閑話6~ピクニック前日(1)エルミアさん~
お久しぶりです。
覗いて下さり、ありがとうございます。
そして、ピクニック編を期待して下さっていた方…… すみませんー!
閑話で前日譚入れちゃいました…… 来週にはピクニック編も始めますので、呆れつつもお付き合いいただければ幸いです m(_ _)m
5月9日、土曜日。
ゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 にログインしたエルミアさんを待っていたのは、ガイドのコリー犬ナスカくんのお知らせだった。
【お手紙が届いています。】
「えーっ、ほんとー!? ありがとねっ!」
「…………」
大人しく尻尾を振るナスカくん。鼻に鼻をスリスリさせると、ペロペロと舐め返してくれる。
くすぐったくて、幸せだ。
「手っ紙~♪ 誰からかな♪ エルウィン、ジョージ、ハロルド~♪」
イケメンNPCメンバーたちの名前を口ずさみながら、机に向かう。
エルミアさんは 『ヒロイン・ライバルなし』 コースを選択している初心者プレイヤーだ。
『ヒロイン・ライバルなし』 は、頑張らなくても最終的にはNPC誰か1人とのゴールイン確定、かつ悪役令嬢すら居ない超イージーなコース。
そこで、無課金の範囲内でのんびりと学生生活を送りつつ、周囲のイケメンたちとの会話や、たまに起こるイベントなどで、ほのかなトキメキを楽しんでいるのである。
「きゃー! お手紙ったら、2通も来てるぅ!」
机の上を確認して、エルミアさんはナスカくんの首をガバリと抱きしめた。
そのままの姿勢で長い毛に指を通しつつ、 「嬉しいなったら、嬉しいなー♪」 と歌う。
【良かったですね。】
「うんっ♪ 最高っ! ありがとーナスカくんっ」
【私は何もしていませんが……】
「そんなことないよっ! ナスカくんあっての、あたしだからねっ」
【光栄です】
「さーてっ、誰からかな?」
ひとしきりナスカくんをもふった後、手紙を開けて、エルミアさんはまた歓声をあげた。
「うっそー! ハッチからだっ! し・あ・わ・せーっ♪」
ハロルドは侯爵家長男。
王子の腰巾着タイプだが、とかく万人に親切なイメージで、ゲームを始めた当初から何くれとなく気にかけてくれる、すごく優しいキャラである…… 表向きは。
が、なんと。
彼は、好意値が一定を超えると、急に意地悪な言動が増える、隠れ俺様キャラであった。
リアルなら、確実に地雷。
もし、そんな男と付き合いがあると両親や兄が知れば、確実に 「ネット上だけの付き合いにしときなさいよ。住所とか知られないように注意して」 なんて言われるかもしれない。
が、エルミアさんはハマった。
――― 生まれてからこの方、金魚のフンのようにして生きてきた。
リアルで特に問題がある家庭で生きているわけではないが、それでも常に、兄のついで、で済まされる立ち位置。
学校で知り合った友だちとネットゲームで遊んだりしても、浮くのが怖くて、意見を言うことなどできない。
変わった発言をして話題の中心になれる子もいれば、単に浮いてシラッとされてしまうだけの子もいて…… 自分はまず間違いなく後者、という自覚が、彼女にはあったのだ。
こうした立場に特に不満があったわけではない。が、それでも。
ゲームで初めて体験した 『誰にでも嘘臭い笑顔で接する、優しくて親切なイケメンが、あたしにだけは特別な顔を見せるの♡』 というシチュエーションに、エルミアさんは、とんでもなくハートがキュンキュンしてしまったのである。
今回の手紙にも 『日曜日は暇なんだろ? デートしてやるよ。お前みたいなアホ女には、俺しかいないだろうからな』 などという、上からな文言が連ねてあり、結果。
エルミアさんは、手紙を胸に悶えた。
「あーん、ハッチったら、あたしにしか偉そうにできないのねっ♡ もう人間性が小っちゃくて可愛いんだからぁっ♡」
【彼はモラハラDV気質ですが、本当によろしいのですか。】
「だからいいのよ♡ こんな子を安全に楽しめるなんて、VRゲーム最高っ♡ ハッチー! あたしが幸せにしてあげるからねー!」
カーペットの上でひとしきり足をバタバタさせてから起き上がり 「さて、次は誰かなっ」 と2通目の手紙を開け……
「わーんっ! ナスカくんっ! 今日は良い日だようっ!」 と、ガイド犬の背に取りついた。
2通目の手紙の差出人は、ヴェリノ・ブラック…… このゲームで初めての、プレイヤーの友だちである。
ヴェリノは、学園祭でも、ひときわ目立っていたプレイヤーだ。
最初は女性士官っぽいコスがバチっと決まってカッコいいな、と思い一緒に写真を撮ってもらった…… だけだった。が、その後。
彼女は前代未聞であるらしい、 『学年途中の婚約破棄』 イベントに巻き込まれ、更には 『ミス学園祭』 という、エルミアさんにとっては縁の無さそうな賞までもらっていたのだ。
しかも、大衆の面前での王子の告白を、 『俺は女の子のが好き。でも皆と仲良くはしたいから、これからもお友達でよろしく』 とアッサリ却下。
そして、せっかくのミス学園祭のトロフィーは 『いや君たちのお陰だから』 と友達のプレイヤーに、記念品の 『抱きちちふさくん』 は王子に、これまたアッサリと譲渡しちゃったのである。
もちろん、エルミアさんはこう思った。
「俺の代わりに枕でも抱いときな、ってことですかーっ!?」 と。
――― なんて、すんなりと自己都合を押し通すんだろう。なのに、周りの人を嫌な気分にさせないどころか、どうみても好かれてるだなんて……
「あーっ…… カッコいい……!」
せめてゲームの中ではこんな風に生きたい、と願う理想そのもの。
これはもう、ファンになるしかないではないか。
お近づきになりたい、と願っていたら、次の出会いは早速あった。
その折りに 『女神』 とまで誉めてもらえ、頑張って自己都合を押し通しつつも割かし仲良くできたことで、エルミアさんはすっかり舞い上がった。
そして、自己紹介カードを密かにヴェリノの鞄に滑り込ませたのである。
後で、やりすぎだったかも、と反省したり赤面したりしたのだが…… ヴェリノはこうして、手紙をくれた。
もう一生の家宝にしよう、と白無地の封筒に頬擦りするエルミアさんである。
「なんでも挑戦してみるもんだね、ナスカくんっ」
【良かったですね】
ナスカくんからフンフンと鼻面を押しつけられつつ、エルミアさんはニコニコとヴェリノからの手紙を開封した。
「はうわっ……! みてみて見てー! お誘いだっ」
手紙の内容は、彼女の誕生日のお祝い、及び 『ちょうど10日、ピクニックに行くんだけど、良かったら一緒にどう?』 というものだった。
「嬉しすぎるぅ……っ!」
ナスカくんの背中にウリウリと顔を埋める、エルミアさんである。
【ではハロルドさんは断りますか?】
「うーん……! ちょっと待って、よく考える……! もしハッチを断ったりしたら……」
うーんうーんうーん、とひとしきり悩み、エルミアさんは結論を出したのだった。
「美味しいかも……!」
読んでくださいましてありがとうございます。
黒鯛の刺身♪様よりレビューいただきました!
どうもありがとうございます。
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