閑話6～ピクニック前日（2）トリミング①～

「手紙見てくれた？　エルミアさんをピクニックに誘っても、良かったよな？」

「それは、私たちに先に聞いてから誘った方が、良かったんじゃないでしょうか？」

「うっ……」

　ビシリ、とサクラから指摘を受けて首を縮める、俺。

　―――　やっぱりそうだよなー。なんで、エルミアさんに手紙を送る前に思い付かなかったんだろう？

「私は別に構いませんけど、エリザさんが後でお手紙見て大興奮するんじゃないでしょうか？」

「え？　エリザが？　なんで？」

「分かってないんでしたら、いいです」

　それはそれで面白いですし、とサクラがうなずく……　って。

　俺が何をわかってない、というんだろう？

　いやいや、だって。

　エリザならむしろ　「このあたくしが、そんな心が狭いとお思い？　牛でも恐竜でも来させるといいわ！」　とか、そんな感じだよな？

　さて、それはさておき。そんなピクニック前日、5月9日土曜日。

　実は今、俺は、サクラの部屋にお邪魔している。

　なんと！　初！

　女の子のお部屋！

　しかも同居者は今日はログイン予定なしとやらで、ふたりきり！

　ふぅぅぅぅぅっ！

　……　と、ワクワクドキドキしていたが、サクラの部屋は意外と……　物がない。

　スタイリッシュっていうのかな？

　クローゼット、鏡台、本棚、机、ベッド。全部モノトーンで纏められてて、サッパリした印象だ。

　で、飾りとかヌイグルミとかが、皆無。壁に1枚だけ、何だかよく分からない絵が飾られている。

「これ、何が描いてあるの？」

「特に意味は……　色や形、筆の勢い等を楽しめるものにしようと思った程度で」

「ほぉぉぉ……　オシャレだな！　サクラが描いたんだ」

「美術の教室、好きなの描けますから」

　授業料払ってるんですから、教室は使わないと損ですよ……　と、良いことを教えてくれるサクラである。

　さて、それはさておき　（2回目）　。

　今日の俺たちの目的は……

　なんと！　初！

　もふもふガイド犬のトリミング！

　―――　そう。ついに、きたのだ。

　買ったものの、これまで鞄の肥やしになっていたトリミングセットを使用する日がっ……！

「でも、俺、重大なことに気づいたんだけどさ……　この本見たら、シェルティは毛をカットする必要ないみたいなんだよなー！？」

　この本というのは、トリミングセットと一緒に買った　『犬種別☆おしゃれカット集』　のことだ。

　それによると……

　・シェルティの毛はヘタに刈ると傷んだり後で伸びにくくなっちゃうからね！

　・毛を刈りすぎると夏の暑さや太陽光から敏感なお肌を守れないよ！

　……　なので、注意しましょう、ということらしいのだが。

　明らかに　『刈らない方がいいよ』　的なことを書きながら、　『迫力のあるライオン風カット！』　だの　『すっきり♡サマーカット』　だの　『かわいい子狐カットで衛生面も◎』　だのと、色んなスタイルを紹介されるのは……

　悩めと言っておるな、　『おしゃれカット集』　著者　（今みたらペットショップのオーナー、Cocoさんだった）　め……！

「あ、でも、失敗したらリセットできるんですよね。ゲームなので」

　サクラがサクサクとシャンプーの用意をしながら説明してくれたところによると……

「部分リセットと全体リセットがあるので、違ったと思ったら戻れますよ」

　チロルが、わう、と吠えて補足してくれる。

【シャンプーが不快、短く刈りすぎなどの失敗は、私の方でお知らせしますから、安心してくださいww その都度、経験値が少し引かれちゃいますけどねwwww】

「おおお、それは緊張するなー！」

　よっし、ノーミスでクリア目指してやるぜ！

　こうして、トリミング・ミッションが始まった。サクラが上手に教えてくれるのが、めちゃくちゃ助かる……！

「まずは、ブラッシング……　ですけど、もうお部屋の方でしてきたみたいですね」

「おう！」

　チロルの毛は、長いから絡みやすいんだよな。だから、ブラッシングは割かし小まめにするようにしてるんだ。

　ではまず、と、サクラがバリカンを手に取った。

「お尻まわりの毛と足周りの毛をバリカンでカットします」

「お、お尻とな……！？」

　そういえば、チロルの首周り　（もっふもふだ！）　だとか背中　（顔をスリスリさせると気持ち良いぞ！）　、しっぽ　（ふっさふさだ！）　なんかには注目してたが、お尻そのものはあんまり見てなかったな……。

　まずは、サクラのトイプードル(りゅうのすけ)でやり方を見せてもらう。

　短いしっぽを持ち上げて、気を使いながら丁寧にバリカンを動かしている……　さすがサクラ、器用だなー！

　そして、なんだか。

　お尻がかわいいのは、人間だけじゃなかった件！　いや、むしろ。

　―――　人間よりも小さい！

　―――　人間よりもモフモフしてる！

「これを、今まで見逃していたとは……！」

　なんて惜しいことをしたんだろうか……！

「よっし、俺はこれから、チロルのお尻を毎日もふることにするぞ！」

　ううぅ、とチロルが唸る。

【ソコはダメですよwww】

「えー！　なんで！？」

【敏感な部分なのでw トリミングの時だけにしてくださいww】

「はーい、わかった」

　そっかぁ……　残念だけど仕方がないな、うん。

　トリミング時の楽しみができた、と思っておこう。

「お尻は大体こんな感じですね」

　トイプードル(りゅうのすけ)のお尻カットが終わった。

　サクラが親切に、もう一度尻尾を持ち上げて見せてくれるんだが……

　うん、穴がみえやすくなって、ますます可愛いな！

「よし、じゃあチロルもしような、お尻カット！」

　俺は張り切ってバリカンのスイッチを入れたのだった。