40話 そう、彼女は3人目
第3者視点
ザムザ。魔王軍幹部の一人で、この近辺にある古代魔法文明の遺産の調査を任されていた人物である。そのため調査している辺りを根城にしている盗賊団をそそのかし村を襲わせ占拠させた。単純な陽動と目くらましのためだ。万が一の際には姿を消せばよい。そうすれば自身の目的は知られず、盗賊が村を襲ったという事実だけが残る。と言う考えだった。
そうして、ザムザは自身の調査地点である建造物へと向かった。
そこは村から少し離れた場所にある黒い一枚岩でできた巨大な建造物。正体は古代魔法文明時代の特務可潜艦である。それがどういうわけか地上に鎮座していた。全長98mで高さも十数mある。地面付近は長い年月で緑に覆われていたが上を向くと暗い灰色の船体が確認できた。
付近の村人などは『よく分からない黒い物がある』という認識で、昔からその場所に存在するため特に気にもとめていなかった。中に入るような場所も無かったため単なる岡だと思っていたのかもしれない。
ザムザは「なぜこんなことを自分が」とぼやいていたが、魔王軍としての活動である。盗賊をそそのかした後すぐ目的の場に行き内部に入る方法が無いか調べた。
幸運だったのはすぐに内部に入る方法を見つけられたことだろう。魔法を使い頂上に登ってみると狭い入り口を発見しすぐに中に入った。
明かりはザムザ自身が得意としている魔法を使用し、中に入ってみると見たことも無いような内装がザムザを迎えた。だが内装などにかまっている暇は無いとすぐに内部の調査を開始した。
「何者だい、何をしに来たのかな?」
その声はその声は廊下に反響して、しかし周囲にはっきりと聞こえた。魔法の明かりを強めると、前に1人の女性が立っていた。
女性はこの艦内への生物の侵入を検知すると同時に待ち構えていたのだ。
一方のザムザは身体的特徴などからして龍人族では無いかと当たりをつける。
「おや、あなたは?」
「質問をしているのはこっちだよ」
なぜこんな所に龍人族がいるのかザムザには分からないが、相手が自分に対し疑問を投げかけたこと自体が疑問だった。
何をしに来たかは分からずとも何者かは分かるだろう今はフードをかぶっておらず青い肌がはっきりと見えている。この肌を見れば誰であろうとも魔族だと言うことが分かるだろう。
だが目の前にいる女性はそれを知らなかった。当然である彼女は人では無いのだから。
「……ザムザと申します。ここへは調査で訪れました」
ザムザはとりあえず会話により相手がどう出るか確認することにした。
「ボクは〈ヴァーミリオン〉。ここを守っている。ザムザだっけ、早速だが退去してね」
「それはできませんねぇ。一応こっちも任務なので」
「ふーん、力に訴える事もできるんだけど?」
叩き出すぞと言ってくる女性だが、ザムザにしてみれば魔王軍幹部であり魔法の得意な自分の方が有利であると考えている。
「それこそ不利なのでは? 龍人族とはいえ、私は魔王軍幹部。それなりのステータスを要しています。勝てるとは思わないことですねぇ」
「魔王軍? 龍人族? 何を言っているんだい? ボクは龍神族などでは無いし……魔王軍なんか知らないぞ」
「……? まあいいです……」
そう言うとザムザは呪文を唱えて、
「――【拘束】」
ザムザが魔法を唱えると魔力でできた縄が彼女――ヴァーミリオンを縛り上げた。ザムザは魔法が得意とはいえ呪文を唱える時間はそれなりに要する。彼は話をするふりをしてその呪文を唱えていたのだ。
「む!?」
「このまま殺してしまうのも惜しいですねぇ。私ほどではないといえ龍人族ですから……そうですね、操って手駒にしましょう。」
そうして長い呪文を唱えていく。ザムザが使う精神操作系の魔法である。構成にかなり時間がかかるため隙ができやすいが、今回は相手を捉えて動けなくしており、また周囲に邪魔をする仲間などの存在もいないためゆっくりと確実に呪文を唱えていく。やがてザムザは呪文を唱え終わり、
「――【精神操作】」
そう言ってザムザはかけた対象を操るための魔法を放つ。その魔法を正面から受けたヴァーミリオンの瞳は徐々に力をなくしていき――
◇◇◇
「クソッ、何もないな。扉は開かないし……魔法で吹き飛ばしましょうか」
その後ヴァーミリオンを連れて艦内を捜索しているザムザだったがめぼしい成果もなく苛立っていた。通行できる部分や入れる部屋など捜索したが何もなかった。いや実際にはいろいろな機器があるのだがそれは艦の一部でありそれ単体では意味をなさない。
先ほど言った魔法で吹き飛ばすという案だが、扉自体がかなりの強度を誇るが故にそれを破壊できる魔法を使えばその向こうにある物、そしてこの艦自体に損傷が及ぶ。
「あなた、ここにいたのでしょう、何か知らないのですか?」
「なにも。ボクも積み荷の一種だったからね」
「……ん? 積み荷? あなたは一体……龍人族ではないのですか?」
「ボクか、ボクは――――」
そうしてヴァーミリオンは自身の正体を語っていく。それはザムザにとって喜ばしい結果となった。
「フハ、フハハ……まさかあなたが! ハハハ、これは! これで私は……」
ヴァーミリオンの正体を知ったザムザは大声で笑い出す。ザムザは今まで不機嫌だったのが嘘のように上機嫌になりひときしり笑った後、
「これで魔王様も……成果は得ました。帰りますよ!」
「分かった」
そうして、可能な箇所はすべて見て回ったザムザ達は艦を後にした。。




