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45話 酒を飲め

 さて、その次は装備品の回収である。

 同郷の物を持って行くのは法律関係を思い出し少々抵抗があったが……元の世界だと取得物横領だとかの罪になるんだっけ? まあ、異世界だと思いだし拝借することとする。


 自動車の方があんなにボロボロだったのに、積み荷には全く損傷の後が見られなかった。もしかしたら、壊れていない物だけ運んでいたのかも知れないが。



 まず武器類は、先ほど見た、サブマシンガン×1にハンドガン×2(独メーカー製のやつ)。

 アサルトライフルは米国で有名なヤツが2丁(ドットサイト付き)に独国で有名なヤツが1丁

 あと米国製の12.7mm弾を使用する有名なセミオート式対物ライフルがあった。ご丁寧に光学スコープにバイポッド付きで。

 そして予備の弾薬とマガジン一式。

 おそらく西側諸国のどこかの軍用品だろう。


 防具類は迷彩服にボディーアーマー、ブーツにヘルメットが2着ずつ。

 着てみると、少し大きいような気もするがベルトを調節すれば着ることが出来た。前着用者は欧米人的には小柄だったのだろうか。ボディーアーマーが少々重いが、金属鎧などよりは軽いと思って装備する。


 なお防具類に関しては、シアンさん達は専用スーツがあるし、別にこのようなボディーアーマーを着なくても十分な防御力を保持しているし、シアンさんについては防御系の魔法も使用できるので、俺の装備となった。



 その後、武器類について説明していく。なんせこの世界には銃が無いのである。似た武器で魔力銃という物もあるのだがアレは言ってみればビーム兵器のような物だし、大きさも重機関銃以上ある。扱いが全く違うかも知れない。

 と言っても、俺も実銃については全く知らない。ネット動画や戦争映画で仕入れた知識で説明していく。

 さすがにこんな閉鎖空間で試射はしない。反動がどの程度あるかも分からないので保持する力がどの程度必要なのかも分からない。


「これは金属を火薬のガスを推進剤にして前方に投射する武器で――」


 そう言いながらマガジンを引き抜き内部を見せて弾丸の説明から、発射原理の説明まで行っていく。


「――これが弾丸、ここが薬莢で内部に推進剤が――」

「――これが安全装置でこの位置でセミオート、単発発射――」


 俺が説明していくのをシアンさん達は興味深そうに聞いていた。で、おおよその各部機能などを説明し終わった。おそらく間違いなど無いはずだと思う……たぶん。

 なぜこんな知識があるかというと、勿論俺が男の子だからだ。やっぱりこういったものは夢中になるよね。ハマっていた時期にいろいろと調べたのはいい思い出だ。


「こっちにはこういった兵器が無いと聞いているのだけれど」

「無かったですね。」

「だが話を聞く限り便利そうだな。オレも使えるか?」

「でも、弾丸とマガジンが完全に消耗品だよね。補給がちゃんとしているところじゃないと使いづらいんじゃ無い?」


 それぞれに意見を言い合う。


「整備に関してはスキルでなんとかなると思うけど、弾は確かにね。ここにある予備を含めてもそこまで持たないだろうね」

「おい、シアン、お前汎用型だろう。こう言うの魔法で作ったり出来ないのかよ?」

「時間をかければ可能だと思いますが、同じ規格の物を量産するとなると弾薬を作る加工魔法式を作ってしまった方が早いと思います。」


 え、作れるの!?


「うーん、9mm に5.56mm、12.7mm弾の3種類となると、マガジンは5種類ですし……材質も複数で加工精度も必要になりますし、かなりの時間が必要となりますがよろしいでしょうか?」

「え、あ、うん。よろしくお願いします。」


 ビックリだよ、作れるんだね。でもマリオネットのようなアンドロイドモドキやこんな艦を作れるんだから不思議では無いのかな。

 古代魔法文明ってどの程度進んでいたんだろう。アンドロイドを作れると思ったら接近戦主体みたいだし、魔法はあるけれど目視距離で使用する物だし、でもこんな艦は作れる工業力はあるし……よく分からないな。


 とりあえず弾薬の補給の目処が立つまでは銃火器類はシアンさん預かりとなった。

 ただここにある銃って、弾薬やマガジンが複数種類あるしなにげに扱いづらいよな。しかも地球じゃ歩兵用に限定しても他にも7.62mm弾とかもあるし。



 その他には無線機類もあったのだが完全にバッテリー切れだし、そもそも衛星等が無いと長距離通信が出来ないので持っていても意味が無いとして置いていくことになった。

 後は本があったが全文英語だかドイツ語だかで読め――た。翻訳機能が働いているらしい。ただ内容はお堅い推理小説であったため誰かの私物と判断。置いていくことにした。



「これぐらいかな。後はこの部屋にあるのは食料品と日用品だね。この船は補給物資の運搬も兼ねていたからね。」


 そうヴァーミリオンさんが教えてくれる。

 食料品も日用品も一応人間の生活圏を旅している状態なので補給は十分なのだが、何か使える物が無いかと色々と見て回ってみる。

 すべて木箱等の梱包がなされているが、シアンさん達が片っ端から開けていってくれる。


「シアンさん達も何か必要な物があれば持って行くようにね」


 そう言いつつ物色していく。食料品については保存の関係か、地球側で言う真空パックされた固形食が主だった。少なくともヴァーミリオンさんが起動した10年前に、この部屋の時間は動き出しているはずなので、食べられるか不明である。

 日用品はいろいろである。服から食器、個人宛の手紙まであった。 

 古代魔法文明時代の物の方が質がいいので日用品などかなりの量を今持っている物と入れ替えることになった。


 そうして必要な物を後々運び出すために皆と協力して1カ所に集めておく。



 しばらく作業をしていると、


「マスター、飯食わなくていいのか?」


 そう言ったのはレイヴンさんだ。そういえばかなりの時間がたっているように感じる。外を確認できる窓など無いため失念していたが、腕時計を見るとすでに午後8時を回っていた。

 この腕時計は社会人になるに当たって奮発して購入した国産の結構いいヤツである。

 衣服はこの世界の物を着ているが、召喚時に身につけていた物などは今も持って来ている。あいにくとスーツと鞄はかさばるため売ってしまったが。(装甲車なんて便利な物が手に入ると分かっていれば売らなかったのに……)

ところでこの世界も1日24時間なのだろうか?


 なお、シアンさんは弾薬製造のための物資を調達するために艦内を奔走中で俺たちとは別行動になっている。

 邪魔することも無いのでレイヴンさんと一緒に艦内に積まれてあった保存食に手を出してみる。


「味は……まあ美味いかな?」

「ただパサパサするな」

「栄養はとれるんだよ。」


 そんな感想を言い合いながら食事を済ませる。

 保存食類はちゃんと食べられた。変な味でも無かったし大丈夫だろう。時間差で腹痛などになるかも知れないがそこまで気にしてはこの世界ではやっていけない。

 この世界じゃ日本より衛生基準が甘いし、大衆食堂で食中毒が起こっても金銭補償をすれば解決する。

 ちなみに、この艦には食堂も存在するのだがそちらにあった食料などはすでにヴァーミリオンさんが消費済みで何も残ってはいなかった。残っていたとしても最低10年は経過しているので同じく保存食以外は食べられないだろうけれど。



 ヴァーミリオンさんによるとこの輸送デッキ以外は主だった物は無いらしい。他は操艦スペースに乗組員の居住ブロック、機械室などで何も無いらしい。


 ……そういえばこの艦に乗っていたはずの人たちはどこに行ったのだろうか? そう思いヴァーミリオンさんに聞いてみると救命艇がすべて無くなっていたので脱出したのでは無いかと言うことだった。積み荷をそのままに脱出するのだからかなり切迫した事態だったのだろうとのことだ。何があったのかは知らないが。



「ここが士官室だよ。じゃあまた明日ね。」


 艦内のベッドのある個室と言うことで士官室に案内して貰った。シアンさん達も別の部屋で睡眠をとるらしい。

 案内したヴァーミリオンさんはメンテナンスポッドで睡眠をしながら腕の修理をする予定。1日ではほとんど直らないが。修理未完で旅に出た場合は俺のスキルにて修理を引き継ぐ予定。


 さてと、何もすることないしさっさと寝るか。そう思い部屋に入っていきベッドに腰掛ける。シーツの質なども良く快眠できそうだ。


 そう思い横になってみるが、


 ああ、さっき地球産の物を見たせいだろうか。どうも考えてしまう。

 さっきも考えたんだけれど絶対に帰らないといけないかと考えるとそういうわけでもない。勿論治安や衛生、社会保障の面では日本の方が優れているんだけれど、こちらはこちらで結構自由に生活できている。以前は死にかけたこともあるし、定職に就いているわけでも無いが、何というか充実している。何をするにも精一杯やっている感じがあるし。

 じゃあ日本に返らずにこちらに定住してもいいかと言われると……


 うーん、やっぱりマイナス思考になっているのだろうか? こういうときに考えると悪い方向に考えてしまうしやめてさっさと寝ようか

 そう思っていたときに


「おーい、マスター居るか?」


 そんな声を上げながらノックもせずに扉が開かれる。そこに居たのはレイヴンさんだった。


「何だ? シケた面してんな」


 そう言いながら、こっちの返事も待たずにズカズカと部屋に入ってくる。そうして部屋にあった椅子を引いてきてベッドのそばに座る。

 仕方なく俺も起き上がりベッドに腰掛ける。


「どうしたんですか? こんな時間に」

「まあ……な」


 そう言いつつさっきから気になっている、肩に担いでいる箱を床に下ろす。そうして中から出てきたのは、酒だった。

 匂いからして、ウイスキーやワインやら色々あるようだ。


「ふぅ……さっきのアレか? ホームシックってヤツか?」


 そうしてレイヴンさんはこちらを探るような視線で見てくる。

 あの時はレイヴンさんはこっちを気にしていないと思っていたが、バッチリ見ていたようだ。まあこっちも顔に出していたようだしバレバレだったのだろう。


「それで? マスターは帰りたいのか?」

「まあ……そうですね。元の世界に帰る“必要”があるのかと聞かれるとちゃんと説明できないんですけれど、やっぱり未練があるようです。」

「ふーん」


 レイヴンさんは持参したグラスに入った酒に口をつけながら聞いていた。ちゃんと聞いてくれているのだろうか。まあアドバイスなどをされても最終的に決断するのは自分である。単純に聞いてくれるだけでもありがたいと思うべきだろう。


「まあ、なんとかなるんじゃねーの。それにさ、無理だとかいっても諦める気なんて無いんだろ? じゃあ一生懸命探してさ、もし見つかったらその時に判断しても遅くねーんじゃね?」

「そんなものなんですかね」

「オレにしてみれば帰られると困るんだが。そういう帰属意識っていうのもよく分からないし、上手いこと言えないけどな……」


 そう言ってニカっと笑ってみせる。しかし笑い顔を見せる前に瞳に少し戸惑いの色が見えた。


「まあ、アレだよ、オレはマスターに従うし、元の世界に帰る方法だって探すの手伝うからさ……えーとなんて言うんだっけ、取らぬ狸の皮算用? 今からウジウジ考えても仕方ないって」

「ありがとうございます」


 人に話すことで少し楽になったような気がする。少し気分が上向きになったかな。


「よし、飲め」


 そう言って、酒――多分ウイスキー――の瓶を差し出してくる。


「いや、俺、あんまりお酒は……」

「こういうジメジメした気分てのは苦手なんだよ。こういうときは酒を飲んで気分を一新するんだよ」

「はあ……まあ、少しなら」


 そう言って、レイヴンさんの持ってきたグラスをとって注いで貰う。で、水は? ウイスキーをロックとか飲めないよ?



 そうして2人で酒盛りをすること数時間



「くかー……」


 俺の(寝る予定だった)ベッドで大の字になって寝落ちしたレイヴンさんが。

 おいおい、大丈夫かよ。男の部屋で寝落ちとかレイヴンさん、言動はともかく外見はめっちゃ美人なんだし。服装はいつもの露出の無いメイド服では無く寝る時用なのか薄着だし……めっちゃ着崩れてるし、肌見えちゃっているし。

 え、めっちゃエロいんですけれど。コレ襲ってもいいの? 行くよ? 行くよ?

 そうして俺は……



 毛布を掛けてやった。



 おいおい、草食系童貞なめんなよ! そんなんヤる勇気ねぇよ!

 まあ、こういう場合は紳士的対応だよね。

米国とは言いますけど独は1文字で表しますよね。何でだろ。

あと銃火器についてはメジャーな物を参考にしています。マイナーなのはよく知らないので。

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