20話 街中
街に着いた。
結構大きな街だった。といっても以前いた王都ほどではないが、結構賑わっているような印象を受ける。
あと、ゲームとかだとこういう所につきものの外壁のような物はなかった。いや、一応町の中心あたりにあるみたいなのだが、その外側にも建物が広がっており、すでに外側の方が広いほどだ。
国境沿いなので、いわゆる宿場街的なもので賑わっているのかと思っていたが、どうやらそれだけではないようだ。
この街にはダンジョンがあるそうだ。そうゲームなどでおなじみ、あのダンジョンである。ここのダンジョンも例にもれず地下に広がっているようで地下5階まであるそうだ。ダンジョンとしては小規模な方だが、それでもそこから産出される資源は街をにぎわすには十分だそうだ。アゲアゲさんの店にもダンジョンの攻略者がよく訪れるそうである。
別に街に入るにも何か必要とかでもない。国境を越える際は身分証が必要となるそうだが。
この街は今までの事から思ったよりも大きかったがそれでも想像を大きく逸脱することはなかった。中世ヨーロッパ的なゲームに登場する街……多少思っていたよりも小奇麗な感じといったところだ。
ただ、シアンさんはやはり3000年間外を見ていなかったからか驚いていたらしい。「思ったよりも文明が衰退しているようです。何があったのでしょう?」とか呟いていた。
町に入ってからは行く人々がぎょっとしていた。さすがに装甲車となると珍しいを通り越して威圧感が出ているのであろうか。
アゲアゲさんの店は、本人が言ったように結構な大店だった。日本の複合商業施設みたいな大型店舗と比べると見劣りするが、個人商店としては十分大きいほうだと思う。
看板には『道具屋フク』と書いてあった。洋服店ではない。アゲアゲさんいわく、魔道具をメインに武器防具なども扱っている多目的なお店だそうだ。
もし日本語を当てるなら『福』の方ではないだろうか。
「では私は裏に馬車を回してきますので。売りたいという物を店の中のカウンターに持ってきていただけますかな」
「はい、分かりました」
装甲車は店の前に停めておいていいそうだ。邪魔にならないのだろうか。
「えっと、どれを売るの?」
「別にすべて売ってしまっても問題ありませんが。主様はどの程度の蓄えがあるのでしょうか? 旅をするなら相応の資金が必要だと思いますが。……そうですね相場の確認も兼ねてまずは3つほど売ってみてはいかかですか?」
「分かった。」
そう言って、持ってきた武器類から同じような剣を3本を取り出すシアンさん。
考えてみれば、教会に居た頃と違って、俺は冒険者だから安定した収入って無いんだよな。シアンさんは言わずもがな無一文だ。
一応教会を出るときにそれなりの額をいただいたが、だからと言ってこのままだと貯金を食いつぶす生活になりそうだ。
そう言うわけで3本ほどの武器を抱えて店の中に入っていく。
一応この3本はそれぞれ構成素材が違うらしい。それで相場を確認して、足りなければ追加でもう何本かを売るということになった。
全て剣を選んだのも相場の確認をしやすくするためだ。
「すみません、こちらの武器を売りたいのですが」
「はーい」
店番だろうか、若い男性がカウンターにいて対応してくれる。と思ったら、奥からアゲアゲさんが出てきた。
「あ、店長。お帰りなさい。」
「ああ、こちらは私が対応するから。」
「分かりました」
そう言うと男性店員は店番に戻っていった。
「こちらが売りたいという物ですか。鑑定させていただいても?」
「ええ、構いませんが、鑑定?」
「ああ、実は私は〈鑑定〉スキル持ちなのですよ。といっても人ではなく物専門なのですが」
「そうなんですか」
鑑定スキルって珍しくないのかな。なら俺のスキルがさらにしょぼいことに。
「では失礼」
そう言って、カウンターに置いた3本の剣から1本の剣を持ち上げ凝視するアゲアゲさん。
「――っ!! こ、これはっ!!」
「ど、どうしました?」
本当にどうしたんだろう。手に持った剣を凝視するアゲアゲさん。心なしか手が震えている。
「し、失礼。こちらも確認しても」
そう言って、他の武器も確認していく。そのたびに目を見開いてカタカタと震える。そうして、3本すべてを見終わってすべてをカウンターの上に置く。
「どうでしょう? いくらぐらいになりますか?」
「すみません、こちらの武器ですが、すべて買い取ることは出来ません。」
「え!?」
なんで? 見た感じ質は悪くないように見えるが。実は3000年のうちに劣化して見た目以上にボロボロとかだろうか?
「お客様を疑うわけではありませんが……こちらの武器はどこで入手されたのですか? …………こちらの1本はオリハルコン製。オリハルコンは精製法が失われているため本来国宝となるようなものであり、値段がつけられません。こちらの1本が魔剣ですね。魔剣については私は詳しくありませんが、そのすべてが国宝級から低品質でも高位貴族間で取引されるため、私のような店では相場がわかりません。最後の1本はミスリル製。こちらも総ミスリル製と非常に高価ですが、こちらであれば何とか買い取ることができるでしょう。」
…………これはあれですか。見た目以上の価値があったという逆パターンですか。ミスリルやオリハルコンて言うとゲームなんかではおなじみのファンタジー金属だ。しかも高価&高性能。なるほど、さすが古代魔法文明製ですね。……パネェ
「ではこちらのミスリルの剣のみ買取でお願いいたします。」
「分かりました。少々お待ちください。代金をとってきますので。」
そう言って店の奥に引っ込んで行くアゲアゲさん。
入手経路については勘弁してもらった。とはいえさすがにこれだけの品を持ち込んだため、ステータスカードによる身分証明を求められはしたが。
しばらくして戻ってきたアゲアゲさんの腕には重そうな麻袋が握られていた。
「では、こちらのミスリル製の剣を頂きます。こちら買取金の金貨500枚となります。」
「…………は?」
金貨500枚だと……すげぇ。魔導馬車が金貨300枚だということを考えれば、ミスリル製の剣1本で500枚って破格ではなかろうか。
「袋の中を確認しますか?」
「いえ、いいです。信用していますから」
「ははっ、ありがとうございます。」
と、そうだ。ついでだから聞いておこう。
「そうだ。このあたりでいい宿はありませんか? 魔導馬車があるから馬車の停められるところがいいのですが」
「ああ、それでしたら、当店の斜め向かいにある宿がいいでしょう。このあたりは比較的裕福な者が多いですから、治安もいいですしね。その……お客様は非常に高価な品を所有しているようですし。」
「分かりました。ありがとうございました。」
そうして俺たちは金貨500枚の詰まった麻袋と相場がわからず売れなかった剣2本を持って店を出た。
「えっと、今更だが売ってよかったのだろうか? 別に俺の物というわけでもないのに」
「問題ないと思います。どのみち持ち主などもういないのですから。」
そうなんだよね。日本でこういう事やると遺跡荒らしとか取得物横領とかになるのだろうが、こっちの世界だと別に犯罪ではないんだよね。
◇◇◇
教えられた通りに斜め向かいの宿屋にチェックインする。馬車小屋は特に扉や鍵とか無いので貴重品は自分で管理してほしいとの事だったが……どうしよう。装甲車の外側に括り付けている武器類ってものすごい値打ちものなんだよな。アゲアゲさんの店で値段がつけられないとか言われたし。
これ全部宿の部屋に持っていくのか? まあ一応シアンさんが一人で抱えられる程度なので無理というわけではないが……ちなみに俺は無理だ。重すぎて持てない。
「【固定化】」
シアンさんが手をかざすと、手の平が光った。魔法を使ったのだろうか。
「ん? なにそれ?」
「物体を一定時間空間に固定する魔法です。効果は短いですが、盗難対策としては問題ないでしょう。私は攻撃魔法などは苦手ですがこの程度ならば問題ありません。」
マリオネットってすごいっすね。
なお受付にて、
「主人、一部屋で」
「っ! 何言ってんの!」
「大丈夫です。心の準備は出来てますから」
「いやいや、大丈夫じゃないよ! おじさん、シングル2部屋で!」
準備は出来てますじゃねぇ! 頬赤らめて目を逸らしながらとか準備できてないだろ! やめろよ、俺の理性がもたねぇよ!




