42話 実は……
「主様に手を出すなっ!」
今まで見たことのない――怒った顔でシアンさんがザムザを殴りつけるのをぼんやりと見ていた。
頭部に衝撃が加わったため頭がクラクラしている。それでも剣を振り足に傷を負わせたのは以前の訓練のなせる業だろうか。だが抵抗もそこまでで、次の瞬間にはザムザの反撃が来ると思っていたのだが、それよりも早くシアンさんがザムザの横に現れ拳を振り抜いた。
その一瞬後には首から上がなくなったザムザが倒れるのが見えた。
ドカッ!
「主様、大丈夫ですか!」
首なし死体が完全に倒れる前にシアンさんが蹴りを入れると、ザムザの死体が天高くどこかへ飛んでいった。
「だ、大丈夫……」
先ほどの怒った顔から一変し泣きそうな顔――心配してくれているのだろう――をしながらシアンさんがしゃがみ手を伸ばしてくる。
頭を打ったため多少クラクラするがそこまでではないと思い慌てて立ち上がろうとするが、ガクンと膝が折れる。
どうやら自力では立てないようでシアンさんに肩を貸して貰いながら立ち上がる。
「主様、血が……」
シアンさんの言葉に痛みの強い部分――額を触ってみると手にべったりと血が付いていた。どうやら切れてしまっていたらしい。血を見ると少し焦るが、その焦りが思考をクリアにしてくれた。どの程度の怪我なのか知らないが触ってみる限り頭蓋骨に問題はないと思う。
「大丈夫、少し切っただけだから。それよりも……」
あの魔族の見方をしていた女性は、と思い視線を向けると。
「この辺りかな…………降参だよん」
レイヴンさんに片腕を切り飛ばされた女性がもう片方の腕を上に上げ、降伏の意思を示した。
レイヴンさんはそんな女性の首筋に剣を突きつけて警戒している。対する相手側はどういうわけかヘラヘラと軽い感じに見えた。
「終わったのかな」
ザムザは首を飛ばされて死んだ。アレで死んでなければ驚きだ。
ザムザの協力者と思われる女性は降伏している。
「そうですね。彼女から事情を聞かなければなりませんが」
「あ、うん。そうだね」
こうして俺たちの盗賊退治は終了した。
◇◇◇
その後、建物から出てきた村人達からお礼を言われ礼金の話になったのだが、見た感じそこまで裕福そうでもない村である。冒険者として依頼を受けていたわけではなく相場も不明であったし、盗賊に占領され農地などが荒れていた事から復興費用がかかりそうなため辞退した。
その代りと言っては何だが、この村に宿屋か泊めてくれる所はないかと聞いたところ、空き家を提供して貰った。少し前まで住人がいたらしく、掃除などしなくても綺麗な家だった(ただの農村なので宿は無かった)。
すでに周囲は薄暗くなってきており、話もそこそこに与えられた家に入って休もうと思った。
が、どうもシアンさん達は尋問? を簡単に済ませるらしい。目の前には先ほどに魔族の協力者がいる。特に拘束はしていない。これは本人に逃亡の意思がないと言うこと以上に彼女の能力では拘束に意味が無いからだ。その代りに変な動きをしないようにレイヴンさんが見張っている。
居間だろうかテーブルのある大きめの部屋、俺とシアンさんが並んで座り、対面に魔族側の協力者の女性が座っている。片腕を切り飛ばされた姿は痛々しいようにも見えるが本人はさほど気にしていない様子だ。(応急処置済み)
レイヴンさんは部屋の端で武器を持って待機中である。
「で、何が聞きたいの?」
魔族側の女性は負けたことなど感じさせないような軽い口調で片手をひらひらさせながら先に口を開いた。
「まずは、あなたの機体番号および置かれている状況について説明して貰います。」
シアンさんが女性に尋ねているのだが……機体番号?
「はいはーい。ボクは制圧用人型戦闘機、型式番号MSF-15E、機体名称〈ヴァーミリオン〉でっす。状況はわっかりませーん。」
元気な受け答えだ。一応捕虜的な奴なんだが……
いやマテ……今コイツはなんと言った
マ リ オ ネ ッ ト ! !
またかよ! この世界こういうの多過ぎじゃね? 何こいつら? マリオネットって古代魔法文明の遺産――元の世界で言う恐竜の化石が出土したとか言う稀なことじゃないの。なんで3000年前の奴らがこんなにポンポン湧いてくるんだよ!
「はっ、劣化モデルかよ」
横にいたレイヴンさんがそう呟くが俺には何のことだか分からない。
「その言い方だともしかして君はXMSF-15かなー? で君は?」
最初の疑問はレイヴンさんに、後はシアンさんに投げかけた質問のようだ。相手を尋問するにしてもこちらの正体を明かしておかねばならないというのは分かる。場合によっては黙秘権なども発生するし、人違いでしたなんてこともある。
「オレは試験機じゃねーよ。MSF-15〈レイヴン〉だ。」
「レイヴン……ふぅ、私はMMF-27型汎用人型戦闘機、固体名称〈シアン〉です。では重要なことを聞きます。私たちに対し敵対の意思はありますか? イエスかノーで回答しなさい。」
シアンさんが自分のことを言いつつ質問を続ける。
「ノーです。と言うか状況がよく分からないのに敵対もクソもないよね。」
いやいや、あなたさっき思いっきり敵対してましたよね! 魔族に協力してシアンさん達と戦っていましたよね!
と言うか、さっきから思っていたのだがこの女性、すごい美人なのに結構調子が軽い感じだ。
「あ、さっきのことはノーカンね。状況が分からないなりに自分でも動かないとって思っていたんだよ。で、あの魔族? 肌の青い奴が気になることを言っていたんで従っているふりをして色々聞き出そうとしていたんだよ。」
そして語られる真実…………真剣な話なのだろうがかなり軽い調子で話されるので困っている。さらに異世界の3000年前の話なので俺にとっては身近に感じるどころか他人事感満載である。
正直、遠い外国の出来事をニュースで聞いているみたいだ。
まあ結論としては彼女も何も知らなかった。
他の機密情報と一緒に輸送艦にて輸送されるためメンテナンスポッドに入れられたのが魔法文明時代最後の記録。その後は約10年前に再起動してから(なぜ再起動したのかは不明)ずっと指示待ち待機状態で輸送艦内にいたそうだ。ある程度の月日が経ち外部からのアクションが一切無いことから、外部への通信などを試みるが通信機器自体が動かず何も出来なかった。艦内の状態から非常に長い年月が経過していることが予想され外部の状況も合わせ情報収集を行うべきか判断を下せる人物も行方不明な事から判断に迷っていたらしい。
そこへ例のザムザという魔族が来て、彼からうまく話を聞き出した結果、3000年ほどが経過していることが判明。命令系統の変更などを考慮し外部への調査へと踏み切った。その後はザムザにうまく乗せられたふりをして外部の情報収集に向かう。
そして、3000年間の出来事と自分たちの文明(古代魔法文明)のことをうまく聞き出しながら移動していると(周囲への観察も怠らなかったが現在位置が不明のためなんとも判断しずらかった)私たちに遭遇。
その時点では未だ情報の精度が荒く敵味方の区別が付かなかったらしい。俺たちを見た際にマリオネットがいることも分かっていたそうだ。マリオネットの製造は味方国のみでしか行っていないが3000年経っている現在では起動しているマリオネットが存在していること自体が疑問で指揮系統も不透明であるため様々な状況を考慮し戦闘をすることになったと……
うーん、嘘を言っているようには聞こえないが。
「ふむ、矛盾はなさそうですが……いいでしょう信じましょう。主様よろしいですか?」
「あ、はい」
シアンさんも彼女――ヴァーミリオンの言っていることを信じるようだ。
「ではこちらの知っている事と、そちらの魔族から聞き出した事をすりあわせ精査しましょう」
その後、それぞれが置かれている状況の確認を行った。




