第12話 がおー
食事を終えると俺は、使った皿を片付け、渋々鈴羽の相手をするためプライベードルームに足を踏み入れる。
室内にはすでに鈴羽がおり、勝手にゲームの準備をしていた。
コップにまだ残る牛乳を飲みながら俺は、床に座る。
準備が終わり、画面にロゴやらなんやらが映し出された。
鈴羽がセットしたゲームは、珍しく格ゲーだった。
格闘ゲーム。通称、格ゲー。文字通り、コントローラー等でキャラを操作し、格闘あるいはそれに準ずる行動を行い、相手とバトルするゲームだ。
司とゲームをする場合は、この手のものをやる事が多い。
やつの家には他にもFSPやTPSといった、いわゆるシューティング系のゲームも存在するが、いかんせん俺はその手のゲームに疎くまたあまり興味がないので、司には悪いがお断りをしている。
では鈴羽も俺同様、格ゲーに疎く興味がないためやる機会が少ないかと言うと、実はそうではなく、単純に弱いのだ、それもかなり。
俺相手だと全く歯が立たず、CPU相手でもノーマルだと苦戦する、そんな感じだ。
「よーし、今日は勝ち越しますよ」
そう言って鼻息荒く、意気込みを語る鈴羽。
その意気や良し。だが――
「ハンデは?」
「四割で」
「はいはい。四割ね」
四割とはすなわち、四割の実力で鈴羽の相手をするという事だ。
ちなみに割合は感覚なので、その時々によって前後する。正直、気分だ。
後、鈴羽と対戦する時は、投げ技禁止、右側からしか必殺技を出せない等の縛りが複数存在し、ジャンプによる回避も極力しないようにしている。いわゆる、縛りプレイというやつだ。
タイトル画面でVSモードの2P対戦を選択、キャラクターを選択する画面に移動する。
鈴羽は、小回りの利く小技タイプのキャラを選択。威力より手数で攻める、素人にもお勧めのどちらかと言うと攻めと回避に特化したキャラだ。
一方俺は、あえて当たれば大ダメージだが振りと隙の大きい、攻めに比重置きまくりのキャラを選択した。こちらはもちろん、素人にはお勧め出来ない。
バトルはキャラの性能差もあって、じわじわと俺の方のヒットポイントが削られていく展開が続く。
しかし俺の方のキャラはとにかく一撃が重く、そのため手数は向こうが圧倒的に多くてもなんやかんやで互角の戦いとなっていた。
まぁ、結局のところ、全ては俺の匙加減、のような気もするが、お互いが納得しているのならそれは些細な事だし、特に気にする必要もないだろう。
「そういえば――」
十五戦目が終わった辺りで、俺達は一度休憩を取る事にした。
ゲームは一日一時間なんて言いつけをくそ真面目に守るつもりは毛頭ないが、やはり連続で長時間ゲームを行うのは体にも頭にも良くない。
集中力も落ちるし、何より疲れる。
閑話休題。
つまりは先程の俺の台詞は、ゲーム中ほとんど会話をしなかった俺達が、会話を始めるための枕詞のようなものだ。
「ことりと連絡先交換してたみたいだけど……」
「はい、一応。断る理由も特にありませんでしたし」
断る理由がなかったという事は、すなわちそういう事なのだろう。
「小鳥遊先輩は、その、思ったよりいい人でした」
「思ったより、か……」
それは今までの経緯を考えれば、十分過ぎる評価のように思えた。
「色々と思うところはあります。けど、その事と小鳥遊先輩本人の人間性は別っていうか……まぁ、全く無関係ではないんでしょうけど」
「何度も言うようだが、俺は別にことりを恨んだり憎んだりしてるわけじゃ……」
「分かってますよ、そんな事。分かってます。けど……」
まぁ、この話は何度かしているし、こういう展開になる事は正直予想していた。
それでも自分の思いを口にしたのは謂わば自己満足のようなもので、またいつかは鈴羽も俺の気持ちが分かってくれるのではないかという希望的観測によるものだった。
「まぁ、仲良くしろとは言わないけどさ、喧嘩はしないでくれると有難いかな。俺にとってはどっちも大切な友人知人なわけだし」
「喧嘩はっ、しませんよ。ていうか、もう簡単には出来ないと思います。あれだけ喋って、今更、じゃないですか」
「というより、端から見たら仲良く話してるように見えたけどな、お前達」
あんな光景を見せられて実は仲が悪いんですって言われても、にわかには信じ難いというか、もしそうなら女ってこえーって俺なんかは思ってしまう。
「知らなかったですか? 女性って、ホントは怖い生き物なんですよ」
「怖い生き物ね……」
鈴羽を見ていると、到底そうは思えないけど。
「がおー、なんちゃって」
「……」
わざわざ両手を前に突き出してやってくれたにも関わらず、俺はどう反応していいか分からず、とりあえず無言で見つめてみた。
「その顔止めて下さい。せめて馬鹿にするか、軽蔑してくれた方がまだマシです」
そう言った鈴羽の顔は耳まで真っ赤で、珍しく本気で恥ずかしがっているようだった。
「いや、正解が分からなくて」
「わざとですか? わざとやってます?」
「うーん。やっぱ、やるならもう少し振り切ってやらないと。恥ずかしがってる様子が見てるこっちにも伝わってきて、正直リアクションが取りづらい」
「鬼ですか、あなたは」




