8-1. 後夜祭(1)
5月7日、午後5時40分。
エリザとサクラは俺を寮の部屋の鏡の前に立たせ、じっと監視…… いや。
後夜祭に向けて、俺の全身コーディネートをしてくれていた。
俺が 『やっぱりこっちがいい!』 と制服や軍服を着ちゃわないようにだって。なんか女子ふたりから理解されちゃってるな、俺!
「ほんと、ミシェルさんセンスいいですね。このドレス、ヴェリノさんには正解だと思います」
「まっ、制服より似合ってるんじゃなくて?」
「ぅおんっ!」 「くぅーん……」 「きゅんっ」
サクラとエリザはもちろん、俺たちのガイド犬からも絶賛…… そっかなー?
俺はエリザから杖を借り、鏡の前で振ってポージングしてみた。
前にミシェルからプレゼントされた、白と銀色のドレス。スリットがギリギリまで入ったスカートの裾が、マンガっぽく翻る。
「おおっ魔法少女っぽい! カッコいいかも!」
「あーら、ヴェリノ。ずいぶんノってるじゃない? 嫌がってたくせに」
「うんっ、慣れればむしろ、楽しまなきゃ損だなって」
せっかくゲーム内TSしてるんだから、恥ずかしがらずに似合うものを楽しんだほうがおトクだよね! ありがとうイヅナ!
俺はもう一度鏡の前でポーズをとり、エリザに魔法の杖を返す。
ちなみにエリザのドレスは、派手になりすぎない上品な赤。色はいつもと同じだけど、ボディラインがハッキリでるチャイナドレスだ。スリットからチラ見えする美脚がまぶしい!
そして、サクラのドレスは、そよ風みたいな薄紫だ。
「あーっ、それ前に買った? 可愛い! サクラにぴったりだな!」
「はい、エリザさんからのプレゼントで……」
サクラが嬉しそうにくるりと回ると、透けるような薄い布を何枚も重ねたスカートが、ふわっと広がった。
「おおおっ! さすが大将! 親切さ炸裂だな!?」
「ばばばっ…… ちち、ちがっ、違うわよ!」
エリザの顔面が、瞬間沸騰した。さすが筋金入りの照れ屋さん!
「ああっ、あたくしは……っ、たたたっ、ただ……!」
扇を出すのも忘れ、赤らんだ頬の上で深い青の目があらぬ方向に動く。うごうご。
見かねたらしいサクラが、助け舟を出した。
「早めの誕生日プレゼントなんですよね? ありがとうございます、エリザさん!」
「そっ、そうよっ。おお、お礼なんてとんでよなくてよ!?」
さすがに噛みまくってると自覚したんだろう。
エリザはやっと扇を取り出して口元を隠した。深呼吸、すー、はー。
「だって、これでもう、サクラはあたくしから誕生日のプレゼントもらえないんですからね! ざまぁご覧なさい! おーほっほっほっほ!」
へえ、ゲーム内で誕生日が祝えるんだ!
いいこと聞いた!
「バースデーパーティーしたいな! サクラの誕生日って、ほんとうはいつ?」
「7月7日です」
「ぅおんっ」 と、チロルが小さく吠えた。
【交流プレイヤーの情報が加えられましたw】
了解、チロル。
「サクラの誕生日は、2ヶ月後か! じゃあ俺も、何かプレゼント考えよっと!」
「ありがとうございます。でも、ヴェリノさんの気持ちだけでも嬉しいですから」
ヴェリノさんの場合は、攻略対象たちへのプレゼントを優先してくださいね ―― にこっと微笑むサクラが、なぜだかちょっとだけ、こわい。
「けど、みんなでお祝いしたいな! せっかくだし! 楽しそうだし!」
「ぅおんっ」
【お祝いといえば、7月7日は 『七夕祭り』 ですよw いわば、サクラさんの誕生日はゲーム全体でお祝いですww】
チロルが、俺の足にもしゃもしゃと絡まりながら、俺を見上げる。
「へえ…… 七夕っていうと 『そうめんの日』 だろ? ここでもそうめん食べるの?」
「ぅおんっ」
【当日までのお楽しみですww】
7月7日っていうと、現実の地下世界では高級食材の 『そうめん』 を食べる日なんだよね!
ゲームでは何やるのかな? めちゃくちゃ気になる……!
「で、エリザの誕生日は? いつ?」
「人の誕生日を聞くときは、自分から言うものよっ」
「俺? 俺は12月25日!」
『ケーキとプレゼントの日』 !
俺は誕生日と重なってるから、2個プレゼントをもらえるんだ。
「で、エリザは? 誕生日いつ?」
「う…… ふ、ふんっ! サクラもヴェリノも、覚えやすい誕生日だからって、偉そうにしないでいただける!?」
「もしかして、お祝いされるとテレるから言いたくない?」
「まあ! このあたくしが! テレるですって……!?」
エリザの頬がふたたび紅潮した。
―― いつか探り出して、サプライズしてあげよっと!
「ぅおんっ、ぅおんっ」
【待ち合わせの時間ですw】
チロルが、ふさふさのしっぽを振りながら教えてくれる。
これからエントランスの大時計前で、NPCヒーローたち ―― エルリック王子、ミシェル、ジョナスにイヅナの4人と待ち合わせして、後夜祭に行くんだよね!
―― 後夜祭は、1周目で体験済みのエリザ・サクラによると、ゆるい野外パーティーみたいなものらしい。
みんなで飲み食いして、わいわいおしゃべりして、花火をみて。あと、ラストには学園祭のMVPも発表されるんだって!
楽しみすぎる……!
「くぅん、くぅん……」 「きゅーんっ」
サクラのトイプードルとエリザのパピヨン犬も、それぞれの主に時間を告げてるな。
「さて、いくか!」
俺たちは、新しく飾ったばかりの学園祭のスチルを背に、寮の部屋を出た。
読んでくださいまして、どうもありがとうございます!
ようやっと始まりました後夜祭ー!
今年はリアルでお祭りに行けないぶん、アレコレと妄想しながら書きました! ←浸りすぎてしばしば筆がとまりがちw
これからしばらく毎日更新予定です。
ガヤガヤと賑やかな章になりそうですが、楽しんでいただければ幸いです m(_ _)m
感想・ブクマ・評価☆、いつもとっても感謝しております!
でーーーはーーー!
暑いので、どうぞご自愛くださいませー!




