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44話 謎が増えた

 さて、輸送艦の物資倉庫に入ったわけだが、さすがに輸送艦と名乗るだけあって結構広い部屋である。(ちなみにザムザが扉が開かないと言っていたがヴァーミリオンは扉の開け方を知っていた。)

軍艦、しかも潜水機能のある船にこれだけの大きさの部屋とかダメコンの観点からどうかという議論は置いておいて。

 なお、中は綺麗だった(3000年前の物とは思えないという意味で)。おそらく以前見た経年劣化に対しての耐性を持った魔法がここにも使われているのだろう。


「コレがボクが入っていたメンテナンスポッドね。」


 そう言って指し示されたのは、見る限りはレイヴンさんの入っていたポッドと同じもの

だった。シアンさんの物とは少し見た目が違うがそれは単純に型式や開発年代の違いによる物で深い意味は無い。

 まあとにかくそのポッド自体は大きさと重量的な観点で持って行くことが出来ない。大型のトレーラーでもあれば別だが。

 じゃあ、マリオネットのメンテナンスはどうなのかと言うことが出てくるが実はレイヴンさんの時点でこの問題はすでに解決済みである。

 まず、メンテナンスポッドというのは人間でいう手術が必要なぐらいの破損時には必須であるが、それ以外の時――自然治癒出来るレベルであれば無くても問題ない(治りが早くなるので戦争時はたまに使われたそうだが)。その他には記録(・・)の書換え時や高速学習時など特殊な状況のみに使用されるため、現時点で不要とされた。

 さて、では万一の時(大破時等)はどうなるのかと言うことだが、汎用型であるシアンさんが試用できる魔法は【ヒール】であるがコレは生物の軽傷を治すことが出来る(さらに上位の魔法もあるがシアンさんは使えない)。――がマリオネットには効果が無いそうだ。一部に生体部品を使用しているそうなのだが、それらにも効果は無いらしい。これは古代魔法文明時代にも解明されていない世界の謎とされている。

 どうするかと言うことが(3人で)議論されたが、結果は簡単に出た。俺の持つ〈物体修復〉スキルが使用できることが分かったのである。

 なぜ分かったのかというと感覚でと言うほか無いのがもどかしいところである。実演する機会が無いのだから…………ん?


「主様、どうしました?」

「ああ、いや。……ヴァーミリオンさん少しいいかな?」

「ん、なに?」


 そう言うと、ヴァーミリオンさんの腕にちょこんと触る。がっちり触る勇気は無い。

 そしてスキル〈物体修復〉を使用する。


「ああ、やっぱり」


 俺は確信した。その切り飛ばされた腕を元に戻せる、と理解した。

 隣ではシアンさんとレイヴンさんも俺が何をしようとしているのか理解したようで納得した顔でこちらを見ている。


「うにゃ……ムズムズするぞ」


 ヴァーミリオンさんが少し体をよじった。が、俺は魔力を流し続けて――


「あ、ダメだ。魔力足りないわ……〈物体修復〉スキルでその腕を治せると思ったんだけれど。ちなみにその腕を治すのにどのくらいかかるの?」

「うん? メンテナンスポッドだと5日から一週間と言ったところだね」

「うーん、さすがにここに一週間も留まるのはちょっとね」


 この艦の中で1週間生活するのは絶対に無理というわけでは無いだろう。保存状態は良好なので食料さえあれば可能だ。しかし、出来れば早く出発したいと言う思いもある。


「主様の〈物体修復〉スキルで修理できるのであれば移動中でも問題ないでしょう。魔力は私が補完しますし。」

「どういうことだい?」


 未だ理解していないヴァーミリオンさんに俺の持つスキルについて教えてあげる。


「へー、そんな便利なスキルがあるんだ。マリオネット用の回復魔法みたいだね」

「魔力が足りないのでシアンさんに魔力を譲渡して貰わなければならないけどね」

「なら、ボクは別にそれでいいよ」


 ヴァーミリオンさんは腕の修復はここでは無く移動中に行うと言うことで納得してくれた。

 ここの調査を行うため出発は明日になるので、今晩はメンテナンスポッドに入って修復に専念するそうだが。



 そのほかの積み荷も見ていく梱包用の木箱がいくつかあるが、いくつかは蓋が開いて中が荒らされている。


「あ、それ食料ね。ボクがここに居る間に食べたの」


 彼女は確かここで10年ほど過ごしていたらしいので、その間に消費した食料の箱らしい。マリオネットは経口摂取によるエネルギー変換効率が良く人間等比べものにならないぐらい燃費がいいのだが、それでも10年は長く、それなりのエネルギーを外部から補給する必要があったのだろう。


 そうして部屋を進んでいくとコンテナパレットに鎖でガチガチにつながれた金属の箱が見えてきた。

ん? スクラップの車みたいだけれど、どこかで見たことがあるような。どこだったかな……


「コレは何? ……とっ!」


急に立ち止まったので、後ろを着いてきていたレイヴンさんが背中にポフンッと当たった。


「おお、すまん」

「それは異世界ものだそうですね。……異世界の知的生命体に製造された魔導車両らしいです。」


 慌ててレイヴンさんから離れてものをよく見ている間に、コンテナパレットにあった銘板のような物を見てシアンさんがコレの正体を教えてくれる(もしかしたらデータベースにアクセスしたのかもしれない)。

 異世界の往来実験の際にこの世界に呼び寄せられた魔導車両らしくこの艦で研究施設に移送するところだったらしい。なおこの世界に来た時点でコレ――塗装がはげて完全に動かないと分かるほど破損している――はボロボロの状態だったようだ。ただ、異世界にも人型の知的生物が居る痕跡が確認されたこと。それにより今後の異世界間移動に関する技術の進歩につながる云々かんぬん。



「あ、こっちにその魔導車両の中に入っていた物があるらしいよ」


 ヴァーミリオンさんがこのスクラップの近くにあった金属ケースを指しながらそう言ってきた。これも研究用と言うだけあってやたらと頑丈そうな箱だ。

 どうやって開けるのだろうか。何か使える物がるといいのだが……いや、古代魔法文明と言うのでさえよく分からないんだ。異世界の物なんて使えるのか?


 ドカッ! ――バカンッ!


 そんなことを考えている間にいつの間にか移動していたレイヴンさんが手刀で開閉部分をこじ開けていた。


 ……ああ、どうにでもして


「お、中は……迷彩服か。異世界にもあるんだな、こういうの。」


 そう言って取り出したのは欧米辺りで使用されているような森林迷彩服と、防弾アーマーであった。ただ服を隅々まで見てみるが国籍を示すような物が確認できなかった。が、ポケットの中に入っていた紙切れにアルファベットの文章が書かれていた。


「ん?」

「後、これは何だ? 魔力銃か……ずいぶんと小型だな」


 次に取り出したのは米軍御用達のアサルトライフル(の派生版と思われる)が……


「んん?」

「で、これは?」


 次に取り出したのは独国の名作サブマシンガンが……


 いやいやいや、待ってよ!


 他にもヘルメットやブーツ、予備マガジンにマガジンポーチなどが出てくる。銃器にはバッチリメーカーの刻印が入っているんですけれど!


「これは……ん? マスター、どうした?」

「いや、あの、それ……」


 お、思い出した、目の前の魔導車両と呼ばれた物は結構ボロボロで面影が無いからわかりにくかったが多分欧州メーカーの車両だ。確か欧州のどこかの国で軍用に採用されていた車種のはず。


 それらが俺の居た世界――地球の物である可能性がかなり高いことを伝える。その持ち物についても見たことがある(インターネットを通してであるが)。



「ではこちらの魔導車両というのは主様と同じ世界の……」

「ああ、国は違うけれど軍用の……自動車だと思う」

「これがねぇ、と言ってもボロボロでよく分からんな。」


 ボロボロの車両を皆で眺めながらそう言い合う。

 地球の国こそ違うしボロボロだが自動車が目の前にある。やっぱり日本に居た頃が懐かしいな。

 最近、地球に戻ろうという目的意識が薄くなってきていたような気がしたが、やっぱりこういう故郷の物を見ると哀愁がわいてくる。


 あ、ちょっとホームシックに……


「どうしました主様?」


 シアンさんが心配したような視線で俺を見ていた。優しいなぁ……

 レイヴンさんとヴァーミリオンさんは自動車の方に興味が無くなったのか装備品の方を見ていたが。


「いや、ちょっと……故郷の物を見るとやっぱりね……」


 考えれば家族など大切な人はいたが、それほど戻りたいのかと改めて言われると考えてしまう。漫画などの続きとか気になるが、それが絶対必要と言うほどでも無い。両親も普通の中年といった感じで別に病気なども無いし心配するようなことは無い。

 こっちに来てから知り合った人たち、東雲君(勇者)なんかもいるし良かったこともある。

 シアンさんやレイヴンさんのような美人と知り合えた事は、元の世界では考えられないような幸運である。

 でもやっぱり日本に未練がある。女々しいことである。


「……そうですか」

 シアンさんも困ったような顔で声をかけてくれる。

 レイヴンさんとヴァーミリオンさんは相変わらず装備品をあさっている。……かまって欲しいわけじゃ無いけど、ちょっとは心配してくれてもいいんじゃ無い?


 ま、まあ、今のところ帰れる方法が見つかった訳では無い、見つかってからしっかり考えてもいいのかも知れない。とりあえず置いておこう。考えすぎるとナイーブになってしまうしな。



 さて、車両の方はもうどうしようも無い。すでにスクラップ状態で健全な部品もあるだろうが破損しているところが多く直せる見込みがない。いや……俺のスキルなら出来るのか? でも直しても燃料が無いのでどのみち動かせない。この世界のレベルだと原油の精製技術なんて無いだろう。


 しかしこの艦は、3000年前の物なんだよなぁ。しかしこれらの装備品を見る限り現代の軍装備品である。時代が大きくずれていることは無いと思う。

 と言うことは3000年前に召喚されたこれらと俺、同じ時代から召喚されたと言うことになる。

 召喚に時間軸は関係ない? どちらかの召喚時に時間を跳躍した?


「すみませんそこまでは」

「まあ、そこを調べる以前の問題だったからな」


 案の定、シアンさん達も知らなかった。と言うよりそこまで解明されていなかった。

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