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47話 宴会

ただのウジウジ回。何か以前やったような……

 出発前日、荷造りも終わり、午後には手持ち無沙汰になってしまったのだが


 どうしてこうなった……


 レイヴンさんが昨日持ってきた酒の残りに、艦の食堂らしきところで調達した追加の酒とおつまみらしき物を携えて、本日も俺の寝る予定の部屋で酒盛りとなった。

 昼間から酒を飲む生活プライスレス。とはいえ俺は別にそこまで酒好きというわけでも無い。弱いわけでは無いが強くも無い。そんなありふれた一般人である。

 とはいえ他にすることも無く流されてしまっている。

 レイヴンさんにグラスにお酒をついで貰いそれをちびちびと飲んでいる。しかし時間が経つにつれ酒の量も多くなり、酔ってくると口も軽くなってきたりするわけで。


「マスターはさ、元の世界……日本だっけ? に帰るつもりなんだろ。」


 グラスを傾けながらレイヴンさんが口を開く。以前もこんな話しなかったっけ?


「ええ、まあ……心残りは両親ですかね。友人はこっちに一緒に喚ばれましたし、恋人なんかとは無縁でしたし……」

「そうなのか? まあオレ等は親とか居ないから本当の意味ではそういう気持ちは分からないんだけど……」


 そんなことを話しながら酒を勧めていく。俺の家族の話や学生時代の話など詳しく話し出したらキリが無い。こんなに詳しく話すことは今まで無かったことだし。

 聞いている方は面白くないかも知れないが酒の席の話なんてそんなモンだろう。


 ここは居酒屋とかでは無い単なる狭い船室だ。2人しか居ないし、BGMも何も無いが、なぜか居心地が良く酒が進んだ。


「オレとしては帰って欲しくは無いんだが、……なあ、オレやシアンはどうなるんだ?」

「シアンさんの主人になった際にも考えていたんですけれど、信頼できる人を見つけて任せようかと考えています。……なし崩しに主人になったとはいえ放っていくわけにはいきませんし。」

「そうか……」


 レイヴンさんはそう言いつつ寂しそうに手元に視線を落とす。

と言っても放っていくわけにもいかない。シアンさんの時もそうだったがやはり偶然とはいえ主人となったからにはそれなりの対応をすべきだ。


「まあ、その、マリオネットの主人というのがどういう存在なのかは未だによく分かっていませんが、レイヴンさん達もずっと俺じゃ問題あるんじゃ無いですか? 俺って別に何かに優れているわけでもありませんし……至って普通の人というか、いや、自分で普通って言うのもどうかと思うんですけど……」

「まあ、確かにマスターは性格は優柔不断で俗物的。しかし常識を逸脱するほどでは無い。体力も多少ある程度、頭の回転は平均的、…………まあ普通に居る一般人だな」

「そ、そうですよね」


 この世界に来たときは勇者だの選ばれた存在だとか密かに期待していたのだが、ある程度時間が経ち経験を積むと結局人間そんなうまい話など無いと言うことに気付かされる。まあ、東雲君は選ばれたみたいだが。

 何度も危険な目に遭っているが、今まで生き残れているから特別運がいい? 特別ならもっとスマートに乗り切れたはずだ。いや、そもそもそういう事態に遭わなかっただろう。

 この、ゲームみたいなステータスのある世界で俺のスペックは平均よりやや高い程度。俺より上なんて腐るほど居る。


「レイヴンさんやシアンさんには感謝しています。こんな俺ですが、ここまで来れたわけで、地球に帰る手段を探すにしても1人でやるよりは断然心強いですし。まあ、主従登録? した以上拒否権など無いのかも知れませんが……そこら辺は申し訳ないと思っています。」


 本当に申し訳ないことをしたと思う。この世界で唯一の拠り所であった主人に偶然とはいえ俺なんかが登録されちゃったんだから。だからせめて、帰る際には信頼できる人……出来れば人間的にも金銭的にも社会的にも信頼できる人を全力で探そうと思っている。

 他に、主従登録解除用の道具があるとは聞いているが、それで主従を解除したとしても彼女たちをこの世界に放り出して帰るのは問題があるのでは無いだろうか。確かマリオネットというのが何かに仕えるために作られた物のようだと言っていたし。


「やめろよ、辛気くさい。確かにマスター登録したヤツの命令やらは優先されるが、絶対って訳じゃ無いんだぜ。前例が無いだけで、断ることだって出来た……はず。マリオネットは人間よりも自己決定力に劣るってだけで、マスターに付いてきたのはさ、俺の意思だよ。」


 レイヴンさんはそう言って一気にグラスの酒をあおる。


「それにさ、一般人だって言ったがそれだって悪いわけじゃねぇ。実際、マスターはオレ等を見捨てなかっただろ。『いいヤツ』ではあるんだろ」

「下心があったのかも知れませんよ。ムサい男なら放置したかも」

「否定はしないよ。オレ等のことたまにエロい目で見るもんな」


 え? 否定しないの。て言うかバレてるし。


「まあ、それでもだよ。主人て言うのはオレ等の拠り所で、存在意義の一部を担うわけだよ。だからオレはアンタで良かったと思ってる。」

「はぁ……その、ありがとうございます」


 レイヴンさんはしっかりを俺の方を見ながらそう口にした。そう真面目に言われるとなんだか照れるな。体が火照っているのは酒のせいだろうがなんだか勘違いしそうだぞ。


「そうですね。主人で良かったと言ってもらえるなら嬉しいですね。これからもそう思われるように頑張りますよ」

「おう、頑張れ、頑張れ」


 ハハハとお互いに笑い合い、そうしてグラスに追加の酒を注ぎ、改めて乾杯する。


「帰る方法なんて見つからなきゃいいのにな」


 ぼそっとレイヴンさんが呟く


「何か言いましたか?」

「いや、なにも……そういやさっき恋人はいないって言ってたがマスターって何歳だ? 成人はしてるんだろ?」

「俺ですか? そりゃ成人は……してなきゃお酒飲めないですよ」

「そうか……童貞か?」

「ブッ――!! な、何を言うんですか」


 ど、ど、ど、童貞ちゃうわ。

 ………………はい、すいません。見栄を張りました。経験無いです。

 いきなりの話題転換に吹いてしまった。全然前の話との連続性が。何の話をしてたんだっけ。さっきまでのイイハナシはどこに行ったよ。


「そうか、何ならオレが経験(・・)させてやろうか?」

「え、いや、あの……」


 もい、しどろもどろになって何も言えねえよ。経験……何の経験なのかな? 等と無粋なことは言わない。俺だって健全な成人男性である。意味するところは理解できる。

 ここで「是非とも!」なんて言った日にはどうなるのか。オレの童貞散らされちゃうの? 経験……なんて甘美な響き。世の男子ならこのような美女といた(・・)す機会を与えられたりしたら狂喜乱舞するのであろう。しかし、悲しいかな俺は草食系なのだ。草食系童貞なのだ。どうしても尻込みしてしまう。と言うかまともに返事が出来ないほどテンパっているわけだが……て言うか何でこんな話になったんだっけ?

 もはや何が何だか分からない。もしかしてこれは酔っ払ったオレが見ている幻覚なのだろうか。

 ……うん、なんだかそういう感じがしてきたな。

 酔っ払うといい夢見れるんだな。


「ていうか、オレも経験無いんだけどなー」


 目の前ではワハハ! と笑いながらレイヴンさんが言っている。レイヴンさんの方も結構酔っているようだ。


 ………………

 …………

 ……


 いや、これ完全に悪酔いだろ。俺のわずかに残った知能が休息を要求している。もう酔いが回ってきているしそろそろ休まないと。


「すいません。酔ってしまったみたいなので先に休みます。先ほどの件はまた今度お願いします」


 そう言い、休むためベッドに向かう。なんだか体がフラフラしているようだがベッドまではすぐなので問題ない。


「そうか。まあ、ここで理性的な判断が出来るからいいヤツだって言うんだろうけどな。」


 レイヴンさんが何か呟いているが、俺は気にせずベッドに横になる。

 すぐに頬に何かが触れる感触があった。目をそちらに向けるとレイヴンさんが椅子を立ち近くまで来てくれていた。


「大丈夫か? 添い寝でもしてやろうか?」


 なんだか、またからかわれているような気がするぞ。でも心配しているような顔をしているし。


「ああ、はい、お願――」


 何を口にしたのかは覚えていないまま俺は目を閉じた。



 ◇◇◇



 ――翌朝


「何をやってるんですかー!!」


 心地よく眠っていたら、大声が聞こえてきた。

 ムニャムニャ、まだ眠いんだよぉ……


 そう言って抱き枕を引き寄せて抱きしめる。

 はあ、心地よい。暖かいしフワフワだし。この埋もれる感覚がいいよね。抱き枕なんて買った覚えないけど。

 おお、なんか頭をなでてくれているぞ。なんだこのハイテク抱き枕は。思わず顔をこすりつけてしまう。いい匂いもするし。


「レイヴン、あなたも何をやっているんですかっ!!」

「まあまあ、マスターも疲れてるみたいだしたまにはいいんじゃね?」


 おんや? レイヴンさんの声がものすごく近くから聞こえるぞ?

 やがて頭がはっきりしてきて周囲の状況が見えてくると、なぜか俺はレイヴンさんに抱きついたまま寝ていた。



 本日もメチャクチャ怒られた。

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