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33話 勇者たち2

 『勇者パーティー』の旅路は順調に進んでいた。ある地点に差し掛かるまでは……


 教会の用意した魔導馬車――魔力で動く自動車のようなもの――は通常の馬車と違い、疲れを知らず魔力の続く限り一定の速度で移動することができる。そのため移動手段としては上等なものである(燃費の悪さを考慮しなければだが)。

 乗り心地はあまり通常の馬車と変わらないのだが……


 街から街へと続く街道は比較整備されておりまた治安も良い。とはいえそれはあくまでこの世界基準での話である。

 街の外は基本的に人間の領域外であり野生動物や魔物が闊歩している。場合によっては盗賊なども出現する。

 アーガス聖王国の王都からグローリアス公国の西端――魔族支配地域までは結構な距離があり道中何事もなしとはいかない。

 なお目的地は対魔族の最前線である城塞都市〈アルビオン〉である。


 無論、聖騎士20名を周囲に護衛と配置し、数匹単位の低脅威の魔物であればその歩みを止めることなく排除できるが、移動しながら対処できない事態という物もしばしば起こりうるものである。


 王都を出発して数日は順調に進んでいたが、国境付近――いわゆる辺境となってくると治安なども徐々に悪化してくる。


 特に今回は旅に慣れていない『勇者パーティー』に配慮し、最短距離を進んでいるためどうしても人間の手の入っていない場所という部分を通ることになる。



 ちなみに啓太やシアンたちが通ったのは王都から少し南に回り込むルートである。こちらは街なども多く西に向かうのであれば多少遠回りだが比較的安全である。

 啓太の目的は魔族との戦闘ではなく情報収集のため人の多い地域を通る必要がある――というのもあるが最大の原因は旅立ち直後にワイバーンによりかなり南の方に連れて行かれたためである。



 『勇者パーティー』に話を戻す。

 現在、十数日をかけ国境付近まで近づいた。ここまでの旅路は特筆すべきことは無く順調であった。数度の魔物の襲撃はあったがいずれも単体の弱い魔物であり、馬に騎乗した聖騎士たちにより難なく打ち取られている。

 『勇者パーティー』達は魔導馬車の中で暇を持て余していたほどだ(一部乗り物酔いをしている者もいたが)。


 国境まであと少しという所でそれは来た。



「グルルルゥゥ――」

「グルァァァ――」


 グレートヒポポというカバを大きくし、さらに肉食動物のように牙を生やしている魔物が群れで襲ってきたのである。それはまるで待ち構えていたように瞬く間に馬車の周囲を取り囲んだ。

 この魔物はその体の大きさからは考えられないほどの素早さを持ち、また豚などの家畜を丸呑みにできそうなほど大きな口を持っている。そしてもちろん肉食である。


「これは不味いな……」


 アドレフ聖騎士長はつぶやく。

 相手は非常に凶悪な魔物の一種である。1体相手に最低でも聖騎士3人でかからなければならない魔物であり、相手の数はすでに見える範囲で20を越えている。


「聖騎士長、ここは『勇者』殿たちに助力を頼むべきでは?」


 横ですでに武器を構えている副騎士長が提案する。確かに聖騎士20人ではこの魔物、そしてこの数は無理がある。


 しかし……とアドレフは思う。本来こういった強力な魔物は群れを作らないはずだ。群れを作る最大の目的は身を守るためであり、今対峙している魔物は単独行動するものである。そういった魔物の基本情報は国や冒険者などの調査によって明らかになっている。

 そもそもこのグレートヒポポという魔物はこの辺りには生息していないはずである。

 だが何故かそれが20を超える群れで襲ってきた。


(何か嫌な予感がする……)


 だが考えている時間は無い。魔物は徐々に包囲を狭めており、今にも襲ってきそうな勢いである。



「おう、俺等の出番だな!」

「フフフ、僕たちが相手をしよう。君たちは下がっていなさい。」


 そう言って騎士たちの後ろ、魔導馬車から出てきたのは『勇者パーティー』達――真田と伊集院だった。

勇者さんたち10人ぐらいいるのでややこしいです

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