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27話 帰還

 あの後、30分もしないうちにシアンさんが戻ってきた。結構な道のりだったはずだが、急いでくれたのだろう。


「ふーん、こんなのが今の流行りなのか?」


 そう言ってレイヴンさんは着た服をつまみながら見ている。

 俺はレイヴンさんが服を着たことでようやく、シアンさんより立ち上がって振り向くお許しが出た。

 そうして目に入ってきたのは、シアンさんとおそろい……ではないが似たようなデザインのメイド服だった。下にはマリオネット用のインナースーツを着ているらしい。以前、シアンさんがいたところから持ってきたものだ。


 羽と尻尾は収納している。角だけ出ている状態だ。本人の談として、収納状態は無理な姿勢をとっているような状態なため違和感があるらしい。なので、睡眠時や休憩時などは出している方がいいとか


 というか何故メイド服なのだろうか。シアンさんに聞いてみると「主人に仕えるのにこれ以上ふさわしい服があるでしょうか! いえ、ありません! 決して私だけで恥ずかしいとかではありません!」という事だった。どこまでがジョークなのだろうか。


「そう言えば――」


 シアンさんにも先ほど聞いた魔力登録を解除したほうがいいのか聞いておいた。結果は「必要ありません。と言うか、しないでください」とのこと。3000年経っちゃって仕える主人もいないまま放り出されたらどうしていいのかわからないということのようだ。もともとマリオネットは判断を主人(もしくはそれに類するもの)にゆだねる傾向にあるので、自分たちだけではどうしていいのか判断できない部分というのが人間より多い。そんな状態で知り合いも頼れる人もいないまま放り出される……まあ普通に困るな。

 まあ、解除したくなったらいつでも言っていいんだよ。とは言っておいた。解除のための機械がどこにあるのかわからないのでそれが見つかってからの話になるのだが。


 俺は最終的には日本へと帰ることを目標としている。そのためどこかでお別れしないといけないのだが、まあ、解除の機器が見つかろうがまいが、信用のできる人を見つけて預けていかなければならないだろうな。


「で、武器の方は?」

「これです」


 そう言ってシアンさんがレイヴンさんに渡したのは両手で持つような片刃の剣だった。見た目的には包丁を巨大化させたようなもののようにも見える。長さは自身の身長程もあり非常に大きい。

 こういった大きな武器が出てくる漫画を読んだことがあるが扱っているのはたいていムキムキのおっさんだった。


 それを片手で振るいながら感触を確かめているレイヴンさん。そうして一通り確かめ終わったのか俺の方を向き、


「ふーん、いいじゃねぇか。じゃあ改めて……MSF-15型制圧用人型戦闘機(マリオネット)、固体名称〈レイヴン〉。マスターの指揮下に入ります。なんなりとご命令を。」


 そう言って片膝を付き頭を下げる。その動作はとても洗練されていて綺麗だったので思わず見とれてしまった。


「あ、ああ、よろしくレイヴンさん」


 見とれていたので呆けた顔で返事をしてしまった。



 ◇◇◇



 ここに来るまでの道をシアンさんが覚えて(マッピングして)くれていたため帰りはスムーズだった。それに――


「ハハハッ、弱ぇーな!」


 出てくる魔物を片っ端からレイヴンさんが切り伏せて行ってくれるので非常に楽だ。

 魔石をとるのは面倒だが。



 先ほどの施設に関してはそのままにしてきた。

 何でもシアンさんとレイヴンさんの話だとこの施設の魔力反応炉(リアクター)の余剰魔力がオーバーフローした結果、上階の魔物の異常発生につながっているのではないか? という予想だった。

 この上の街はダンジョンがあることも発展要因の一つだと言われている。勝手に反応炉を止めてしまってダンジョンが無くなるとまずいのではないかと考えた結果だ。一応ギルドには報告するつもりなので、もし何かするにしてもギルドの方で対応してくれるだろう。なるだけ責任という言葉は回避したい。

 マリオネットさんを起こしちゃった俺が何言ってんだって話だけどな。



 まあ、その話はさておき、結果として行きの3分の1以下の時間で戻ってくることができた。そうしてダンジョンを出たところで――


「……あの、ちょっと」

「はい?」


 出入り口にいた兵士の人に声をかけられた。


「いや、そちらの女性がさっきすごい勢いで出てきて、また入っていったんですが何かあったのですか? あとあなた方2人組じゃなかったですか? そちらの女性は――え、もしかして竜人族の方ですか?」


 ……え? 覚えられていたのか? 結構な数の冒険者が来ると聞いていたし、そんな個人の事なんて覚えていないと思っていた。


「いや、こっちの人とは中で偶然会った知り合いです。なので一緒に出てきたんですよ」

「はぁ? 何言ってんだマス「ちょっと静かに」


 とりあえず本当のことを言うわけにもいかないだろうと嘘をつく。本当の事言ったら何か面倒なことになりそうだし。かなり適当なものだがとっさに考えたものにしてはいい感じの言い訳ではないだろうか。と自画自賛してみたりする。

 レイヴンさんが何か言おうとしていたがすぐに遮った。


「え? いや、そんな美人が入って行ったら覚えて――ゴホンッ! 竜人族の方であれば目立つので記憶に残ると思うのですが? ……うーん」


 かなり迷っているらしい。竜人族ってなんだ? とも思ったが、確かに角がある人間なんていないし、メイド服姿の女性がダンジョンに入れば結構目立つはずだ。だがここで悟られるわけにはいかないこのまま押し切る。

 後、なんかこの人、無理して丁寧な言葉遣いをしている感があるな。


「多分よそ見でもしていた際に入ったんじゃないですかね?」

「……そうなのかなぁ?」

「あの、もう行ってもいいですか? それとも何か問題が?」

「ああ、いや、そう言うわけでは、少し気になっただけなので……」


 いまだに納得していないようだが、だからと言って呼び止めるというほどの事態ではないのだろう、なぜか渋々といった感じでそのまま通った。

 まあ、多少怪しまれるのはいいんだが、兵士の人はこっちの後ろ姿……というかシアンさんとレイヴンさんの尻をガン見するのはやめた方がいいと思うよ。



 ◇◇◇



 ダンジョンから帰ってきて、ギルドへ再度行き、まずは魔石を換金してもらう。

 ギルドに行くまでの間、なぜか通行人にもジロジロと見られた。最初はシアンさんやレイヴンさんが美人だから見ているのかとも思ったが、子供なんかも見てくるので多少気になった。


 魔石の入った袋をカウンターに乗せて受付嬢に声をかける。ちなみにこの人、以前の受付嬢と同じ人だ。


「魔石を換金してほしいのですが」

「はい、……あら、あなたは……ダンジョンへ行ったのですね。あら? そちらは竜人族の方ですか。初めて見ました。このような街には珍しいですね。」

「ああ、竜人族って珍しいですよね」


 また出たな、竜人族。『族』と言うからにはそういった種族がいるのだろうが、どの程度珍しいのかさっぱりわからん。マ○イ族ぐらいか?

 とりあえず適当に流しておく。変に疑問を持って何も知らない田舎者だとか思われても面倒だし。


「魔石の換金ですね。少々お待ちください」


 レイヴンさんの方を興味深そうに見ていた受付嬢だったが、すぐに自身の業務を思い出したようで、渡した袋を受け取り中身を一つずつ取出し確認をしていく。


「あら、結構多いですね。これは――」


 そう言って順に値段をつけていく。ちなみに魔物の魔石の値段は、どの魔物から出たかは関係なく、魔石の大きさや純度、魔力内包量で決まるらしい。


「――はい査定が終わりました。ステータスカードをお願いできますか。依頼達成として記録しますので――――はい、ありがとうございます。すべて合わせて金貨2枚と大銀貨4枚になりますね。内訳の説明を聞かれますか?」

「いえ、大丈夫です。」


 ステータスカードはさっと確認しただけで返してもらえた。その後何かに書き込んでいるので、名前を確認しただけなのかな。

 魔石の方は確か50を超えていたはずなのでいちいち内訳なんて聞いていられない。


「そうですか。……あの、この中に一つ通常では出ないような高純度の魔石が混じっていたのですが?」

「えっと、コカトリスの魔石の事ですか? 5階層に出たんですよ。」

「ああ、先ほど帰ってきた冒険者が言っていましたね。あなた方の事だったんですか。」

「ええ、まあ。それとちょっと報告をしたいのですが、」

「何でしょうか?」

「5階層に開かない扉があるのってご存知ですよね。あれを開けて中に入ってみたんですけれど――」


 そうして中で見たものを報告していく。


「…………そ、そういった報告はギルドマスターにしていただいた方がいいかと思いますので、少々お待ちください。」


 最初はぽかーんとしていた受付嬢は、あわてた様子で、ギルド内で待っているように言って、席を離れてしまった。

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