19話 道中
次の日、森を出た。
俺は車内で眠っていたのだが、シアンさんが夜のうちにも車を走らせてくれていたらしい。
大丈夫だろうか? 人間とは違うと言うが眠くなったりはしないのだろうか。
ちなみに俺は座ったまま寝ていたので体がバキバキだ。ハッチから体をだし、伸びをする。
「あ、起きました?」
「ああ、運転ありがとう」
「いえ、もう少し先に道らしきものが見えます。そこをたどっていけば人里につくでしょう。」
その言葉の通り、少しすると道と思われるところに出た。といっても別にアスファルトで舗装されていたりせず、むき出しの地面を均しただけの簡素なものだが、それなりの往来があるようで複数の轍が見える。馬車のようなものが行き来しているのがわかる。
先ほどの森の中とは違って、揺れも非常に少なくなった。
少し前の方に、馬に騎乗した人や馬車も見える。向かっている方向が同じようで、馬の尻や馬車の後部が見える。
こちらの方が速度が速いようで、どんどんと前の馬車との距離が近づいていく。
そのうちに、馬に騎乗した1人が音に気付いたようで後ろを振り返り、
「ん? うぉあぁぁっ!!」
めっちゃビビッていた。まあ、装甲車で近づいたらそうなるね。気持ちは分かる。
「な、なんだっ!」
「うぉっ!」
その人の叫び声に気付き次々と後ろを向いては目をビックリする人たち。
「あ~、すいませ~ん」
装甲車から半身をだし、こうフレンドリーな感じで話しかける。敵意はありませんよ。ペコペコ。
「この道ってどこの街に続いているんですか?」
こちらの方が車高が高いこともあって相手の横につけた後、見下ろす形で話しかける。
そう、俺たち道なりに進んでいるだけでこの先がどの国で何の町があるのか知らない。
「え、あ、ああ、アンタら旅人か? ってうぉ……」
シアンさんの方を見て少し驚いているようだが、何かおかしい所があるのだろうか? 普通のメイドさん……に見えると思うんだが。シアンさんは綺麗だから見とれたのかな?今もチラチラと視線を向けている。
「ええ、そうなんですが、少し道に迷ったものでして」
「そ、そうなのか。この先はオーダシティっていう街だが……」
ごめん、街の名前聞いても分からないや。
「えっと、どの国になるんですか?」
「アーガス聖王国とフューリアス王国の国境の街だな。そのアーガス側の街だ。」
そうか、もう国境の街につくのか。乗合馬車で行く予定だったんだけど結構冒険したな。
「失礼、私は商人のアゲアゲという者ですが、それは魔導馬車ですか?」
馬車の御者席に乗っていた人が声をかけてくる。馬を操っている人の隣にいた少し豪華な身なりをした人で先ほどからこちらを興味深そうに見ていたのだが……アゲアゲって名前なのか。変な名前って思ったらダメなんだろうな。
魔導馬車……魔力で動く馬車の事で魔道具の一種にカテゴライズされる。今現在流通している魔導馬車はズバリ馬のいない馬車そのものである。エネルギーとして魔石を使用するが、魔石の値段を考えるとコストパフォーマンスがすこぶる悪い。だがその燃費の悪さを賄える一部お金持ちの間では一つのステータスになっている。という物だ。
今俺たちが乗っている装甲車は同じく魔力をエネルギーにして動いているという点では同じものとみなすことができる。
古代魔法文明の道具と現在の魔道具が同じものなのかは知らないが。
「ええ、そうなんですよ。」
「ほう、やはりですか。ということはかなりの資産家ということですかな?」
「いえ、そう言うのではないのですが、少々伝手がありまして。」
魔導馬車云々は適当にごまかした。何の伝手があるというのか? 無論嘘である。この世界に伝手なんてない。
その後聞いてみるとアゲアゲさんはオーダシティの街に店を構える商人らしい。
周りの馬に騎乗している3人は一緒にいる商人の馬車の護衛として雇われた冒険者で、今は商品を仕入れた帰りだそうだ。
「そこでご相談なのですが、そちらの魔導馬車を売っていただけませんか?」
「これをですか? さすがにそれは……」
「そのような形の魔導馬車は初めて見ます。非常に珍しいことは分かっていますが……どうでしょう金貨300枚では」
「300っ!!」
さすがにいきなり金貨300枚はビビったが、これを売ってしまうと俺たちの足がなくなるんだよな。まあ売った金を元手に馬車を買ってもいいんだが、この乗り心地は捨てがたい。それに馬とかどうやって飼育するのかも知らないし。断る選択肢しかないな。
「申し訳ありませんが」
「そうですか。残念です。売る気になったらいつでも声をかけてください。」
「主様」
「ん?」
突然シアンさんから声をかけられた。ここからは見えないが、顔をこちらに向けているのだろうか? 前見て運転しないと危ないのだが。
「持ち出した武器ですが、一部売却しようと思います。問題ないですか?」
「あ、ああ別にいいけど……俺に聞くことなの?」
「私はすべて主様の決定に従いますので、自身の一存では判断できません。すべては主様のために。です。」
そうなの? もっと自己主張してもいいんだけどな。まあ、今一緒にいる時点で今更かな。あと何? 最後の決め台詞みたいなの、恥ずかしいからヤメテ。
まあ確かに、シアンさんが武器庫にある武器全部持ってきたもんな。シアンさんが使うためじゃなくて売るためだったのか。
「えっと、すいませんアゲアゲさん。実は武器をいくつか売りたいと思うのですが、アゲアゲさんは武器などを扱っていますか?」
「ええ、もちろんです。自慢ではないですがこれでも結構な大店だと自負しております。扱う商品も武器防具から魔道具まで多岐にわたります。といっても今は仕入れの帰り、持ち合わせがないので、オーダシティにある店舗にまで来ていただく必要がありますが」
「その程度でしたら」
「そうですか、では早くオーダシティに行きましょう」
そうして俺たちはペースを落としてアゲアゲさんと共にオーダシティという町に向かって行った。
最後の文は、早く行こうと言ってもアゲアゲさんたちの馬車のほうが遅いのでそちらに合わせ装甲車の速度を落としたという意味です。




