37話 盗賊退治
装甲車に男性を乗せ、道をひた走ること10分ほど。目の前に村が見えてきた。規模はそこまで大きくは無くせいぜい百数十人程度の村だろう。外壁も木を組んだ柵のようなものがあるだけだ。
これでもスピードを出してきた方だ。馬で連絡に向かって、などやっていたらおそらく後1日はかかっていただろう。
なお男性――ジークと言うらしい――の説明によると村人は村の中心にある一番大きい家――村長の家に集められているらしい。
ジークさんはこのあたりの地理に詳しいようで正確にナビゲーションしてくれている。
そうして到着した村の入り口だが、見張りだろうか武装した男が2名ほど立っているのが見えた。
「あれは、村人ですか?」
入り口にいた2名を指しジークさんに尋ねる。
「ち、違います。盗賊です!」
そもそも小規模な村なので武装した人間など常時配置してはいない。国の兵士や冒険者にも連絡が取れていないということで、その武装した人たちは盗賊で間違いないと。あと2人とも装備がまちまちで、しかも汚れまくっているし。
「分かった……シアンさん」
「了解しました」
さすがはシアンさんだ。瞬時に俺の意図を組んでくれたようだ。
村人が人質となっている以上いきなり攻撃を仕掛けるのは不味い。まずはネゴシエーションだ。こう見えても俺は友人はいるし、コミュニケーションの自己啓発本も何冊も読んできた男だ。それに相手は盗賊だ。おそらく見返りを提示すれば無傷で人質から遠ざけられるかもしれない。相手を刺激しないようにしないとな。
ある程度距離を置いたところで装甲車を止め、俺が交渉のため声を出そうとすると、
「おい! テメェ等盗賊で間違いないな!」
レイヴンさんが大声で盗賊に声をかけてしまった。あ、あれ? 俺のせめてもの見せ場が……
「なんだ冒険者か!? あの逃げ出した野郎が連れてきたのか」
「ずいぶんと早ぇじゃねえか……そうだよ俺たちがあのH盗賊団だよ! テメェ等なんぞ返り討ちだ!」
そう言うと男たちは武器を構えこちらに殺気のようなモノを飛ばしてきた。まあ、殺気なんて感じ取れないんだけれど、殺る気満々といった感じで目をギラつかせて武器を向けているし。
まずいよ。こうなると交渉しにくい。
そう思った途端に、ガックンと車体が揺れ……
「「へぶぎゃらぁ!!」」
……急発進で盗賊どもに突っ込んで行った。
通せんぼしようとした盗賊2名が宙を舞う。十トン以上ある装甲車の体当たりを食らえば彼らの命もそこまでだろう。
「…………」
えぇ~。どういうこと?
「盗賊だと確認できましたので、排除しました。」
シアンさんが淡々と説明してくれた。あれ、交渉は?
その後、ゴーストタウンかと思うほど人気の無い村の中を爆走し、
キキィ――!! と言うブレーキ音と共に止まったのは村の中心にあるひときわ大きな家その前にある広場だった。
「よしっ! 降車! 降車!」
そう言いながら剣を抱えて素早く後部ランプから降車していくレイヴンさん。俺たちもあわてて後に続く。
シアンさんは運転手ハッチからするりと身を出しつつ車外へと優雅に着地を決める。
「なんだ! なんだ!」
「どうした!」
外に出た俺たちが見たのはワラワラと集まってくる武装した男達――盗賊達だった。そりゃあれだけ派手な登場をすればこうなるよね。
「シアンさん、レイヴンさん気をつけて! あと村人がいることを忘れないようお願いします!」
「はい!」
「おう! 任せときな!」
シアンさんは頷き、レイヴンさんは親指を立てて答えてくれた。
「なんだ、なんだぁ?」
「おいおい、別嬪さんだなぁ」
「お姉さんたち、どうしたのかなぁ~」
わらわらと集まってきたのは当然なのだが、その後、シアンさんとレイヴンさんを見ると武器を下ろしニヤニヤしながら近づいてきた。まあ、おそらく慌てて出てきた物の、女二人と見て(俺たちもいるが)油断しきっているのだろう。
ジークさんは俺の後ろに隠れて震えている。いや、俺もそんなに強くないんですよ。一般人に比べれば少しステータスが高いって言うだけで。
「確認したいことがあります。あなた達は盗賊で間違いありませんね?」
シアンさんが臆した様子もなく周囲を包囲している集団に淡々と問いかける。
「おいおい、まさか冒険者様か?」
「へへへ、そうさ。俺たちがあのH盗賊団だよ。ビビったか? 大丈夫、姉ちゃん達は殺さないでいてやるよ。」
男達が下卑た笑みを浮かべながらこちらに……シアンさん達の方に近づいてくる。
ところでH盗賊団って何だろうか。自信満々な所からして有名なんだろうか? 聞いたことはないが。ちなみに、「エイチ」ではなく「エッチ」と発音している。
「レイヴン、主様の指示を覚えていますね。村人に留意するように」
「て、言っても、ここにいるのは全員武装しているぜ。全員盗賊だろ?」
「……そう、ですね。後ろの建物から大量の反応があります。あれが言っていた村人を集めている建物でしょう。ここにいるのは武装している者のみですね……無理矢理従わされている様子もありませんし盗賊と判断してよいでしょう」
シアンさんとレイヴンさんは暢気に会話しているが周囲への注意は払っているようだ。俺はおそらく加勢すると足手まといになっちゃいそうなので、ジークさんと一緒に見ているのがいいのだろうか?
「へへ、ビビって動けないのかなぁ」
盗賊の一人が声をかけながら腕をレイヴンさんの胸に伸ばそうとして――
ピュンッ!
レイヴンさんの腕が一瞬ぶれたかと思うと何かが宙を舞った。
そうして次の瞬間ドサリと腕を伸ばそうとした盗賊が膝をついた。
何だろうかと思っていると宙を舞っていた何かがドサリと落ちてコロコロと足下に……
どぁ! これ生首だ! というかさっきの一瞬で盗賊の首が飛んだようだ。
周囲はまだ何が起こったのか理解できていないようでポカーンとして……
その隙に距離を詰めたシアンさんとレイヴンさんが次々と盗賊を退治していく。
その光景はまさにワンサイドゲームの様相を呈しつつあった。




