35話 迎撃
宿屋でのエロい出来事など何もなく、だからと言ってすんなり眠れるわけもなく悶々としたまま朝を迎えた。
くそぅ、二人ともすんなり眠りやがって、いたずらしてやろうか? ……まあできないんですけどね。
童貞なめんなよ、据え膳出されないのはもちろんだが出されてもビビって手を出せないから童貞なんだよ!
寝不足状態であったが無事国境近くの街での情報収集を終え――人が通る街ということで多少期待した物の、あまりそういった情報は持っておらず情報はほとんど得られなかった――出発した。目的地はこの国にあるコロサッスと言う街だ。そこは学術都市という名を関しており、様々な技術や知識が集まるらしい。
魔物との最前線であるこの国では様々な先進技術が存在し、また魔物との戦争で一致団結(表向きは)している周辺国の先端技術もその都市に集まる。
この近辺では地球への帰還のための魔法も存在するとすればそこが一番可能性が高いと思われる都市だ。
ただその都市は国の真ん中近くにある。今現在、国境近くにいるためかなりの日数がかかる予定である。
先ほど国境近くの街を出立したばかりで、次の街まではかなりの距離がある。この世界は現代日本などと違い、街の内外の境界線ははっきりしており、街と街の間は大自然が広がるのみだ。
一応道はあるようだが、それだって別にちゃんと舗装されているわけではなく、人の往来が多いため踏み固められただけだ。
地球よりも少ない人口に加え街の間を移動する必要のある人と言うのは限られてくるので、今移動していても周囲には人ひとり見かけない。
これだけ人がいないのであれば、少しぐらいスピードを出してもいいのではないかと思っていたのだが、俺のそんな思いとは逆に、装甲車はどんどんとスピードを落として最後には停車してしまった。
周囲には大自然が広がるばかりで何もない。次の街もいまだ見えもしていないのにどうしたのだろうか。
……何だろう、故障か何かか?
疑問に思い、シアンさんに声をかけようとしたところで、運転席の方からシアンさんが声を上げた。
「レイヴン。11時方向、対空警戒!」
「りょーかい! っと」
そう言うや否や、今までリラックスしていたレイヴンさんが、荷物の中から魔力砲(シアンさんのいた施設で見つけた大型のビーム砲?)を抱え、装甲車を飛び下りた。
ひらりと舞うスカートにロマンを感じる。
そうして、進行方向の斜め前ぐらいの空を睨む。
続いて、シアンさんも運転席ハッチから出て装甲車の上に立つ。そうして同じ方向を見ている。
一人だけ置いてきぼりなんだけれど。
俺は装甲車から半身だけ出しているので一段低い位置にいる。そのため、位置関係からシアンさんのパンツ見えそう……とか言ったらダメなんだろうなぁ。
「えっと、何かあったのかな……シアンさん?」
「11時……西の方向から高速飛翔体が接近中です。数2。速力約300km/h。魔力反応からかなり大型の魔物の類かと。」
「え、あ、モンスターが近づいているの……こっちに来るの?」
「ええ、もう間もなく視界に入るかと…………魔力波形照合完了。ドラゴンの類ですね。」
「え、ド、ドラゴン!? それが来るの?」
「ええ、……主様、この時代ドラゴンの領域が人里近くにあるというのは普通なのですか?」
「普通じゃないよ!?」
ドラゴンは災害であり、国家レベルの対策案件である。そんなホイホイと人のいる所に出てきてもいいものではない。
以前、石田や東雲君らで倒したドラゴンですら勇者他の高ステータスの皆でかかってようやく倒せたのだ。それですら死者が出てしまっている。
どうしよう……やり過ごせないだろうか? でもこの近くにいるってことは近くの街が襲われる可能性があるということだ。
「シアンさんどうにかできない? 今から近くの街に急いで知らせる位はできる?」
「どうにか……その言い方だと、ドラゴンは現在では魔物と同一の扱いという認識でよいのでしょうか?」
「……現在では?」
「ええ、私たちのいた時代では絶滅危惧種でしたので……」
そう言ってくるシアンさんの横からレイヴンさんも割り込んできた。
「オレ等の時代のドラゴンって、人を食うんで害獣として排除してたらメッチャ数が減ったんだよな」
古代魔法文明時代はそんなことになっていたのか、害獣扱いで排除ってどんだけ強いんだよ古代魔法文明……いや、今はこの状況をどうするかだな。
「とにかく、ドラゴンは魔物の中でも最強の一角なんで、災害というか国が対策するようなレベルなんだよ。ドラゴンが出たとなったら大軍で挑んで倒すのが主流みたいなんだけれど」
と言って、俺はこの世界に来てから学んだ竜についての事をシアンさん達に教えた。
「なるほど。てぇことはあれは倒してしまっても構わないんだな。」
そう言って舌舐めずりして鋭い視線を空に向けるレイヴンさん。
レイヴンさんは地面に降りて両腕で魔力砲を構えている。レイヴンさんのステータスは知っているのだが、それでも魔力砲の大きさは大きく、固定もせずに大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
「え、あ、うん。倒せるならそのほうがいいんじゃないかな……え、倒せるの?」
「ああ、でも――「レイヴン」――分かったよ」
レイヴンさんが何か言いたそうにしていたが、シアンさんが割って入ったため、渋々と言った感じで肯定の返事をした。
「……?」
なんだったんだろうか今のやり取りは。
「来ます……目視で確認!」
その空の向こうには雲を突き抜けて飛翔する2頭のドラゴンの姿があった。雲の中を飛んでいたらしく、雲を突っ切って出てきたその姿をとらえる頃にはすでにかなり大きく見えるようになっていた。色は黒く大きさは俺が以前『勇者パーティー』で倒した奴の倍以上あるように見える。
さらにそのドラゴン達はかなり低空を飛んでいるようだ。あれだと、街などの上を飛んだらパニックになるかもしれない。
次の瞬間――
――ズガッァァン!!
閃光が空を走ったと思ったら、先頭を飛んでいた1匹のドラゴンの左胸部から腕部にかけて命中、そのまま消し飛ばした。
あわてて周囲に視線を走らせると、レイヴンさんの構えていた魔力砲から放たれた一撃が、ビームのようにドラゴンを打ち抜いたようだ。
そのまま先頭のドラゴンは絶命し空中で大爆発を起こした。
「ブレス器官を打ち抜いたのでしょう。魔力の飽和により暴走し爆発したのかと。」
後日、シアンさんの話によると、ドラゴンにはブレスを吐くための特殊な器官があり(中略)高濃度の魔力線にさらされた結果、飽和限界を超え(以下略)
よく分からないが、とにかくドラゴンの場合、魔力砲の当たり所によっては爆発するようだ。
「次ぃ!」
再度、レイヴンさんは魔力砲を構え――そうして再度閃光が走る。
だが、もう一匹のドラゴンは爆発に煽られたようでフラフラと姿勢を崩しそうになっていたが、それが功を奏したようで魔力砲の閃光は右翼を貫き消し飛ばしただけになってしまった。
「ちっ、外した!」
片翼を失い錐揉みしながら落下してくるドラゴン。そうして地面に轟音と共に叩きつけられた。
ドラゴンが地面に叩きつけられ盛大に土煙が巻き上がる。
「くっそ! 土煙で見えねぇ!」
「反応確認。まだ生きています。レイヴン魔力探知を行いなさい……と言うまでもなかったですね。」
そうシアンさんがレイヴンさんに冷静に忠告したすぐ後に、血をまき散らしながら土煙を吹き飛ばしながらドラゴンが立ち上がった。地面に叩きつけられた衝撃か鱗の隙間から血を流してはいるが、その獰猛性は薄れてはいないようで咆吼をあげながら――
「ギャアォ――「うるせぇ!」
3発目の閃光はドラゴンの頭部の上半分を吹き飛ばした。
頭の大部分を失くしたドラゴンはそのままゆっくりと倒れてやがて動かなくなった。
「おっし! 死んだな。」
「反応なし。障害排除。」
「…………」
もう何と言っていいのかわからない。どう見ても以前見たドラゴンの倍以上の体格を誇る奴を、それも2頭を瞬く間に倒して見せたマリオネットさん達。
え、何……その魔力砲がすごいの? レイヴンさんがすごいの? ワカラナイヨ……
「よーし、終わり終わり」
そう言いながら構えていた魔力砲を肩に担いでこちらに戻ってくるレイヴンさん。
「あ、えっと、す、すごいね……レイヴンさん」
「ははは、そうだろう! もっとオレを頼ってくれていいんだぜ!」
レイヴンさんが調子がよさそうにニカッと笑う。
「……むぅ、主様、最初に見つけたのは私なのですが」
「ああ、シアンさんもお疲れ様。有難う、助かったよ」
「は、はいっ! もちろんです!」
恨めしそうにこちらを振り返ったシアンさんだが、褒めると一転し、笑みを浮かべていた。チョロイン?
そんなシアンさんだがレイヴンさんの方に向き直ると少し怒ったような表情になる。
「はぁ……それにしても、レイヴンあなた先ほど、こちらに気付かせようとしましたね」
「……だって、真っ向から戦ったほうが面白いじゃん」
シアンさんの指摘に対して飄々と答えるレイヴンさん。
「こちらには主様がいるのです。なるべく安全に倒せるならそれに越したことはありません」
「はぁ、わーったよ。真面目だねぇ……」
ドラゴンはこちらに気付きもせず悠々と移動中だったようだ。それに対して、レイヴンさんはどうやらドラゴンとのタイマン(2体いたが)を望んでいたらしく、先ほどドラゴンの注意をこちらに向けようとしていたらしい。俺という主人がいるため安全性に問題があると判断したシアンさんが声をかけて止めさせたみたいだが。
あんな無警戒に直線移動している奴なんて相手にならないとはレイヴンさん談だ。
「その割には2発目は外していましたけれどね……」
「うっせ、バーカ、バーカ!」
あ、シアンさんの顔が引きつっている。
「それとあなた、それ、砲身曲がってますよ」
それと、さっきから気になっていたがシアンさんが言ったように、魔力砲の砲身がジューという音を立てながら一部が赤く焼けている。
曲がっているのかどうかは見ただけではわからないが。
「魔力の込めすぎですね。威力が出るからと言って定格魔力以上を注入したんでしょう」
「これがヤワなのがいけねーんだよ……コレ、もう使えねぇか?」
そう言いつつレイヴンさんが視線を魔力砲にやる。
「そうですね。内部の回路も焼けているかもしれませんので使わない方がいいでしょう。」
「ふーん、じゃあ捨てていくか」
「ちょっと待って」
あっさりと唯一の飛び道具を捨てていこうとするレイヴンさんに対して俺が待ったをかける。さすがにもったいないだろうこれは。
「どうかしましたか主様?」
こういう時こそ俺の出番だ。戦闘ではステータスの低さで役に立たないが、俺にはスキルがある。
「俺のスキルに〈物体修復〉って言うのがあるから直せないか試してみるよ。」
さすがに一回使っただけで捨てていくのはもったいない。もしスキルで直せるなら直して使うのがいいだろう。
飛び道具がこの魔力砲しかないというのもあるが。
「へー、そんなスキル持ってたのか? 便利だな」
レイヴンさんがそういった次の瞬間、水が魔力砲を包み込んだ。
「え? なにこれ?」
「【ウォーター】の魔法だ。スキルを使うにしても冷やさなきゃいけないだろ?」
シアンさんもそうだがレイヴンさんも魔法を使用できる。ステータスの『魔力』や『魔法攻撃力』『魔法防御力』が非常に高いため、高レベルな魔法を何発も連射できるし、威力も高いそうな。
じゃあなんで魔法じゃなくて魔力砲を使ったんだというと、そっちの方が楽だからだ。魔法は魔力を魔法に変換する際のエネルギーロスやタイムラグなどいろいろあるらしい。
ジュワァーと言う音と共に、赤く焼けていた砲身が急速に元の色に戻っていく。
いや、まあ、ウォーターの魔法なら教会で習ったので知っているが……あれ、水没させちゃっても大丈夫なのだろうか。
そうして冷えた魔力砲をこちらに掲げてくれるレイヴンさん。俺はそれに手をかざし〈物体修復〉のスキルを使用した。
結果――直せませんでした。
単純にスキルを使うための魔力が足りなかった。
俺は魔力(の保有量)も低いので剣など単純な物ならともかく、こういった機構の複雑なものになるとすぐに魔力が足りなくなる。
「主様、手を」
シアンさんが手を差し出すように言ってきたのでそうすると、シアンさんに手を握られた。何かと思っていたら、体に魔力が流れてきたのが感じられる。
「魔力を譲渡しています。これで修復できるのでは?」
魔力の譲渡? それは教会では聞いたことが無かった。そういったことができる人がいなかったからだろうか。
やってみると、魔力を消費して対象物を修復していくのだが、消費した分の魔力はシアンさんの方から流れ込んで補ってくれたため、魔力が枯渇することがなく魔力砲の修復ができた。
そうして、元通り――おそらく新品同然の状態にまで魔力砲が修復された。
「おー、スゲーな。なんなら魔力もオレが渡してもよかったんだぜ?」
直った魔力砲を眺めながらレイヴンさんがそんなことを言ってくる。
「ダメです! レイヴンがやると魔力を流しすぎて主様が死んでしまいます。」
ちなみに魔力を流しすぎたりすると「ひでぶっ!!」するらしい。
各種紹介事項について第0章として記載しました。




