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31話 何の成果も得られませんでした

遅くなりました

 翌日の昼過ぎにはこの街を出ていくこととなった。

 理由は簡単、この街で行おうと思っていたことが半日で片付いたからだ。



 ちなみに俺が必要か所を回る間にシアンさんたちは彼女たちの替えの服などの他、日用雑貨品を買いに行ってもらっていた。


「主様、一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫、道は覚えたしね。分からなくなったら人に聞くよ。」

「この辺りは治安面の問題もありますし大丈夫ですか?」

「大通りを中心にするつもりだからそんなことにはならないと思うよ」

「お金は大丈夫ですか?」

「大丈夫。ちゃんと持っている。」

「では――」


 シアンさんが、オカンか! と言うぐらいしつこく聞いてきたが、いくら見慣れない土地とはいえ、一応俺も成人なんだし1人で買い物位できるよ。



 まず書店の確認。この街に書店は数店あるが、新品を扱っているのは1店のみ、ラインナップもいまいちだ。田舎の片隅にあるような個人書店のような感じだった。

 「過去の勇者の話」と「召喚系の魔法について」に絞って棚を確認していくが、無かった。一応、カウンターに座っていた店番らしい青年にも在庫を訪ねてみたが無いそうだ。

 それにしても本一冊が高い。

 紙は存在するみたいなのだが、印刷技術が無いためこういった高級品となってしまうのかもしれない。

 それと店番は青年1人のようだが、万引きでもされたら大損だろう。もっと警備を強化しないのだろうか。

 あと目的とは違うが、大陸の地図があったので購入しておいた。高い割には結構おおざっぱな内容だった。


 他に古書を扱っている店もあったが、それらの店を覗いてみたらすでに本の体を成していなかった、ただの紙の束を紐でくくっただけで、それを一山いくらで売っていた。本として売っているんじゃなくて薪の代わりとかで売っている物と思われる。ともかく、量こそ多かったが、ページがバラバラで、しかもいたるところに虫食いや破損があったため早々に諦めた。紐を解いて、中身をすべて確認していくとなるとものすごく時間をとりそうだ。そもそも、ちゃんと写本され量産品として売られている物の中でも誤植のひどいものなどが安く出回り最終的にこういったところに行きつくらしいので、探せば同じ本がちゃんとした体裁であるはず。

ということで古書店は早々に切り上げた。


 もう一つ、他の世界を行き来する魔法について詳しい人を探すということだが、この街にそんな人はいなかった。そもそもそんな魔法は無いと言われた。そのため最初に聞いた際には「頭大丈夫か?」と本気で心配されたほどだ。

 魔法に詳しい人(魔法学者というらしい)だが、そう言った人もこの街にはいないらしい。ここはそれなりに大きな街だが交通の要所として、またダンジョンがあることで発展しているが、場所的には国の端っこだ。なので旅人や冒険者がメインだとか。そう言う学者がいるのは首都や、学校がある街だと言われた。


 結局何の成果も得られないまま、わずか半日でこの街を出立することになった。




 そうして、装甲車に乗って街を出ていく。

 同じようにシアンさんが運転で、俺が周囲を確認している。レイヴンさんは装甲車の天井に乗って荷物類を背もたれにくつろいでいる。車内に居たら、異常があった場合すぐに対応できないのでそうしているとは本人談だ。といっても周囲の魔力分布から、この装甲車の装甲を突破できそうな脅威は存在しないそうだが。

 余談だが、レイヴンさんもこの手の車両の操縦は一通り出来るらしい(一応元軍属だからだろう)。


「空が青いねぇ」

「そうですね」


 空は晴れ。雲は少しあるが、雨雲ではないため日が隠れても暗くなったりしない。俺としては直射日光が当たらない分、雲に隠れた状態の方が好きだ。

 レイヴンさんは完全にリラックス状態だ。このまま寝てしまうんじゃないだろうか。ただ角などが出ていないので、一応その辺は覚えてくれているらしい。

 あと何気にスカートがめくれている。おみ足が美しいです。はい、景色より美しいですね。なので、見てしまうのは仕方のない事なんです。



 出発から数分で国境の砦が見えてきた。

 まあ、接していないとはいえオーダシティは国境の町というぐらいだからな。


 国境の砦は関所のようなものだ。

 国境にそって壁が伸びてはいるが、それは見える範囲であり、万里の長城みたいにアホみたいに長い壁があるわけでも、国境すべてを壁が伸びているわけでもない。あくまで人の通れそうな部分に、壁があるだけで森の中などは別に何もない。なので、密入国しようと思えばできる。まあ、地球程入国管理が厳しいわけでもないので、わざわざそんなことをするのは後ろめたいことをやっている連中位なものだ。


 ステータスカードを見せてよほど変な職業でなければ、そのまま通してくれる。ちなみに、ステータスカードなどの身分証が無ければお金がかかるらしい。


 街道の幅が広く警備の兵も複数いたため団体でも来なければ混雑はしそうにない。それに国境を超える人というのが少ないというのもあるので、ざっと見た限り国境を越えようとしている人は2人程しかいなかった。馬車に乗っており、身なりもいいので行商人か何かだろうか。


「ステータスカードを見せてください」

「はい」


 一度全員で装甲車を降り、警備の兵の半ば事務的な声に従いステータスカードを提示する。(さっきの人は馬車に乗ったまま見せていたが、俺等の乗っている装甲車は車体の大きさの問題でそういったことが出来ない)


「ん、問題ないね。それにしても珍しい魔導馬車だね」

「ええ、少々伝手がありまして」


 嘘である。この世界に何の伝手があるというのか。


「そっちの人は……っと、こりゃまたずいぶんな美人さんだね」

「ええ、実は俺たち冒険者のパーティーなんですよ」

「へー、こんな美人さんたちと……うらやましいね」


 そう言いつつも警備の兵はまじめな人なんだろう、シアンさんたちのステータスカードも確認していく。


「はいオッケー。通っていいよ」

「ありがとうございます」

「あ、そうそう――」


 通ろうとした矢先、他の警備の人に声をかけられる。


「冒険者なら知ってると思うが、グローリアス公国は対魔物の最前線だ。魔王の復活だとかで、国内の魔物の動きが活発になっているらしいから注意するように」

「分かりました。忠告ありがとうございます。」


 そう言って、国境を通過した。

 それにしても、魔物が活発にと言われても、どの程度危険なのかがわからないな。それに魔王……

 石田たちは大丈夫だろうか。勇者ということで魔王と戦うんだよな。東雲君とかの高ステータス者もいるし、大丈夫だとは思うが……死んだりしなければいいのだが。できればみんなで元の世界に帰りたい。福田さんは残念だったが。

 まあ、ビビッて抜けてきた俺が何言ってんだって感じだが、心配するぐらいいいだろう。


 そうして何事もの無くグローリアス公国側の国境の町に到着した。

 約1時間といったところ。外壁に守られた街が見えてくる。外壁といっても高さ2m程度の簡易な壁だ。獣除けや境界線としての意味合いが強いのだろう。

 ちなみに徒歩だと約1日かかる。ちょうどいい距離にある街だ。オーダシティ―と違って、こちらは本当に宿場街といった感じだ。宿屋はいくつかあるが街の規模はそこまで大きくない。


 今は15時ぐらいだろうか昼食はオーダシティで食べてきたため、やることが無い。と言って、ギルドに行って依頼を受けるにはさすがに遅すぎるし。


 というわけで、本日は宿をとってすぐに休むことにした。


 今回はアゲアゲさんがいないので、通行人に宿の位置を聞いて回った。

 装甲車の上から声をかけたのでみんなびっくりしていた。うーん、だからと言っていちいち降りるのも面倒なんだよな。普通自動車みたいに横にドアがついているわけじゃないし。


「いらっしゃい泊まりかい?」


 宿に行くと恰幅のいいおばちゃんが出てきた。いかにも宿屋の女将って感じ。


「ええ、1人部屋と2人部屋をそれぞれ取りたいのですが」

「ああ、悪いね。今いっぱいでね。そっちのお嬢ちゃん達が連れかい? 3人部屋なら空いてるんだけどね」


 いやさすがにそれは……


「……分かりました。ではそれで」

「あいよ。これが鍵。3階の奥の部屋だ。……ああ、ベッドは汚さないでくれよ。」


 あのシアンさんが妥協した!? 何言ってんの。女将さんも返事しちゃって、もう断れないじゃん。


 エロいことして良いの? ダメなんでしょ、知ってるよボク。

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