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38話 盗賊退治2

「なんだこいつら――ぎゃぁ!」

「て、てめぇ――がへぇ!」

「か、囲め! か――げべぇ!」


 シアンさんの拳が打ち込まれるたびに奇妙な形に折れ曲がった人間が宙を舞う。

 レイヴンさんの持っている剣が閃くたびに盗賊の一部が宙を舞う。


 そうしてあっという間に広場にいた盗賊20人ぐらいだっただろうか? が物言わぬ屍となった。


「ちっ、歯ごたえのない奴らだ」


 そんなことを呟きながら、レイヴンさんが剣に付いた血を払っている。


「……誰か出てきます。レイヴン警戒」


 シアンさんがそう言った次の瞬間に目の前にあった大きな建物の扉が勢いよく開き中からガタイのいい――だが見た目的には下品というか汚らしい3人組が出てきた。


「おいおい、何だぁこりゃぁ!?」


 出てきた3人組の中で一番大柄な、中央にいた人物が周囲を見回して大声を上げた。その手には、ボロボロになった人間の子供が引きずられていた。あまり直視したくはない。

 その3人組は明らかに先ほどまでの雑魚共とは一線を画するような雰囲気を纏わせていた。

 すげぇ、こいつはただ者じゃねぇ……と思ったけど、単純に見た目と威圧感がすごいだけで実は弱いとかありそう。冷静に考えれば、盗賊なんてやってるぐらいだし正規の方法で稼げなくなった奴が強いとかはおそらく無いんだろうけど。


 一応、シアンさんとレイヴンさんは厳しい目で出てきた3人組を見ているが、まあおそらく相手にならないだろう。


「あなたも盗賊の仲間ですか?」


 戦闘態勢――構えをとかずにシアンさんが3人組に問いかける。


「ずいぶん別嬪さんじゃねぇか、テメェ等がこれをやったのか?」


 3人のうち真ん中にいた一番ガタイのいい奴がこちらに問いかけてきた。左右にいるのは妙に細い――定番ではスピード重視の奴と、妙に太っている奴――同じく定番ではパワーファイターだ。

 そいつらに対して、シアンさんとレイヴンさんは無言で睨み付けていて


「へへへ、まあいい、逃げなかったことを後悔させてやるぜ」(多分トップ)

「へへ、アニキに目をつけられちゃお終いだなぁ」(細い奴)

「ブフフ、お、オデ、あっちの青い髪の子がいい……」(太い奴)


 ……何というかテンプレっぽい台詞ですね。見た目や登場の仕方からして盗賊の頭っぽい。

 なぜこんなに落ち着いているかというと、ジークさんがコッソリ裏から回り込んで人質が安全かどうかを確認して貰っている。そうして建物の中をのぞき込んでいるジークさんから室内にもう盗賊がいない(安全だ)という合図を送ってくる。


 俺は村のことなど何も知らないためジークさんにはついて行かずに合図をシアンさん達に伝える。

 合図はシアンさん達が戦っているときに決めた即席の物のため、声を出して伝える。


「シアンさん、建物の中に盗賊はいないのでアレで最後みたいです。」


 そう後ろからシアンさん達に声をかけた。シアンさん達は分かりましたと頷いてくれる。


「お(かしら)が誰だか知らないようだな! 聞いて驚け、H盗賊団のスケベマンって言や、この辺りじゃ一番の大物賞金首よ!」

「オイオイよせよ、お嬢ちゃん達がブルってるだろ。」


 細い奴が真ん中の盗賊のトップを指しながらそう自信満々に言うと、トップがまんざらでもないって顔でなだめるような言葉をかけるのだが……スケベマンって名前か? 変な名前だな。H盗賊団といい命名基準が気になる所だ。

 ……いや、他人の名前にケチをつけるべきじゃないな。もしかしたら俺が変だと思っているだけでこの世界では普通のことなのかもしれない。なんと言っても俺は異世界初心者だ。俺の方が常識が無いと言うこともあるだろう。きっとスケベマンというのもこの世界では力強い感じの良い名前なのかもしれない。

 俺はそんなことを考えているが周囲の状況はどんどんと進んでいく。


「じゃあ、お嬢ちゃん達にはちょっと痛い目を見て貰おうか。大丈夫だ。その後にたっぷりとかわいがってやるからよ」


 スケベマンさん……盗賊のトップがそう言うと左右の人たちが一歩前に踏み出してそれぞれの武器を構えた。

 細い奴はレイピアのような細身の剣の二刀流を装備しレイヴンさんに、太った奴はトゲの付いたハンマーのような物を装備してシアンさんに、それぞれ向かっていこうとする。



 まず動いたのが細身の奴で、思った通り素早い動きで一気にレイヴンさんに肉薄すると、左右へのフェイントを入れつつ見えないほどのスピードで切りつける。それをレイヴンさんは持っていた剣で受け止め……


「ひゃははぁ、この連撃を受け止めるたぁ――」


 ……相手が次の手を繰り出すためのタメを作った瞬間に手首を切り飛ばし――


「――はぇ?」


 その後、呆然とした細い奴を脳天唐竹割りよろしく大剣の上段から振り下ろしによりとっさに防御しようとした手の無い腕ごと真っ二つに切り裂いた。そのまま左右に分かれたからだがゆっくりと倒れていった。よほど綺麗に切ったのか血があまり飛び散っていないようだ。


 シアンさんに向かい太い男は、スピードはそれほどではないものの、その膂力よりハンマーを上段から一気に振り下ろし――


 ガンッ!!


 その一撃に遭わせるように繰り出されたシアンさんの拳がアッパーカットのようにハンマーと打ち合い……ハンマーが粉々に砕け散った――


「――はぇ?」


 その後呆然としていた太い奴をさらに一歩踏み込んで振り切った腕を戻すと同時に逆の腕で胸部に掌底を食らわせると男の上半身が爆発したように吹き飛んだ。衝撃を吸収しきれなかった肉と骨が粉々に砕け後ろ側の皮膚を咲き噴水のように噴き出したそうだ。



 ――というようなことがあったと後日の証言から分析した。

 いや、シアンさんの方はともかくレイヴンさんの方は相手もそうだが、動きが速くてよく見えなかったので。


 とにかく、2人の側近が瞬殺されたわけで、スケベマンさんはその光景に目をむいたまま固まっている。

 ちなみにジークさん(村人)も固まっている。


「ててて、テメェ等、なっ、なんだ、なんだよそりゃぁ……」


 スケベマンさんはどうにか硬直から回復した用だが目の前で起こったことが信じられないと言った様子で声が震えている。


「お、おい、あいつ……どこ行った! ザムザ! ザムザ、出番だぞ! クソッ、あの野郎どこ行きやがった! こんな時の魔法使いだろうが!」


 スケベマンさんが何かよく話からにことを叫んでいるが、シアンさん達が先ほど倒した側近の死体をよけてスケベマンさんに1歩2歩と近づいていくと、明らかにうろたえ始めた。

 そのまま、スケベマンさんは周囲をうろちょろと見回しながら何かを探すような仕草をしたが――仲間を探しているのだろうか? それとも武器?

 何も無かったのか視線を下に落として、


「て、テメェ等動くな! コイツがどうなってもいいのか!」


 手で引きずっていたボロボロの女の子(おそらく村人)を抱え上げて盾にするように自分の体の前に持ってきた。


 その行動にシアンさん達の動きが止まる。


「へへへ、動くなよぉ、こいつ――ガッ!!」


 もう明らかにこっちを向いていなかった――シアンさん達の方にしか注意が言っていなかったため俺が後ろから忍び寄ってショートソードで突いてやった。ミスリルのショートソードなので切れ味は抜群。その上、首から上に向かって頭――脳に達するように刺してやったのでおそらく即死したと思う。


 ちなみに殺人に対する忌避感なんて言うのはすでに薄れている。(倫理を逸脱するほど薄れてはいないが)

 教会にいた時点で何度も2足歩行するモンスターを倒したし、この世界では盗賊などは殺しても問題ないと『一般的』に思われていることが罪悪感を薄めていると思われる。

 と言っても後味の悪さは否めないが。


 ショートソードをスッと抜くと、スケベマンさんはそのまま倒れた。

 ただ、前に倒れたため盾になっていた女の子が下敷きにならないように慌てて引き寄せた。


「とっ、大丈夫?」


 引き寄せた女の子はぐったりしており声をかけてやるが反応が無い。死んでいるんじゃと思ったが、一応体温はあるし呼吸もしているようだ。


「大丈夫ですか、主様」

「やるじゃねぇか、マスター」


 シアンさん達は俺が忍び寄ったときはそれを動作に出さないようにしていてくれたようで、スケベマンさんが死ぬとすぐに駆け寄ってきた。

 ついでにジークさんも駆け寄ってきてくれた。


「ジークさん、この子を。あと盗賊は全部殺したと思うので村人達の方を」

「わ、分かりました」


 ジークさんはその子を抱きかかえると、村人が集められている建物の中に入っていった。


「ふぅ、これで終わりかな」


 そう思い顔を上げて周囲をなんとなく見回したときだった


「――ッ!!」


 何かが高速で俺たちのいるところに飛んでくるのが見えた。

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