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36話 トラブルの種

 大学に上がると、仲のいい友人が全員他校に行ったため俺の人間関係はリセットされた。

 しかしある程度割り切っていたため、一人でいることも苦痛ではなかった。読書が好きであったため一人で本を読んでいることも多々あった。

 そのうち、同じ講義をとっていた石田たちとも仲良くなった。と言っても友人の数は片手で数えるほどで、それ以上交友関係を広げようとも思わなかった。

 まあ、数人でも講義の時間他愛もないことでおしゃべりしたり、飯を食いにいったりとそれなりに充実していたと思う。


 そうして大学卒業と同時に地元の中堅企業に入社した。この際にもまた人間関係はリセットされるものと思っていたら石田が同じ会社に入社すると聞いて少し驚いた。

 その後新入社員として、石田の他2名と顔合わせした。入社2日では別に仲良くはなれない。せいぜい同じ新入社員としてアドレス交換をしたくらいだ。

 そのまま入社3日目にこの世界に呼ばれた。


 何が言いたいかと言うと、俺のコミュニケーション能力は別段優れているわけではない。むしろ低い部類に当たるのであろうということだ。そんな俺でもネゴシエーション位できると思っていた時期がありました、はい。


 そんなことをぼんやりと考えていると、目の前で世紀末モヒカン野郎たち(の一部)が次々と空を舞っている所だった。




 ――少し前


 ドラゴンを迎撃し、再度装甲車にてのんびりと街道を進んでいる(スピード自体はでているが乗り心地がいいのでのんびりできるのです)。

 この世界では魔物の素材は様々な物に加工されるためにドラゴンの素材も売れるのかもしれないと思ったが、あいにくとあんな大きな物を持っていく余裕はなかった。そのため死体は放置してきた。

 街道を進む装甲車から顔を出し周囲を見回す。なお車内は冷暖房完備の快適空間で、レイヴンさんが席にもたれかかって寝ていたりする。ただ、装甲車は窓がないため車内空間は十分に広いにもかかわらず圧迫感がある。そのため、たまに周囲の景色を見たりしているのだが。

 しばらくそんな状態が続いていたが、


「主様、分かれ道のようです。どうされますか?」


 シアンさんの声が聞こえたので、前を見ると少し行ったところで道が二つに分かれていた。今俺たちは東から西に向かっているのだが、片方の道はそのまま西へと続いており、もう片方の道は北西へと続いている。


 地図上では目的地の〈コロッサス〉へは、俺たちが通った国境砦からは北西の方角にある。

 ただし、この世界の地図はかなり曖昧だ。国境の形と街の位置が記載されていれば上等で、道など記載されていない。(千人規模の町でさえ記載されていない粗末な地図もある)

 この世界、と言うか文明レベルだと詳細な地図は国家/軍事機密となるようで、今持っている地図も記載内容は大まかな国の形と大都市の位置のみである。


 位置関係から言えば北西へと続く道に行けばいいのかもしれないが、その道がそのまま真っ直ぐ続いているとは限らない。

 誰かに聞ければいいのだが、あいにく周囲に人は――



 進んで行くと、ちょうど分かれ道の所で男の人が一人たたずんでいた。側には倒れた馬がいる。

 何かあったのだろうか?

 遠くてよく見えないが、男の方は何か肩を落として悲壮感が出ているように見える。


「シアンさん、少し事情を聴くから停めて。」

「分かりました。」


 あの人に道を確認してみよう。もし何か困っていることがあればできる範囲で手助けはしてもいい。

 そうして装甲車を分かれ道付近まで進めていくと、男は馬を見つめて悲壮な顔をしていた。

 横たわっている馬はピクリともしない。死んでいるのだろうか。となると、移動手段が無くなって困っているという所だろうか。


 ある程度近づいたところで装甲車を降り、男の人に近づいていく。

 車内でグースカ眠っていたレイヴンさんも一緒に降りてきて後ろに付いて来ていた。おそらく警護のためだろう。話をするだけだから、別に寝たままでよかったんだけれど……まあいいか。

 

 ――と思いながら近づいてみると、倒れている馬には矢が何本も突き刺さっており、さらに男の方も右腕に怪我をしており、左手には小振りのナイフを持っていた。

 厄介ごとの匂いがするが、今更引き返せない。


「すみません、どうかされましたか?」


 声をかけると、男の人は俺たちに気付いたみたいでビクッとしてあわててこちらを振り返り、


「え、あ……」


 警戒しているのだろうか持っていたナイフをこちらに向けたが、こちらの顔を確認すると一気に泣きそうな顔になり、いきなり掴みかかってきた(ナイフを持ったまま)。


「た、助けてください!! む、村っ、と、と、とうぞっ、む、村にっ――へぶぅ!!」


 男はよほど慌てているのだろうか、声がつっかえつっかえで要領を得ない。が、おそらく助けを求めるような内容だったのだろう。しかしナイフを持ったまま突っ込んできたため、レイヴンさんにアイアンクローされて俺の一歩手前で止まった。


「あ、いだ、いだだ――いだぁ!! た、助けてくれぇ!」

「ウチのマスターに何――「落ち着いて、怪我されているようですし、まずは手当てをしましょう。」


 片腕で男性を吊り上げたレイヴンさんがガンを飛ばそうとするが、何となく勘違いだというのは分かるのでレイヴンさんに放すように言う。まあ、レイヴンさんも問答無用で殺さなかったし多分分かっているのだろう……と思う。

 

 解放された男は頭をさすっている。よほど痛かったのだろう。

 一応ナイフは取り上げておいて、怪我をしている右腕の手当てをするように言う。

 車内から救急箱っぽい物を手に持ったシアンさんも来て、男性に腕を出すように言った。


「上着を脱いで腕を見せてください」

「…………」

「あの、どうかされましたか?」


 レイヴンさんの腕から解放されて、さっきまで頭をさすっていた男性だが、シアンさんも合流していざ手当となった時にこっちを向いて固まってしまった。

 おや、顔が赤くなっているようだ。

 ははーん、シアンさんとレイヴンさんに見とれているな。この好き者めが。


「あの、怪我の手当てをしたいのですが、あと、事情も聴きたいのですが。」


 俺がそう言ってやると、男性ははっとしたような顔をして、言葉に従い始めた。


「実は――「【ヒール】……はい、治りましたよ。」――え!? あ、はい……」


 怪我を治してもらった男は事情を話し始めた。多少焦っているのか説明足らずで聞き返す部分もあったが少したったころには事情はおおむね理解した。


 なんでも彼のいる村が盗賊と思しき連中に襲われ、占拠されたらしい。思しきというのは盗賊にしては人数が多く装備品も良い物だったためだそう。

 逃げ出そうとしたものは殺し、村人は人質か労働力か知らないが一か所に集められているという。

 彼は占拠された村から盗賊の目を盗んで助けを呼びに行こうとしていたのだが、村を出る寸でのところで見つかって切りつけられたり矢を射かけられたそうだ。右腕の怪我はその時に負ったそうで、死んだ馬に刺さっている矢もその時の物だそうだ。

 馬の方は矢が刺さりながらも走ってくれたがちょうどこの分かれ道で力尽きた。だがまだ近くの村や町までは距離があるし、彼が逃げられたことはすでに盗賊たちに知られている。そうして途方に暮れていたところだったという。


「嘘は言っていないようです」

「まあ、そうだろうね」


 俺は感じたまま返事をしたが、シアンさんは口調や視線、体の動きを観察して総合的に出した結論だそうだ。

 さすがにその辺までは一般人の俺では判断できない。切羽詰まっている様子ぐらいしか分からなかったが、シアンさん、レイヴンさん共に嘘を言っている可能性は低いという結論だった。


「あ、あのっ! あ、あなた方は冒険者の方ですか?」

「あ、ああ、そうですが……」

「な、なら、お願いします! 近くの町まで応援を呼んできてください!」


 おそらく、こちらは男1人女2人なので戦力としてはあまり当てにできないと思ったのだろうか、盗賊退治ではなく応援を呼びに行くように頼む男性。

 いやまぁ、さすがに見捨てるのは後味が悪い。急いでいるだろうから近くの村か街まで乗せて行ってあげてというのも時間を食うだろう。

 状況をかんがみるに悠長に援軍を呼んでいる暇などないと思う。聞けばすでに数名が殺されているらしいし。

 戦力を過信するわけではないが、シアンさんとレイヴンさんがいればそこいらの盗賊など何人集まったところで物の数ではないだろう。


「分かりました。こう見えても腕に覚えがあるんです(後ろの二人が)。村へ案内してもらえますか?」

「へ? あなた方が……む、無理です! たった3人だけなんて、盗賊はかなりの人数がいました。」

「心配ないです。こう見えてもCランク冒険者なんですよ(後ろの二人は)。」


 ちなみに俺はFランクだ。

 男性は悩むそぶりを見せ、俺たちに視線を向けるが最終的には、


「で、ではお願いします。ほ、報酬は出しますから村を助けてください!」


 そう言ってお願いしてきた。

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