41話 戦闘
第3者視点
3つの影が高速で動き回っている。
さらに小規模な輝線が遅れて無数に地面にぶつかり土が舞い上がる。まるで機関砲の弾丸のようなそれらは一切目的を達成することなく対象に躱されて後方へと飛んでいく。
「乗った甲斐があったね」
手に持った魔法剣を振り抜き、笑みを浮かべたヴァーミリオンがぽつりと言葉を発するがそれは激突音に紛れていく。
大剣で真っ向から受け流し体勢を崩しにかかるレイヴン。シアンがヴァーミリオンの右側面に回り込み魔法を放つが、手にした魔法剣を一瞬で消し体勢をわざと崩しそれを躱す。同時にヴァーミリオン側も魔法の光弾を周囲にばらまき牽制すると後方に一時飛び退き、崩れた体勢を立て直す。
レイヴンが一気に距離を詰め両手持ちしているオリハルコン製の大剣を上段から叩きつける。が、ヴァーミリオンは両手に魔法剣を出現させ2本で受け止める。
辺りに轟音が響き渡る。
オリハルコンはこの世界最強の物質である。だが実体が有る物であるが故に技術がなければその辺りの剣と何ら変わりない働きしかしない。だが、レイヴンは力と技両方を持っている。そのため並の金属であれば(単純な力押しでも)切断可能だ。だが、できない。相手の魔法剣の魔力濃度が濃くかつ魔力供給が途切れないためだ。
魔法剣はその構成魔力により並の剣であればどれだけ鋭くてもたやすく切断できる。だが、高純度のオリハルコンは魔法や魔力に対して完全な絶縁体となる。そのため魔法剣の魔力で作った刀身は本来の切れ味が全く発揮できず、ただの鈍器となる。
体のバネを使用しその振り下ろされた大剣を受け止める。が、吸収しきれなかった衝撃が足下に伝わり地面がひび割れる。
動きが止まったところにシアンの魔法が向かう。ヴァーミリオンはその魔法を視認すると一切の動作なしに防御魔法を発動し防ぎきってしまう。
防御魔法に攻撃魔法がぶつかり音と光が辺りを支配した。その一瞬にシアンが後方に回り込み、拳を振るおうとしたがその場にヴァーミリオンの姿はなかった。
ヴァーミリオンは魔法剣を消し体を反らすと、急に力の消えたレイヴンは体勢を崩し隙が生まれた。そこに胴に蹴りを入れるが躱されると後ろからの気配を反応を検知し一気に距離をとっていた。
そうして2人が一瞬見失った隙に魔法を構成し射撃した。
さてその頃我らが主様こと啓太はシアン達に下がっているように言われたが、実際下がって傍観していていい物か悩んだ。シアン達の強さは知っているが、相手側――魔族側の強さを知らなかったからだ。
(なんじゃありゃぁ! ……めっちゃ強いやん!)
目の前ではシアン達と魔族の側にいた女性が戦っているのだが、バビューン!! でガガーン!! でドーン!! なのだ。両者がぶつかるたびに木々が吹き飛び地面がめくれる。爆発の熱風が土砂を巻き込みこちらまで飛んでくる。
つまり全く入り込む余地がない。啓太のへちょいステータスでは間に入った途端に跡形も残らず消されるだろう。
レイヴンは大剣を振り回してるし、シアンは死角から攻めようと動き回っている。魔族側の女性はそんなレイヴンの攻撃を受けシアンを躱しと大立ち回りを演じている。今は距離をとりつつ魔法を撃っているが、全員が速すぎて当たってはいない。それでも攪乱や目くらましに効果があるので魔法を途切れさせていない。
「ば、バカなっ! ヴァーミリオン早く倒しなさい!」
ザムザは3人の戦闘を見て顔を青ざめさせていた。青い肌なのであまり見た目は変わっていないが……まあそんなことは置いておくとしよう。
ザムザは盗賊を制圧した程度の人間風情など、古代魔法文明の強力な兵器である彼女がいれば簡単に潰せると思っていた。だが実際はどうだ。相手は2人がかりではあるがいい勝負をしているように見える。勿論ヴァーミリオンが弱かったわけではない。今の動きや魔法の威力や速度などどれをとってもザムザ自身敵わないだろう。
(何だあれは!? 盗賊を退治しに来た人間ではなかったのか!)
今もヴァーミリオンから魔法が多数の光線となって発射されたが相手は1発も当たることなく高速で躱し、弾き、距離を詰めていく。
「くっ! こうなれば私が」
ザムザは腕を上げ高威力の魔法を打つ準備をする。彼女たちには及ばない物の彼自身は魔王軍の中で一二を争う魔法の使い手であるという自負があった。
彼女たちは高速で動き回っているが一瞬でも動きが止まればその瞬間に魔法を打ち込むつもりで準備を行う。
「フフフ、私は魔王軍一の魔法の使い手です。動きが止まったときが最後、消し炭にしてあげましょう。」
シアン達の戦闘を呆然と見つめていた啓太だったが、ハッと我に返ると周囲を見渡す。あれほどの戦闘なのだ。近くにある村のことを心配したためである。
が、村の方――建物などに被害はない。また住人は戦闘音におびえて未だ建物から出てきていなかった。
これは、シアン達が戦闘で魔法を多数使ってはいる物の1つたりとも村や啓太が射線に入っていないためである。彼女たち3人は戦闘を行いながらもすべての魔法の弾道を計算し周囲への人的被害を考慮していた。
啓太は村が無事なことを確かめるとどうにかこの戦闘をシアン達の勝利で終わらせられないかと対応を考えようとした矢先に、腕を上げ魔法を唱えるザムザの姿が目に入ってきた。
(あっちの女性に気が向いている隙に攻撃する気か)
シアン達が互角に立ち会っていると勘違いした啓太は、せめてあの魔族だけでも自分がなんとかしなければと思い剣を抜きゆっくりと近づいていった。
幸い魔族の方はシアン達の戦闘に視線を向けておりこちらに気づいていない。
そしてその時が来た。レイヴンとヴァーミリオンが切り結び、シアンが魔法の発射態勢に入る一瞬の隙。3人が停止する。
「食らいなさい! 【獄爆炎】――」
魔法で形成された大型の火炎がザムザの掌に現れる。それを3人に向かって飛ばそうとしたが
「でりゃぁ!」
斜め後方から近づいていた啓太が一気に駆け寄りザムザの腕に向かい剣を振り下ろす。
間一髪で避けたザムザであったが体勢を崩したために魔法があさっての方向に飛んでいく。
「――っ!! クソッ 貴様ぁ!」
死角からの一撃を躱された啓太であったが、魔物相手に戦闘訓練を積んできた事が生かされ、振り下ろした剣をすくい上げるようにして2撃目を放った。それをザムザはまた躱したが一歩遅く頬に浅く切り傷が付いた。
だがその程度ではザムザの方は動きを止めることなく啓太を殴りつける。間一髪腕で防いだが、地力の違いから衝撃を殺しきることはできなかった。
「がっ!」
腕越しとはいえ頭部を殴られ地面へと叩きつけられた啓太は体を打ち付ける。が、それでも何とかしようという意地のような物に突き動かされ、倒れた状態で剣を振るう。その攻撃はザムザの方は予見していなかったようで、足を深く切り裂かれてしまう。
「ぐぁっ! こ、このっ、人間ごときがぁっ!」
格下だと思っていた相手に深手を負わされたザムザは怒り、魔法で消し飛ばそうと啓太の方に掌を向けた。
なおシアン達3人はザムザの魔法の反応は感知しており、その上で問題ないと判断を下していた。つまり、啓太の早合点であった。
「主様っ!」
横目で自身の主人が魔族に向かっていき倒れたのを確認したシアンはすぐにヴァーミリオンから魔族の方へと視線を変え、戦線をほっぽり出して主人の下へと向かった。
「何だ、よそ見なんて余裕だな」
完全に意識が逸れたのを好機と捉えたのかヴァーミリオンがたたみかけに向かったが、
「テメェの相手はこっちだよっ!」
ヴァーミリオンもまたシアンに意識を割いてしまい、レイヴンへの対処が遅れ遅れてしまった。
ボシュッ!!
肉片と腕が宙を舞った。




