第五十一話【成長】
勝ちが見えた。
背後から攻撃をしていけば、いずれ勝利を手にすることが出来るぜ。
俺は軽やかな足取りで音を立てないように移動し、相手の背後に回った。
よし。
背中を撃ちまくって呼吸を止め続けてやる。
オークの体の構造はよく知らんが、大体人間と同じだろう。
背中の中心の少し横辺りに衝撃を与えると、普通呼吸がしづらくなるのである。
つまり、それを何度も繰り返せば相手は呼吸困難に陥るという考えだ。
そう考え、体重を乗せた拳を大きな背中の中心に向けて放つ。
絶対当たると思っていた、その瞬間!
「ブフォ!!」
オークがいきなり振り向きながら、裏拳を俺の顔面に入れて来た。
「───っ!」
まじか!?
それにより吹き飛ばされ、地面に倒れた。
いってぇ。
今のは脳が揺れたわ。
視界が歪んでやがる。
急いで立ち上がったが、自分が横を向いているのか、斜めに立っているのかよく分からなくなり、再び地面に倒れてしまう。
「あー、気持ちわりぃ」
吐き気がする。
と、その時。
「!? ゲボッッッ」
突然お腹を踏みつけられた。
やばい。
力を入れていなかったせいで、胃の中のものが出たわ。
「ブフォフォフォォォ」
更に相手は、何度も腹や顔を踏みつけて来る。
うっ!
「ゲァァ───」
胃酸が出たりしているせいで、喉が痛い。
こ、こいつ‥‥‥目が潰れているのに俺の位置が分かるのか?
「ゴボッ‥‥‥オロロォォォ」
俺は本能的に痛みを恐れ、思わずうつ伏せになってしまった。
ダメージから逃げるのはいつ以来だろうか。
体が勝手に逃げてしまった。
あんな状態だと、腹筋に力なんて入れられないわ。
なんかさっき爪で刺された部分が痛んで、大量の血が出てるし。
相手は遠慮することなく、俺の背中を踏みつけて来てやがる。
更に片腕の関節部分も踏まれた。
ゴキッ。
と変な音が響く。
そしてかなり痛かった。
‥‥‥多分折れたわ。
続いて後頭部を踏みつけられたことによって、ものすごい力で地面に鼻を押し付けられ、激しい痛みが顔面を襲う。
正直もうどこが痛いのか分からん。
───あー。
なんか久しぶりだ。
確か昔、猿の大群に襲われて死にかけた時もこんな感じだったなぁ~。
久しぶりに蘇って来るかも。
あの急成長した感覚。
‥‥‥。
───来た。
「調子乗ってんじゃねぇよ。豚が」
俺は踏みつけられているのを無視してその場に立ち上がると、正面から相手と向き合う。
まるで痛みがなくなったような感覚だ。
折れた左手は動かないが、右手だけで充分だ。
この程度の奴、余裕だぜ。
「ブフォォ!!」
赤いオークは、俺の肩に向けて思いっきりパンチを繰り出して来る。
さて、今思いついたけど、これならいけそうな気がする。
ちょっと試してみよう。
俺はその場に立ち止まったまま重たいパンチを受けた。
だが、吹き飛ばない。
更に相手はお腹をかかとで蹴り飛ばして来る。
だが、後ろに下がることはない。
ふぅ、この新技術は結構使えそうだ。
ダメージの受け流しは意外と小回りが利かんからな。
これならすぐに出来る。
‥‥‥でも、痛い。
ダメージが百パーセント来やがる。
何をしたかというと、頭の中でイメージをしてみた。
どう伝えればいいんだろう‥‥‥足の裏と地面を金属で固定した。
ただのイメージなのだが、結構効果あるもんだな。
全くノックバックしなかった。
これであとはダメージを逃がせたらいいんだけど。
それはまだ無理そうだな。
全然成功のイメージが沸かない。
さて、じゃあそろそろ反撃するかな。
おい豚野郎、覚悟しとけよ?
俺はゆっくりと歩き出す。
するとオークはそれを食い止めるように何度もパンチを放って来る。
その度に金属で下半身を固定するイメージをし、吹き飛ばないようにする。
痛いけど、まだ足りない。
もっと痛みが欲しい。
こいつ‥‥‥殴るならちゃんと絶命するレベルの重さで攻撃して来いよ。
強くなりたいんだ。
こんな痛みじゃ足りないんだよ。
俺は動く方の右手で、思いっきり相手の横腹を殴った。
「ブ、ブフォ!?」
相手はダメージをくらった場所を両手で抑え、驚いたような声を上げた。
おそらく俺の攻撃力にビビったのだろう。
正直今までは拳が壊れるのを防ぐ為に、若干力を抑えていたけど、ここまで来たらどこが壊れても変わらねぇよ。
どうせ俺の体のことだから、ダメージを受けた分だけ強くなるんだから。
いやぁ、わくわくして来たぜ。
まじでこんなに楽しい戦いは久しぶりだ。
俺は続いてオークの顔に向けてハイキックをくらわせる。
足の骨が割れそうだけど、気にすることはない。
更に反対の足でオークの顎を蹴り飛ばした。
それにより相手はかなり脳が揺れたらしく、勝手に地面へ倒れて行った。
「おい、景色が揺れている感覚はどうだ?」
俺はオークの首元を本気で踏み潰す。
「ヴォ。ゴボォォ!!」
相手の口元から大量の血が噴き出しているが、知ったこっちゃねぇ。
もっとやってやるよ。
「おらぁぁ! どうだ、豚野郎? 俺はもっと痛い思いをしているんだぞ?」
俺は少し体制を変え、全体重を込めたパンチを首元に向かって放ってみた。
「ブォォォォォォッ!!」
あら‥‥‥喉に穴が空いちゃったわ。
でも、別に構わないよね?
君は俺の腕を折って来やがったしな。
「この程度で終わらないよね? 俺の遊び相手くん?」
俺はオークの下半身付近に移動し、爪で足の裏を高速でなぞる。
ふっ、地獄を味わいやがれ。
「ブォホッホッブォブェェェ」
赤いオークくんは、喉に空いた穴の痛みで苦しみつつも笑いながら声を上げている。
おいおい、笑うか、苦しむかどっちかにしようぜ?
よ~し、更に地獄を見せてやろう。
これが本当の戦いだ。
俺は相手の足の爪をすべて剥がし、動けないように固定しつつも足の裏をゴリゴリと掻いてあげる。
「ブギャァァァ! ブホッホッ。ブエェェ」
‥‥‥ぷっ。
涙を流して笑ってやがる。
どうだね、俺の片腕骨折の恨みは?
気持ちいいか?
と、その時。
オークが一度体を痙攣させた後、突然声が聞こえなくなった。
どうやら死んだのだろう。
「ふぅ‥‥‥俺の勝ちだ」
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