48話 出発
「これが弾薬製造機、こっちがマガジンの製造機になります」
そう言ってシアンさんが差し出してきたのは家庭用プリンターのような外観と大きさの代物が2個。
説明を聞くと、銃の弾薬とマガジンを製造するための魔導具らしい。エネルギー源は魔力で、材料などを入れれば決まった物(銃弾)を作ってくれるらしい。問題は制作に少し時間がかかる点だが、暇なときに作り置きしておけば問題ないだろう。
外見は似たような物であるが、マガジン製造機の方が少し大きい。
あれ? かなりの時間を要するって言ってなかったっけ? まだ2日だよ?
「銃弾やマガジンは大きさこそ様々ですが内部構造は皆同じでしたので一つ作ればそれの応用で対応できます。一番難しかったのは精度でしたがそれも1日時間を頂いたのでなんとか形に出来ました。」
1日で3種類の弾薬と5種類のマガジンを製造できる機械を作っちゃっただけでもビックリだ。弾薬やマガジンはサイズの違いこそあれ、構造は基本的に同じなので1つ作ってしまえば量産すること自体は難しくないらしい。
「えーと、この拳銃、US――「それ以上いけない!」――??」
「この物語はフィクションであり、実在する物とは何の関係も無いんだ。いいね?」
「……はぁ」
やばいぜ。危うく世界観を壊すところだった。
「銃本体の解析は拳銃から進めていますが、精錬技術や部品点数の関係でもう少しかかりそうです。さらに艦のデータから地球の兵器群について一部情報をサルベージで来ました。こちらはデータだけですが、時間があれば再現も可能でしょう。」
あわせて銃の解析も進めている。艦にも少し情報が残っていたようで、そこから他の銃火器の再生も時間があれば可能かも知れないらしい。俺からも詳しくなくてもよいので、外見などのスケッチ等提出してもらえれば時間短縮につながるだろうとのこと。
「分かり……った。とりあえず、目的だった学術都市コロッサスに行けば時間が出来るだろうしそこで作業をすればいいんじゃ無いかな? て言うかそもそも銃本体は量産する必要は無いんじゃ無いの? 別に誰かに売る予定もないし……こんな世界で銃が出回れば戦争が悲惨な事になりそうだしね。」
「そうかも知れませんね。」
そうして銃火器と弾薬製造機、マガジン製造機にその材料などを追加で、車体上面等に載せて出発の準備は完了した。
周囲に荷物が増えて装甲車がさらにゴテゴテした感じになったが、さすがは装甲車――8m近くある大型の車体にとってみればそれは微々たる物である。エンジンパワー的にも重量的にも全く問題は無かった。
「ヴァーミリオンさんは本当にいいんですか?」
「まあ、別にここに何かあったわけじゃ無いからね」
ヴァーミリオンさんはここに10年ほど住んでいたが単に行く所や命令などが無かったからであって、別に愛着などがあったわけでは無いらしい。
この艦のめぼしい物は既に積み終わっているし、艦内の機密に関する物は破棄済み。忘れ物は無い。念のため扉類は全て閉めてきた。経年劣化対策の付与魔法はよく分からないが、扉が閉まっていれば機能するようで、開閉回数などで付与が解けたりはしないらしい。
車内では俺がシアンさんの魔力補助を受けつつヴァーミリオンさんの修理を行う。そのため装甲車の運転はレイヴンさんが行うこととなった。
「おっしゃ! 出発ぅ!」
そう言ってレイヴンさんが運転する装甲車が動き始めた。
……おや、割と丁寧な運転だな。レイヴンさんが運転だから荒っぽいのかと勝手に思っていた。
そうして出発したが周囲は木、木、木、草、草、草、……
グローリアス公国に入ってすぐに主用街道を逸れ、農村、輸送艦と巡ったため、元の道に戻るためには少しの間、道なき道を進まなければならない。
と言ってもこの装甲車の馬力ならば問題なく進める。問題があるのは車内の居心地だろう。いくらレイヴンさんの運転が丁寧だと言っても走っているのは未舗装の道ですら無い場所だ。まあ、と言っても馬車の乗り心地に比べれば雲泥の差であるが。
木々は大樹が多くその分間隔は広い、また地面に生えている草類はそこまで背が高くないため装甲車を走らせるに当たって障害物や視界に問題は特に見当たらない。
とりあえず、ヴァーミリオンさんの修理を行うこととする。
ヴァーミリオンさんはレイヴンさんとの戦闘で腕の部分を服ごと切り飛ばされてしまったので、艦内にあった別のSFスーツに着替えている。
「じゃあよろしくね」
そう言って後ろを向き、スーツの上半身をはだける。
綺麗な背中だ。……前を向いてくれないのが残念でならない。まあ、本当に前を向いて貰っても直視できるほどの度胸は無いのですがね。
「主様」
おっと、シアンさんに睨まれたぜ。
「じゃ、じゃあ始めます」
そう言って片腕をヴァーミリオンさんの背中に当ててスキルを使用する用意をし、もう片方の手をシアンさんとつなぎ魔力を流して貰う。
そうしてシアンさんに魔力を流して貰い、スキル〈物体修復〉を使用して――
シュワワワワァアン!
そんな効果音が聞こえそうなぐらいの速度で、欠損した腕の切断面から毛糸ぐらいの太さの光の筋が伸びていき、徐々にその筋が多くなって、絡まって、腕を形作ってゆく。
擬音にするとニョキニョキッ!! である。正直自分でもビックリした。と言うかテレビなどで見た早送り映像のように腕が生えていく様はビックリと言うよりも奇妙だった。
結局、ヴァーミリオンさんの腕は3分とかからずに再生してしまった。
「うわぁ、すごいね」
そうして再生した腕を動かして違和感が無いか確かめながらヴァーミリオンさんが賞賛の言葉を口にする。
「ええ、主様は凄いのです。」
フンスッ! と横でシアンさんが得意げになっている。
「おお、完全に治ってるね。ありがとケータ」
一通り確認し終わったヴァーミリオンさんが俺にお礼を言ってくる。
「いえ、このぐらいしか取り柄がないもので……」
「いやいや、凄いよ、これは! メンテナンスポッドなんて目じゃないぐらいのスピードだね。数分で欠損を再生って。」
このスキルで褒められたのは初めてでは無かろうか。後方向きのスキルだと言われていたが、シアンさん達が前衛を担当してくれるのだから俺の役割としてはこれでいいのかも知れない。
今いる旅の仲間は全員アンドロイドだし武器や車両の修理も出来る。
……うん。このスキルいいよね。
俺はこのスキルで成り上がる!
銃の名称って各メーカーの商品名ですよね? 出してもいいのかしら?




