17話 文明の利器
あけましておめでとうございます……遅い?
地下6階を移動し始めて、幾度目かの突き当り――道を間違えたわけではなく崩落していて通れなかった――を経て、今『武器保管庫』の前に来ている。
外には魔物が闊歩していることに対する準備と、彼女が妙に自分が戦闘用ということにこだわっているので来たわけだが。
ここはさすがに開放されておらず、ロックがかかったままだった。まあ、シアンさんがアクセスしたら5秒で開いたが。(無論、電子ロックを殴って壊し、素手でこじ開けた)
『~は伊達じゃない』という言葉はよく聞くが、この武器保管庫という名前は伊達だったようだ。壁面にずらっと並ぶスカスカの棚。正直10分の1も埋まっていない。見える範囲では剣や槍といったものが数本ある程度だ。
最初からこの程度なのか持ち出された後なのか。
「ふむ、これなら全部持って行けそうですね。主様はどうされます? 護身用の武器等持っておきますか」
「あー、そうね。じゃあ、ショートソードがあればそれを」
「分かりました」
シアンさんにショートソードを適当に選んでもらう。さすがに素人の目利きよりは頼りになるだろう。
ただなんというのだろうか、この部屋に入った時から変な違和感がある。
「うーん…………あ、そうか」
「どうかされましたか?」
ここは廊下からこの部屋に至るまでSFの施設みたいなのに、ここにあるのは剣や槍といった武器ばかりで、銃が無いのだ。こういう所には付き物のはずだが1丁もない。
「銃は無いの?」
「じゅうですか? なんの事でしょうか?」
え? そこから?
「えっと、飛び道具で金属弾を高速で飛ばすものなんですけど……無いですか?」
「それって魔法で出来ますよね?」
あれ~?
魔法という遠距離攻撃手段があるから銃が発明されなかったのだろうか。でも弓はあるよな。
そう思っていると、シアンさんが奥の方から大きなものを引っ張り出してきた。
「いや、それだよ、銃!」
シアンさんが抱えているのは対物ライフルのような大型の銃(らしき物)だ。
大きさから言って(弾の直径が)20~30㎜ぐらいありそうだ。どちらかと言うと砲といったほうがいいのだろうか。
「これですか? これは魔力を直線状に発射する魔道具ですが」
「…………」
言い方が悪かったらしい。金属弾を打ち出すものはないが、魔力をビームみたいに打ち出す道具はあったようだ。
ただしここにはこれ1丁だけだそうだ。
おそらく戦闘などで持ち出されたのだろうと言う事だった。このビーム兵器であるが種類は色々とあるらしい。ただし魔法でも同じような現象が起こせるため普及率は地球の銃火器ほどでは無いようだ。また、即応性や汎用性は魔法よりもこちらの方が良いが、魔力をそのまま打ち出すため対応策が確立されてしまい、相手側に一定能力以上の魔法使いがいる場合にはその価値が半減するらしい。
「『銃』ですか。主様の世界ではそういった名称があるのですね。記憶しておきます。」
まあとにかく、俺の武器は、ナイフとシャベルにショートソード(ミスリル製らしい)が加わった。
一方のシアンさんは、
「…………本当に全部持っていくの?」
剣に槍に盾にと色々とパックパックに詰め込んでいる。スカスカの棚とはいっても1人が持つには多すぎる。
この人は何をしようというのか。
「このくらい問題ないです……っと、できました。では行きましょうか」
こんもり詰まったバックパック類を軽々と持ち上げる。しゅごい。
そして、荷物のせいで出口につっかえて「グェッ!」とか言っちゃうシアンさん可愛い。まあすぐに横歩きで出口を通過したのだが。
◇◇◇
最後にやって来たのは『格納庫』だ。
地上に上がるための隠しエレベーター及び階段付近は完全に崩落しており、あと地上に出るとなるとここしかないらしい。
ちなみに、それ以外の倉庫――魔道具や日用品などを保管していた倉庫などはすべて崩落個所の先だったので、寄れていない。日用品など残っていれば欲しかったのだが。
格納庫には運が良ければ車両――自動車が残っているかもしれないとも言っていた。古代魔法文明では魔力をエネルギーにして動く自動車があったとのこと。内燃機関とは違って、魔力を直接回転エネルギーに変換できる、電気自動車みたいなエコカーだそうな。
といっても車両のような大型魔道具に必要な魔力というのは1人や2人ではどうにもならない。本来魔力を充填するためには大型の別の魔道具が必要らしいのだが、そこはそれ、存在チートなマリオネット様が「私の魔力量なら大丈夫ですよ」と言ってくれた。さすがだ。
もしかしてマリオネットがいればそう言った魔道具動かし放題なんじゃ? と思ったが、どうもコスパが悪いらしい。話を聞いていくと、マリオネットという兵器は現代で言う所の戦闘機や戦闘艦に相当する役割のようだ。
家の前にまで戦闘機で車1台分のガソリンをわざわざ運んでもらう奴はいないということだ。
まあとにかく中に入る。扉? そんなもんシアンさんが一発でしたよ。
中に入ってみるとさすがに大型車両が入るだけあってだだっ広い空間が広がっていた。というかスッカラカンなので余計に大きく感じる。
あ、いや、端っこの方に3台ほどあるな。
シアンさんと一緒に近づいていくと、2台のトラック(と思われるもの)と1台の装甲車(と思われるもの)がまだ残っていた。
2台のトラックは4トントラックぐらいの大きさで少し古臭いデザインだ。色はオリーブドラブ一色で軍用なんだなと一目でわかる。
装甲車の方は、8輪の装輪装甲車と呼ばれるやつだ。ハッチを閉じちゃうと極端に視界の悪くなるやつ。同じくオリーブドラブ一色なのはトラックと同じなのだがこっちは近代的な見た目をしている。
見た目のトラックとのジェネレーションギャップがすごい。
「3台あるけどどうしま……する? 運転のしやすさも、燃費も、トラック一択だと思うが。」
カッコよさは装輪装甲車なんだけどね。
そう言いつつトラックの運転席を覗く。どうやらハンドルやアクセルの位置は地球と同じようだ。機能性を追求した結果、同じような配置になったのだろうか。
こっちも右ハンドルなんだな。これなら俺でも運転できるな。
「いえ、こちらにしましょう!」
そう言って装輪装甲車を指すシアンさん。
「え!? 俺の話聞いてた?」
「大丈夫ですよ。運転は私ができますし。ハッチ開けとけばそこまで視界は遮られません。燃費もそんなに変わらないはずですし。それに何より、旅路だと危険もあるでしょう。」
まあ確かに、魔物とかがうろついているんだから危険はある。運転はシアンさんができるらしいし、それならそれでいいのかもしれない。
「まぁ、そこまで言うなら。ただ俺はこっちは運転できないよ。」
「ええ、元々主様に運転させるつもりはありません。主様は車長席でゆっくりしていてください。」
いや、さすがに何か手伝い位はするよ。眠気覚ましのガム渡すとか……あ、でも、これ助手席無いから不便だな。
それから荷物を積み込んでみたのだが中は思ったより広い。車内で普通に数人が寝転がれそう。こういうのって装甲を厚くしたり生存性向上のために、居住性を犠牲にしているようなイメージだったのだが。
シアンさんが持ってきた武器類は天井の上に括り付けている。後ろの上部ハッチがいくつか開かないが、あまり使うこともないだろう。ところで軍用車両だとこういう荷物とかってゴチャゴチャと車体に取り付けているイメージがあるよね。あれ何でだろう。車内に入らないからだろうか。
あと、装甲とさっきの燃費の話になるのだが、この装甲車、結構装甲が薄くその分軽い。この世界、飛び道具は弓矢とか投石ぐらいしかないので、それを防げる装甲があればいいのだ。だからトラックと比べてもそこまで重いというわけでもない。
じゃあ魔法はどうするのかというと、魔法で防ぐのである。装甲板に耐魔法の〈魔術付与〉を行っておけばよいのである。さすがは古代魔法文明の技術といったところで並の魔法なら傷一つつかないらしい。さらに強度を増す〈魔術付与〉というのもあり、それもかかっているらしい。
まあとにかく、荷物も載せ終ったし、俺たちも乗り終わった。さっき言ったとおり運転席のハッチは開いたままで視界を確保しているようだ。俺も一応車長席のハッチから上半身を出している。こういう死角の多い車は運転手以外にも周囲を見る役が必要だとか聞いたような気がする。
さあ出発だ。
装甲車のモデルはドイツのボ○サー装輪装甲車です。
あと、1話の前に世界観の補足説明と人物紹介を入れました。
1章は登場人物が多かったので……




