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神崎鈴羽は、せんぱいに構われたい。  作者: みゅう
第一部 第五章 神崎鈴羽は人見知り。
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第27話 最終日

「すーずは」


 名前を呼ばれ、(ひたい)を軽く押される。そこで私はようやく我に返った。


「何? 悩み事?」


 丸机を挟んで正面に座るめぐみんが、眉を(ひそ)めてそう私に聞いてくる。


「悩み事ー。んー。どっちかと言うと、考え事かな?」

「ふーん。で、何考えてたの?」

「あはは……」


 考えていた内容はとても私的な事で、話すのは正直恥ずかしいので、私はとりあえず笑って誤魔化(ごまか)す事にした。


 せんぱいと遊園地に行った翌日、ゴールデンウィークの最終日の昼中を、私は友人のめぐみんと過ごしていた。

 場所は大学近くの喫茶店、せんぱいと昼食をたまに取るあのお店ではなく、普通にチェーン展開している少しお洒落(しゃれ)なとこだ。


 ゴールデンウィークとはいえ、店内の様子はいつも通り、多過ぎず少な過ぎずそれなりの数のお客さんが、お店には来ていた。


「で?」

「へ?」

「いや、だから、何を考えてたの? 鈴羽(すずは)は」

「……」


 さすがに、あれでは誤魔化されてくれないか。


「めぐみんはさ、今好きな人いる?」

「いるよ」

「え? 誰?」


 自分で聞いておいてなんだが、まさかめぐみんの口からそんな言葉が出るとは思っておらず、普通に驚く。


香野(こうの)先輩」

「は?」


 めぐみんの言葉に、私は思わず自分の耳を疑う。


「だって香野先輩、優しいし面白いし、顔もそこそこじゃない? やっぱ彼氏にするならああいうタイプかなって」

「……」


 何か言おうとして口を開いたものの、結局何も言葉が出てこず、何も言えないまま私は口をつぐむ。


 せんぱいは別に誰かのものってわけじゃないし、めぐみんが例えせんぱいと付き合おうと私には何ら関係のない事だ。だから、ここで私が何か反論みたいな事を言うのは絶対におかしな事だし、めぐみんに対して失礼な事だと思う。それは分かる。理屈では当然分かっている。でも――


「なんてね」

「へ?」

「いや、だから、冗談。確かに香野先輩は私もいいなって思うけど、私の彼氏って感じではないかな」

「そうなんだ……」


 なんだろう、この気持ち。ほっとしたのは間違いない。それは素直に認める。だけど、それだけじゃないっていうか、なんというか……。


「鈴羽はホントに、香野先輩の事が好きなんだね」

「別にそんな事――」

「ない?」

「なくはないけど」


 こんなところで、めぐみん相手に嘘を()いても仕方ない。認めよう。私はせんぱいの事が好きだ。それは紛れもない事実であり、揺るがす事も誤魔化す事も出来ない真実だ。


「しないの? 告白」

「いや、そんな、私なんかじゃ勝ち目ないし、第一せんぱいは私の事そういう風に思ってないだろうし」


 一番仲のいい後輩。それが良くも悪くも私の今の立ち位置だ。


「勝ち目ね。ま、客観的に見たら、そう思うのも当然というか、そもそも勝負になるのかって話だしね」

「うっ……」


 自分でも分かっている事とはいえ、改めて人の口から聞かされるとやはり(こた)える。


「正直なとこ、大導寺(だいどうじ)先輩と香野先輩ってどういう関係なの? っていうか、どうやったら知り合いになるの? あんな(すご)い人と」

「なんか、隣の席になった時に向こうから話しかけてきたって、せんぱいが」

「向こうから!? そんな事して、大導寺先輩になんのメリットが」


 あ、私と同じ感想だ。けど、大体の人はそういう感想を抱くと思う。雲の上の存在とまでは行かないけれど、それに近い雰囲気があの人にはある。


「実は香野先輩って、凄い人だったりして……」

「うーん。物怖(ものおお)じしないって意味ではそうかも。高校時代も先生とか先輩にも、自分の意見をはっきり言ってたし」


 後、本人は否定するかもしれないが、正義感も強いと思う。困っている人がいたら放っておけなかったり、曲がった事が許せなかったり。そういう所に私も……。


「鈴羽?」

「え? 何?」

「いや、またぼっとしてたから」


 いけない、いけない。折角、めぐみんと一緒にいるのに、こんな何度もぼっとしていては、失礼だし心配させちゃう。


「鈴羽はさ、あんまり考え過ぎない方がいいと、私は思うな」

馬鹿(ばか)だからって事?」

「馬鹿っていうか、向いてないと思う、そういうの。当たって(くだ)けろの精神というか、考え過ぎない方が鈴羽の場合は上手(うま)く行くと思うよ。多分だけど」


 その言葉が、今思い付いただけの口から出任せではない事は分かっている。めぐみんはそんな子じゃないし、話し方もどこか丁寧(ていねい)というか、私の事をちゃんと考えてくれている事がしっかりと伝わってくるものだったから。


「当たって砕けろか」

「ま、本当に砕けたら、私がちゃんとフォローするし、(なぐさ)めてもあげるから。出たとこ勝負で頑張(がんば)ろう」


 砕けるのはちょっと……というか大分嫌だけど、めぐみんの言う通り、考えを(めぐ)らしたり何か策を()ったりするのは私には向かないし、私自身あまり好きではない。


「よし。明日からも私らしく、ちょっかい掛けてせんぱいにいっぱい構ってもらうぞ」

「……まぁ、鈴羽はその方がらしくていいかもね」

「え? なんて?」

「ううん。なんでもない。それより、このジャンボパフェ頼みたいんだけど、鈴羽手伝ってくれる?」

「うん。任せて」


 こうして私のゴールデンウィーク最終日は、若干の胃もたれと共に終わりを迎えるのだった。

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