34話 勇者たち3
「ギャン!」
振るわれた剣により首を切断されるグレートヒポポ。
最初の方こそその数に手間取っていたが、後方支援組と合わせ1匹ずつ的確に処理していくことにより徐々に対応していった勇者達。
「よし、大体片付いたな。真田、そっちの我最後だ!」
魔物を一撃で切り捨てた東雲が、最後の敵に対している真田に声をかける。
「おらぁ!」
後方支援組からの魔法攻撃で動きが止まっている魔物に向かって真田が掛け声とともに剣を振るうと一気に剣を振りぬき、最後の一匹も倒れた。
「よっしゃ、あっけなかったな」
最後の一匹を倒し、剣に付いた血を払いながら真田が戻ってくる。
「何言ってるんだい、最初は数の多さにビビってたくせに」
真田の軽口に伊集院がニヤニヤと笑みを浮かべながら声をかける。
「ちっ、うるせぇよ、オタクが」
伊集院ごときに指摘されたのが気に入らなかった真田が毒づく。
本来この二人はこの世界に来るまで接点らしい接点はなかったし、こちらの世界に来てからも積極的に交流を図ろうとはしていない。
真田としては伊集院は気持ちの悪いオタクといった認識であり、そんなやつらが自分たちに交じってこうやって会話を繰り広げていること自体いい気分がしていなかった。
「まあまあ、二人ともそのぐらいにしたらどうだ」
そう言って割り込んできたのは東雲だ。その様子を見て真田どころか伊集院も渋面を造る。
2人にとって東雲はうっとおしいことこの上ない人物だ。元の世界でもクラスの中心的人物でイケメン、更にクラスのアイドルである泉川と付き合っているという噂もある。
そんなやつに別の世界に来てまで自分たちが下だとはっきりと告げられたのだ。いい気はしないだろう。
「茜もお疲れ」
「……別に」
東雲が同じ前衛として戦っていた西条に声をかける。西条は憮然とした表情でそれに答える。
「さすが勇者殿たちですな」
そう言った各人の思いが交錯する中、アドレフが声をかけてくる。
「いえいえ、これも僕らの使命ですから」
そう言って爽やかに答える東雲。
真田や伊集院にしてみれば、なんでこいつがリーダー面しているんだと言いたくなる。
「このようなところで魔物に襲われるとはついていませんが……さて、移動を再開しましょう」
「そうですね」
そうして移動を再開しようとした時だった。
ぱちぱちという拍手の音と共に男の声が響いてきた。
「いやぁ、さすがですねぇ」
全員が声に反応して振り向くと、今までいなかった――もしかしたら戦闘に気をとられて見落としていただけかもしれないが――所に人が立っていた。
「誰だ、貴様!」
「こちらは勇者様ご一行であるぞ。道を開けろ民間人!」
その不気味さから、何人かの騎士が剣を構える。東雲たちも武器に手をかけていた。
「まあまあ、そう急かせずに」
そう言いつつその男は両手を広げながら騎士たちに近づいていく。そうしてある程度近づくとフードをまくり上げる。
「な、魔族っ!」
まくり上げられたフードから出てきた顔は明らかに人間のものと違う。一番の相違点は肌が青い事だろう。
青い肌は人類と敵対している魔族の特徴である。
このことでまだ武器を構えていなかった全員が戦闘態勢へと移る。
「私は勇者様と戦いたいのですが、道を開けてくれませんかねぇ」
そんなことを飄々という魔族だが、騎士たちはじりじりと包囲を狭めて行っている。
「仕方ありません、では」
そう言って魔族の男がぱちんと指を鳴らすと、
「グルルルゥゥ――」
「なっ!」
先ほど退治したものと同じ魔物が両脇の木々の奥からさらに湧いて出てきた。
「くそっ!」
その魔物たちは森から出て来るや否や襲いかかってきたため、勇者を護衛していた騎士たちはいきなり魔物への対処で精一杯となってしまった。
「さて、では勇者様方。力を見せていただきましょうか」
「来るぞ! 大吾と茜は僕に続け! 沙織は後方支援のまとめを頼む! 他は左右から!」
「指図すんなよ、クソ!」
「まあ、今回は従ってあげますけれどね」
そう毒づきつつ真田や伊集院は左右に回り込んだ。
東雲、内田、西条が魔族の男と相対し、泉川他後方支援の人は後ろで魔法の準備に入っている。
「行くぞ!」
そう言って、東雲がステータスの高さを利用して一気に切りかかるが、魔族の男は体をひねり一撃を躱してカウンターを入れようとする。
しかしその隙を内田が補いカウンター攻撃を受け止め、西条が追撃する形となる。
左右には真田と伊集院がいるため魔族の男は追撃を後ろに跳び退ることで躱した。
「いやぁ、さすがですねぇ」
後ろに飛んだ魔族は未だに飄々としていた。
「未熟な内にと思っていたのですが、なかなかの連携です。しかし人の話を聞かないのは――」
魔族は構えもせずに話していたが言葉を遮り、東雲が一撃を繰り出す。
だが、難なく躱されてしまう。
「やれやれせっかちな人たちだ。少し待ちなさい。」
「なんだ、時間稼ぎか!」
「魔族ってのはセコイな!」
東雲と内田が魔族の言葉に反応する。
「違いますよ。力を見るとは言いましたが私がとは言っていないでしょう。」
「……どういう意味だ。」
「私はただの斥候ですよ。あなた方の相手は魔王様より送られた黒竜達がするんですよ」
そう言いつつ、徐々に後退していく魔族の男。
「何、黒竜だと!」
その言葉に真っ先に反応したのはアドレフだ。
「知っているんですか? アドレフさん」
「ああ。竜の中でも最強と呼ばれる種類だ。そんなものが……」
東雲の問いにアドレフが答える。
「もう間もなく到着するでしょう。せいぜい抵抗してみること――――なっ!」
大仰に喋っていた魔族の横にいきなり西条が現れる。
何のことは無い、彼女は後方支援の魔法を受け身体能力を底上げし、持てる脚力で一気に魔族との距離を詰めたのだ。
「お喋りが過ぎるわよ。」
そして一閃。
神速で放たれた剣の一撃は魔族の男は胴を分断した。
「ぐっ! おのれっ!」
くぐもった悲鳴と共に、魔族の男は2つに分かれ倒れ込んだ。
「驚いた。まだ生きているのね。」
西条は今しがた切り捨てた魔族がいまだ声を発していることに驚いて剣を構える。
人間であれば即死しているであろう傷でも魔族は致命傷にならないのかもしれない。そう思っての対応だったが。
どうやら杞憂だったようで、どんどんと魔族の男の息が浅くなっていく。
「くっ……勇者風情が……魔王様が……お前らを…………黒竜に蹂躙されると……いい…………」
そこまで言って魔族の男の呼吸は止まった。
周囲では、出現した魔物はすでに騎士たちに寄り倒されているのが見える。
「あまりいい気はしないわね」
そう西条はつぶやく。今まで訓練と称して何匹もの魔物を切ってきたが、ここまで人に近いものを斬るのはやはり抵抗があったようだ。
「さすがだね、茜。それに沙織たちもありがとう。」
そんな最上の気を知ってか知らずか東雲が声をかけてくる。
西条としてはこの東雲のなれなれしさが苦手だった。彼がいい人だということは分かっているし、だれとでも仲良くなれるのはいい事なのだろうが、同時に他人のパーソナルスペースにズカズカ入り込んでくる性格は今一好きになれない。
「うん、みんなもお疲れ。怪我をした人はいませんか?」
泉川は東雲のそういった部分に対してあまり頓着していないようで、すぐに周囲の怪我人を確認しだした。
『勇者パーティー』には先の魔物戦と合わせて怪我人はいなかったが、騎士の人たちは少なからず怪我を負ったものがいるようで、声を上げていた。
そう言った者に対して嫌な顔一つせずに回復魔法をかけて行っている泉川。
そしてそれを見てなぜか頷いている東雲。そこへアドレフが声をかけてくる。
「勇者殿先ほどの魔族の言っていた黒竜ですが、今の我々の戦力では厳しいでしょう。すぐに場所を移しましょう」
アドレフは魔族の言っていたことから黒竜がもう間もなくこの場に来るものとして東雲に提案した。
「そうなのかい?」
だが東雲としてはいまいちよく分かっていなかった。自分たちは勇者でありステータスも高い。先ほどの魔物は多少強かったようだが自分たちが負けるとは思いもしていない様子だ。
「逃げる必要なんてねぇよ! その黒竜とか言うのも倒しちまおうぜ。」
それに対して内田の反論に真田や伊集院なども同意する。
「東雲君、アドレフさんの言うとおりだと思う。わざと戦う事なんてないよ。」
「そうよ。避けられるなら避けましょう」
逆に泉川など後方支援組や西条等は自分たちのステータスの低さや直接的な戦闘力の無さからアドレフさんに同意している。
「分かった、じゃあすぐにこの場から移動しよう。」
東雲の中でどういった思惑が働いたのか知らないが、彼は戦いを避けるという泉川たちの意見をとったようですぐに移動しようと提案した。
そうして、勇者パーティーは泉川が回復魔法かけ終わり次第すぐにこの場から移動することになった。
そうして数時間――
黒竜は来なかった。
勇者側の話はここで終わりで、次からまた主人公さんたちの方に戻ります。




