胃がビックリしたんだね」
翌朝、めっちゃ懐かれた。俺たちの周りを回りながら尻尾をブンブン振っている。
「ダメなんだ分かってくれ」
「ワゥ?」
目をキラキラさせて、首をかしげる犬。
「犬ぅぅ!」
「アォーン!」
がしっとお互いに抱き合う。
「で、どうするんです?」
そんな俺たちを若干冷めた目でシアンさん達が見ている。
そうなのだ。本来はコイツは野良犬なのだから自然に帰してやるべきなのだ。しかし、しかしぃ……
犬を飼いたい。子供の頃からの夢というほどでも無いが憧れはあった。
「シアンさん、連れて行ってはダメでしょうか?」
「主様がそうしたいならばよいのではないでしょうか。後、その妙によそよそしい態度はやめてください、傷つきます。」
「やったぜ、犬!」
「アォン!」
こうして我らが旅路にまた同行者が追加された。
第二章はここで終わり。次話から第三章になります。




