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23話 トマト

 その後、どんどんと進んで行く。

 出てくる魔物が1体の時は俺が対応し、複数体の時は俺とシアンさんで手分けをする。まあ、俺が一体倒している間にシアンさんは数十体相手にできそうなスピードで相手をつぶしていくのだが。

 なお魔石を取り出すのは俺の役目だ。シアンさんに「そのような雑事は私が」と言われたが、さすがにこれくらいは働かないと俺の存在意義が揺らいでしまう。


 俺の武器はシアンさんのいた施設で見つけたミスリル製のショートソードだ。対するシアンさんは素手である。いや、グローブというか籠手のようなものは着けているのだが。

 じゃあ、あの施設から持ってきた武器類はなんだったんだろうか。全部売るためだったのか。



「たぁ!」


 間抜けな掛け声とともに、ショートソードを振るい、ゴブリンを両断する。さすがは古代魔法文明製の剣というべきか驚くほど切れ味がよい。骨までスッと切断できる。

 そうして倒した後は、魔石の回収である。心臓付近を持っていたナイフで切り開くと小指の爪くらいの大きさの結晶が出てくる。これが魔石であり、この世界での魔道具の燃料となる。それを腰につけたポーチにしまい込みまた先に進んで行く。



 たまに冒険者グループとすれ違う。といっても通路が広いため通行の邪魔とかにはならないし、会釈して通り過ぎる程度だが。

 最初に見た際は、通路の先が光っていて人型の影なんかが浮かび上がっていたので、魔物と勘違いしてしまった。よくよく考えてみれば、魔物がランタンなどの光源なんて持っているわけがないのだが。

 冒険者グループは必ずと言っていいほどこちらを確認したあと、同じように会釈してくれるのだが、その後驚いたように二度見してくる。なぜかと思って彼らの目線を追ったのだがどうやらシアンさんを見ているようだ。何か変なことがあるのだろうかと最初は思ったのだが、よくよく考えてみればシアンさんの服装だと思い当たった。メイド服なのだ。こんなダンジョンなんてファンタジーな冒険するには向いてないことは俺でもわかる。……いや、最初は気づかなかったです。はい。

 今更着替えろとは言えない。特に本人も困っているようなことは無いのでこのまま進んで行く。


 内部は思ったよりも広く、さらに下階への階段の位置も不明であったため1階を攻略するのに結構時間がかかってしまった。


「ここって、基地だったという話だけど結構広かったの?」

「ええ、前線にも近く大規模な基地だったはずです」


 そうなのか。広いのかー。地下5階まであるそうだがすべてこの広さだと結構な時間がかかるな。

 もしあれならばある程度魔石を回収したところで切り上げることを考えるべきだろうか。魔石の買取は常設依頼とのことだったが、1個からでも買い取ってくれるそうだ。こういう所は結構親切だなと思う。



 地下2階に降りてからも、それまでと変わらない。相変わらずゴブリンやコボルトといった低レベルの魔物が襲ってくる。まあ、低レベルといっても単体の時の話で、群れで襲われたらかなり厄介なのだが。

もっとも、シアンさんがいるので問題ないわけだが。


 ここは元は人工建造物なのでおそらく地下への階段などは廊下のどこかにあるだろう。所々部屋なども発見するがそこはスルーしている。入っても意味がないと思ったからだ。まさか室内に階段を設置しているわけはないだろうという考え方からだ。とはいってもそれは元の世界――地球側の考え方なので、この世界の常識ではどうなのかということは抜け落ちていたわけだが。


「シアンさん、この世界では地下への階段というのを室内に作ったりするものなのだろうか? その場合、室内も調べた方がいいのだろうか?」

「いえ、大型建築物でそのような物は聞いたことが無いですが……非常口の出入り口などであればあるかもしれませんが。」


 ふむ、この世界でも普通だったようだ。

 少し横にあった小部屋みたいなものを覗いてみる。ランタンで照らしながら室内を確認するが、壁などは残っているが、何の部屋なのかは分からなかった。長い年月で風化してしまったのか、何もないのである。……いや、何かが、


「ゲギャァ――――ブペッ!!」


 いきなり暗がりになっているところから、棍棒を振りかぶったゴブリンが飛び出してきて、一撃を加えられるということもなく、襲ってきたときよりも速い速度で反対側の壁に頭から飛んで行った。


「大丈夫ですか? 主様」

「ああ、ありがとう」


 奇襲が成功すると思っていただろうゴブリンは悲しいことに頭から壁に突っ込んで壁のシミになった。


「うーん、やっぱり室内には何も残っていないなぁ。シアンさんはここが何の部屋か分かる?」

「申し訳ありません。ここまで何もないとさすがに。広さから言うと会議室か何かだと思いますが。」


 結局何もなかったのでその場を後にした。やはり廊下を一直線に行くのが一番いいのだろうか。時間がかかるなら切り上げることも考えてはいるが、やはり5階まであるのならそこまで行ってみたい。

 それにここは古代魔法文明の遺跡だということはもう確定だ。なら掘り出し物とかもあるかもしれない。さすがにシアンさんのようなマリオネットがいるとは思っていないが、ミスリル製の武器とかが残っていれば大金になるだろう。

 はい、シアンさんのいた遺跡で武器を大量に見つけ、更にそれが金になることが分かったので、ここでもあわよくばと思っております。



 その後も進んで行くが、やはりゴブリンやコボルトなどしか出てこない。まあ、これは最初に説明された通りなので問題はないし、変に強い魔物とか出てこられても困る。


 その後、階段を見つけたのだが、こういう大きな施設ならば複数階段があってもおかしくないはずだが、なぜかなかなか見つからなかった。

 また何故かその階段は一階分しか下れない。これは単純に階段が崩れているからだが、まあうまい具合に崩れたなと思う。おかげで一階下ったらまた階段を探して、ということになってしまっている。


 だがある程度時間をかけたかいがあり、ようやく地下5階までたどり着いた。確か資料の一つにはこの階に開かない扉のようなものがあるという。それを一目拝んでおきたい。もしかしたら何かあるかもしれないしな。

 好奇心に突き動かされ、また階層をしばらく進んで行くのだが、


「主様、何かが争っているようです、複数」

「え」


 シアンさんが注意してくれたので進みつつ、耳を澄ませてみる。……確かに何か聞こえるような気もする。がよく分からない。

 だが、歩いていくと段々とそれらの音が大きくなっていく。

 他の冒険者が魔物と戦っているのだろうか。まあ、ここは低レベルの魔物しかいないらしいし、変に割り込んだりしても悪いし特に急ぐこともなく向かっていく。



「くそっ! 何でこんなところに」

「ここは低レベルの魔物しかいないんじゃなかったのかよ!」



 やがて見えてきたのは、冒険者と思われる人間が3人とデカい鶏だった。

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