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43話 ミューラー

 ガサガサ……


 ただいま村を出発し森の中を移動中である。草が生い茂っており道らしき物も無かったが木自体が大きく間隔もそれなり広がっており地面も固められた森であったため装輪装甲車両が移動するには問題なかった。

 ただし草に覆われており地面の様子が分からないので徐行にて移動中である。

 目的はヴァーミリオンさんのいた可潜輸送艦――艦名は〈ミューラー〉と言うらしいが正直不要な情報だ――に向かっている。

 尚あの村にはもう戻ることは無いだろうと思われるためジークさんや村長さんにはお別れを言ってある。村人には非常に感謝され村を出るときには多くの人に見送って貰った。村の猟師の人に聞き害獣などの生息情報も入手済みである。森の方に行くと言ったら虫除けの薬まで頂いた。


 あの後、ヴァーミリオンさんの持っている情報を精査したが結局、魔族側の持っている情報というのも俺たちの持っている情報と大差なかった。

 結局古代魔法文明が滅びた原因は不明だし、俺が元の世界に戻る手がかりも無い。

 周辺地理状況に関しては俺たちの方が詳しかったぐらいだ。


「そういえばヴァーミリオンさんは主人がいないんですよね?」

「タメ口でいいよ。……うん、そう。て言うか主人がいる方が驚きだよ」

「そうなんですか?」

「基本的にマリオネットの悪用を防ぐため個人所有なんて出来ないようになっているからね」

「いやいや、魔力登録したら簡単にできましたよ?」

「不思議だよねー」


 彼女もよく分かっていないらしい。最も、俺が彼女たちを見つけた状況を詳しく説明し、シアンさんとレイヴンさんヴァーミリオンさんの見解をまとめた結果

 シアンさんに関しては部屋に入るまでに複数のセキュリティがあり(あの場所自体が隠し施設だったこともあり)、メンテナンスポッド自体のセキュリティはおざなりだったのではないかという結果に

 レイヴンさんの場合は攻撃を受け混乱の中、施設を放棄したため彼女に関しては忘れられていたのではないかという結果に


「それでも個人魔力で簡単に登録なんてできるわけ無いんだけどね……」


 ヴァーミリオンさんがぼそっと何か呟いたが俺にはよく聞こえなかった。



 その後、ゆっくり進むこと少しようやく目の前に何かが見えてきた。それは暗灰色に塗装された昔の潜水艦のようだった。ただし、ヴァーミリオンさんが言うにはコレは輸送目的の艦で戦闘力は無いらしい。

 船が陸上にある。こういうのも座礁というのだろうか。見る限り船体は水平に近い状態のようだ。輸送目的の船のため船底の幅が広いから倒れないのだろうか。地面に近い部分は苔や植物やらが絡みついているが、上の方は比較的綺麗な状態だ。勿論汚れなどはあるが、船体がへこんだり鉄板が剥がれたりはしていない。


「はぇ~、大きいな」


 装甲車から降りて、真下から見上げる船はかなりの大きさだった。このような角度から船を見る機会など今まで無かったし、そこいらの漁船とは違い軍艦だから大きいのは当たり前なのだが。


「全長98m、(基準)排水量4000t。軍艦としては小さい方だよ? まあ可潜艦としては大きいのかもね」

「ふーん、ウチにこんな(ふね)あったんだな。」

「特務艦と言うことですから、知らされていなかったのでしょう」


 そう言いながらもレイヴンさんがジャンプして――ドンッ! と言う音と共に十数mある船体上部に一気に上ってしまった。


「オッケー、何もいないぞ」

「了解です」


 上に行って甲板上を確認したレイヴンさんにシアンさんが答える。


「……あれ? 俺はどうやって上るの?」


 レイヴンさんはいつも使っている大剣しか持っていなかった。ロープの類いは持って上がっていない。

 どこかに入り口が……無いよな。船底に出入り口なんてあるわけないし。そもそも上から入るからレイヴンさんが上ったのだから。


「失礼します。」


 疑問に思っていたら、シアンさんが隣に寄ってきて抱き上げられた。お姫様抱っこというヤツをされている。え、なに? 腕にオッパイが当たってるんですけ……どぉぉぉ――――!


 お姫様抱っこされたまま十数mジャンプされました。


 船の甲板に立ったが上から見た感じは潜水艦と普通の船の中間といった感じだ。第二次大戦時の潜水艦に近いかもしれない。ただ、輸送艦なので船幅が広くなっている。


「お、開いているようだな」

「ボクが出て行ったときだね。開けっぱなしだったみたい」


 艦橋部分の扉が一つ開いたままだった。

 そこからゾロゾロと中に入っていく。総勢4名なのだが俺だけ場違いな感じがする。他3人が似た年代のものすごい美女達だからだろうか。

 先頭は案内役としてヴァーミリオンさん、その後ろがシアンさん、で俺。後方警戒(念のため)がレイヴンさんとなっている。


 ガチャン!


「――っ! ……閉めるの?」

「虫や獣が入ったら嫌だろ?」


 レイヴンさんが扉を閉めたが金属製の水密扉だからなのか大きな音が響いた。少し驚いてしまった。

 なお、ヴァーミリオンさんには魔導ランプを渡そうとしたのだが艦内照明が付くらしいので不要だと言われた。

 実際、艦内に入った後少し進んだところで何か操作したら照明がパパッとついていった。しかしコレはシアンさんの居た施設でも見たが蛍光灯やLEDなどとは少し違うみたいだ。魔導ランプと同じような物なのだろうか。

 艦内は無骨な軍艦らしく通路は狭くまた壁に配管が複数這っていた。その中を進んでいくのだが、


「で、行き先は艦内倉庫でいいのかな?」

「はい、何か使える物があれば貰っていきます。」

「火事場泥棒みたいだね」

「別に持ち主もいないですしよいでしょう」


 シアンさんとヴァーミリオンさんそんな会話をしている。なお、この艦にある物を持って行くことに関してはヴァーミリオンさんも納得している。

 彼女としては、所属はあくまでアトランティア王国であるが、軍どころか国自体が今は無く命令系統の喪失により守るべき規範なども無くなってしまったことによる。マリオネットは物扱いされるが自立意識を持っているため、その扱いや守るべき規律など厳しく決められているのだ。しかし国自体が無くなった際の基準までは定められていなかった。

 そのためヴァーミリオンさんはアトランティア王国――古代魔法文明の滅亡理由及びその子孫、文化の継続性などの調査を行うとの目的で私たちに着いてくることになった。勿論行動を共にする上で相互の目的達成について手を貸すという物であったが。

 その過程において、頼るべきもの(・・)もしくは組織が発見された場合にはそこで別れることになっている。

 なお、ヴァーミリオンさんの服は戦闘で剥ぎ取られてしまっていて、今はマリオネット用のバトルスーツと呼ばれる、見た目レオタードや競泳水着のような物しか身につけていない。しかも片腕は切り飛ばされたままであるので少し痛々しい。応急処置は済ましてあり出血多量で死亡とかはないそうだが。


「ここが、ボクがいた部屋だね。ここが輸送用の物品を保管する部屋になるね。」


 そう言われて目の前にある扉を見るのだがどう見ても他の部屋と同じで、人が1人通れる程度の扉しか無い。


「ここが倉庫なんですか? なんだか荷物の出し入れがしづらそうですね。」

「ハハハ、ここは人員のアクセス用だからね。物資の搬入出は部屋の上部に専用のハッチからするんだよ」


 思ったことを言ったら、ヴァーミリオンさんが笑いながら答えてくれた。

 まあそうだよね。輸送艦なんだから大きな扉とかあるよね。


 そうして部屋――こういう大きな部屋をなんて言うのか知らないが――に入っていった。

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