第八十一話【レインVSサード・肆】
なんとか脱出可能な状況になって来た。
よし、行けるかも。
俺は腕に力を入れて、地面を思いっきり押す。
それによってこの水地獄から、脱出することが出来た。
そう、顔が自由になったことによって、呼吸が可能な状態になった。
一早く口いっぱいに酸素を吸いこもうとする。
だが口を開けた瞬間、背中辺りを押されて再び水の中に戻された。おそらく相手が靴の裏で踏んだのだろう。
まじ……かよ。
ほとんど空気を吸い込むことが出来なかった。少しだけ鼻から補給出来たが、本当の微量。さっきとほぼ辛さは変わらない。
耳に水が入ったような気がする。
耳の奥がバリバリしている。
頭が熱い。
酸素不足で、全身の痒さを超えたらこうなるんだな。
何ていうんだろう……臓器や細胞などすべてが燃えるような感覚。
体内にいくら水が入ったのか分からない。
胃が気持ち悪い。
でも何より肺が苦しすぎる。
と、その時。
最後を迎えるかのように、電撃が走ったような痛みに襲われた。
俺は何も考えずに全力で腕を動かす。いや、正確には動かした自覚がなかった。
限界を何度も乗り越えて、考える思考も残されていなかったのだ。
だが、その腕を振ったスピードが、普通ではないことには気付いた。
手の甲が相手のどこかに衝突したのと同時に、顔周りの水がなくなった。
それと同時に俺は勢いよく泥と空気を吸い込む。
「───ゴホッ。ゲホッ」
いきなり肺に大量の空気が入ったせいで、むせてしまった。
……めちゃくちゃ美味しい。
いつもより格段に新鮮な感じがする。
泥が口に入ったが、全く気にならない。
でも酸素ってこんなにも美味なんだな。なんか、大切さが実感出来たわ。
て、そういえば……相手は俺のがむしゃら攻撃で吹っ飛んだのか?
少し落ち着いて来た為、周りを見てみると、
「あぁ………いってぇ」
相手はそんな声を上げながら、壁にもたれ掛かっている。
足のすねを両手で押さえていて、とても痛がっているようだ。
どうやら俺のがむしゃらが効いたらしい。壁まで吹っ飛んで行くほどの威力が、すねに集中したんだから……想像するだけでもやばい。
あー、よかった~。
まじで助かったわ。
いつ死んでもおかしくなかったと思う。
時間にして数分程度だったはずだけど、めちゃくちゃ長く感じた。
もうこんなのはこりごりだ。
これからはこうならないよう、事前に注意しておこう。
油断して攻撃をわざと受けるのはあまりよくないと実感した、今日この頃。
よし、じゃあ行くか。
俺はその場に立ち上がり、壁際の相手に向かって走り出す。
服がびちょびちょで、泥が至る所に付いてやがる。
気持ち悪い。
こんなことをしてくれたあいつを半殺しにしてやらねば。
相手は、ものすごいスピードで近付いている俺を対処しようと急いで立ち上がろうとするが、そんなことはさせない。
本気の俺の敏捷性を舐めんじゃねぇ。
「おらぁぁ」
とりあえず相手の横腹を蹴り飛ばした。
相変わらず硬い。
でも、今回はダメージがちゃんと通った気がする。
「うっ」
相手は驚きの声を上げて、地面に倒れた。この反応からしてかなり効いたらしい。
よし、止まらないぞ。
俺は地面に倒れ込んでいるサードさんの腹を本気で蹴った。更に顔面、首などに攻撃を加えて行く。
相手が抵抗出来ないほどの攻撃を続けて行くこと数分……。
「サード選手のギブアップにより、勝者レイン選手!!」
全く動かなくなった王者サードの姿を見て、審判がそう叫んだ。
思った以上に疲れがたまっていたらしく、俺はその場に座り込む。
本当に疲れた。
特にやばかったのは、あの水地獄。
水恐怖症が芽生えたかもしれん。
あと一秒遅れていたら意識不明になって敗北していた可能性がある。
ということで俺は裏闘技場選手第1位、王者となった。
これからは定期的に第2位の強者を返り討ちにしなきゃいけないけど……めちゃくちゃ楽しみだ。
だって腕自慢の色んな方と戦えるんだもん。
正直生前の俺では考えられないほど、戦いとダメージに飢えているわ。
読んでくださりありがとうございます。




