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輝ける陽のあたる世界~ツンデレ悪役令嬢と一緒に幸せ学園生活!のんびり日常するだけのVRMMO~  作者: 砂礫零


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閑話5 ~エリザとサクラとお買い物(2)~

主人公ヴェリノ視点 一人称】


「しまったー! 遅刻ぅぅぅ!」


 叫螺旋階段の手すりを、俺はエントランスまで一気に滑り降りる。


「ぅおん、ぅおん、ぅおんっ」

【危ないですよww】 


 片腕に抱えたチロルが注意をしてくれるが……

 誰でも1回は、ためしてみたいよね!?

 ちょうど 『寮のマナーおばちゃん』 もいないしね!

 マナーおばちゃん、っていうのは、寮や学校でたまに現れて、マナー違反に減点をくらわしていく(NPC)だ。

 もっとも俺の予想では、たとえいま彼女が現れて注意してきても 『友だちとの約束を守るためです』 っていえば、減点相殺されるはずだけど。


「友だちとの約束を守るって、最高のマナーだよね!」


「ぅおん、ぅおんっ」

【その心がけは良いと思いますww】


 それにしても。


「ああああーーーー!!」


 予想以上のスピード感!

 落下感!


「遅刻ぅぅぅぅぅっ!」


 楽しすぎるぅぅっ!

 これなら、何回でも遅刻したいっ!

 ―― しかし、そろそろこの 『らせん手すりスライダー』 も終着点が近い。

 俺は両腕を思いきり上にあげて、フィニッシュを決めた ――


 ぼすっ。


 柔らかい…… いや。

 適度な固さと、温もりを持ったクッションに、がっしりと受け止められた感触があった。気持ちいい。


「危ないだろー?」


 耳元で、スポーツマンらしい、張りのある爽やかな声がする。

 めっちゃ近くに見えてる、形のいい鼻と快活な黒の瞳。

 筋肉で締まった感じがある、制服の胸が密着していて、ふわりと漂う海の潮風とシトラスの香りが……


 ……って

 ……つまり、俺は!


「うっわぁぁぁぁぁあ!」


 女子の憧れだという!

 妹の読み物には 『壁ドン』 と並んで高確率で出現し、妹と話中のヒロインとを必ずドギマギさせている、小憎らしい演出!


「ああああああああっ!」


 伝説の 『お姫様抱っこ』 をされているのでは!?


「な、な、なんでっ!」


「うん?」


「なんで俺、いきなりこんなことされてるのぉぉぉぉっ!?」


「…… あのなぁ?」


 ―― 黒い瞳が、間近で呆れたようにまばたきした。



「ヴェリノが急に、飛び込んできたの!」


「…… スミマセンでした!」


 無事にカーペットの上に降ろしてもらった俺は、イヅナに向かい勢いよく頭を下げる。


「まさか、こんなタイミングよく、そこにいるとは思わなかったから!」


「ま、怪我しなかったから、いいんじゃね?」


 イヅナは口を大きく開けて笑う。


「そうだな、もし悪いと思ってるなら、とりあえず、その 『俺』 ってのは、やめてもらおっかな?」


「へ?」


 俺は目をぱちぱちさせた。

 なんか意外なこと言われたような……?


「なんで? いま関係なくない?」


「いやさ、ほら…… せっかくオンナノコなんだからさ! 『俺』 とか言うと、もったいないじゃん!?」


「んん? そうなのか??」


 なにがどうもったいないのか、俺としてはイマイチ謎なんだが……

 ま、いっか!

 ここはイヅナのリクエストを聞いといてやろう。せっかく、好きな子(サクラ)じゃなくて俺からの誘いに乗ってくれてるんだしな。


「じゃあ、お…… ア、アタシ…… かな?」


「そう、それ! そっちのが、可愛いじゃん!」


 イヅナの笑顔が、弾けた。



 ♡◆♡◆♡◆



 その時、サクラとエリザは ――


「ナニよ、あの 『女の子は可愛くなきゃ』 的な偏見」


「まぁ……人それぞれの、好みですから」


「ヤツを攻略するのって、屈辱以外の何物でもないわね」


「可愛くしてればホイホイ、なんで、ラクっていえばラクでしたけどね」



 言いたい放題、女子トークを繰り広げていた ――



 ♡◆♡◆♡◆

主人公ヴェリノ視点 一人称】


 俺とイヅナはおしゃべりしながら寮を出て雑貨店 『リーナの万屋』 に向かった。

 今日は、念願のアイテム ―― すなわち魔法の杖とスチル用フレームを買う予定なのだ。

 学園祭のこと、このあと始まる後夜祭のこと。しゃべっていると商店街はすぐだった。

 『リーナの万屋』 は、小洒落れた店が両脇に並ぶアーケード通りの端。ドアを開けたとたんに 「いらっしゃいませ」 と店長のリーナさんの声が飛んでくる。

 俺たちも挨拶しながら、なかに足を踏み入れた。

 相変わらず、床から天井まで届く棚に、あふれるように商品が並んでいる。


「うっわー、やっぱここ、物が多くて楽しい!」


「買い物好きなのか? 女の子らしくて、かわいいな」


「いや普通に楽しいだろ、買い物!」


「ああ、そりゃ、そうだな!」


 イヅナの価値基準はやっぱりちょっと謎だが、そういうふうに設定されてるってことなんだろう。深く考えてもしかたない。

 ともかく、買い物だ!


「よし! まずは、スチル用フレームからだな」


 よーし、スチルが引き立って部屋の飾りにもなる、シンプルかつカッコいいのにしよう!


 俺は張り切って、棚を物色しはじめた。

 だが ――


「ほら、こんなの可愛いんじゃないか?」


「うーん。もうちょいシンプルなほうがいいな」


「そっか? 女の子なんだから、可愛いのにしたらいいじゃん!」


「押しつけがましいぞ、イヅナ!」


「ん? そっか? そりゃ、すまん! じゃ、こっちはどうだ? それか、これは?」


「う…… どうしようかな」


 ほんと、こまった。

 悪気はなさそうなんだけど、イヅナの趣味と俺の趣味って、じつは全然合わないんだよな。

 イヅナ、わりかしファンシー好きみたいだ……

 ―― 好意値を上げる、というデート本来の目的からしたら、イヅナの好みに迎合したほうがいいのかもしれないが。

 俺は、俺がほしいスチル用フレームがほしい!

 ―― いいよね、俺の好みで買っても?

 ―― エリザとサクラも、俺は俺らしくしてて大丈夫、って保証してくれてるしね?

 ―― いや、だがしかし。

 ヒマワリがまわりに咲いたフレームとピンクのハートが四隅についたフレームを手にとって、イヅナがニコニコおすすめしてくれてるのを見ると……

 まるっきり、無視もしづらい。


「あ、これなんかも、可愛いんじゃないないか? どうだ、ヴェリノ」


「イヅナ……」


 いや、やっぱり、このままにしておくのはストレスだ。

 俺は俺の好みを、イヅナにも納得してもらったうえで貫きたい!

 ―― 俺は、イヅナの肩に手をのせた。


「せっかく勧めてもらってなんだが、俺の好みは、なんの飾りもついてないシンプルなアルミフレームなんだ……! イヅナに相談したいとしたら、色合いとフレームの太さのみだ、オッケー?」


「ええええっ!?」


 イヅナは史上初の珍獣を見るみたいな目を俺に向けた。


「ヴェリノ…… あんた、せっかく! 女の子に生まれたのに!? かわいいものを愛でないつもりなのか!?」


「愛でる心はある! だが、買わない!」


「もったいない! もったいないぞ、ヴェリノ!」


 イヅナが商品を棚に戻した。大きな手が俺の肩をつかみ、揺さぶる。


「花とレースとリボンとハートを、心置きなく楽しめるのが、女の子の特権じゃん!? せっかく女の子に生まれたのに、なんで!?」


「いや、男に生まれたって、カワイイものが好きなら、そうすりゃいいんじゃ……」


 あ、わかった。

 イヅナの考えは、旧世代なんだ。

 なら、俺とは噛みあわなくて当然!

 というか ―― そろそろイヅナもアップデートしてもいいんじゃないかな?

 こんなに考えが古いと、どう考えてもサクラにはモテなさそうだし……

 よし、決めた。

 俺がイヅナに、現代の考えかたを上書き保存してあげよう!

 買い物予定、変更だな ――


 俺は、肩をつかむ熱のこもった手に、俺の手を重ねた。

 なんだか必死な黒い目をシッカリとのぞきこむ。


「イヅナ。今日は、イヅナのために、イヅナが好きなカワイイものを買おうな!」


「えええ!? お、オレは、そんな……っ!」


「大丈夫。きっと、イヅナに似合うカワイイものがあるはずだ……!」


「……! おおおお、あ、おっ、オレは……!」


 わかりやすく動揺しているイヅナの明日は ――

 きっと、じつは大好きな花とリボンとレースとハートに彩られているに違いない!

 俺は確信をもって店の一角を指さす。

 これから夏を迎える、季節もののコーナーだ。


「まず手始めに、あれなんか、どうだ?」

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[一言]  おぉ……!!何という展開……!!  これは続きが楽しみですねぇ……!  ありがとうございました!
[良い点] 今話は出しからしてやられました! >「だって、やってみたかったんだもん!」 ↑ まずこの台詞に、どこのヒロインだよ(笑)と思い、続け様に、爽やかスポーツマン風イケメンに、ボーイッシュな女…
[一言] こっ、これは・・・・・・ NPCを「男の娘」化する隠しシナリオ?
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