第三十二話【アラストル学園・説明会】
およそ一週間の時が経った。
裏闘技場で対戦を終えたあと、俺とブラックさんはそれぞれ治療室で応急処置をしてもらい、それぞれ帰宅した。
で、商店街に向かってスラム街を歩いていた時、何故かブラックさんからの呼ばれ方が変わったんだが?
そう、レインちゃんからレインさんに。
どうやら俺を上の立場だと思ってくれたらしい。
彼はしばらくの間片手で接客業に専念するみたいで、俺に「レインさん、これからも上を目指して頑張れよ!」と言ってくれた。
因みに俺はこの一週間、毎日裏闘技場で戦い続け、どんどん順位を上げていった。
戦った中で今のところ一番強かったのはブラックさんだ。
マリシャス様ことおじいさんに、もっと強い人と戦わせてくれと言ってみたら、もう少し待ちなさいと言われたので、仕方なく2、30位付近の相手たちと戦っていったのだが、その結果、ブラックさんより苦戦した相手がいなかったのである。
まあ順調に順位を上げて、今では38位になったぜ。
もう少ししたらトップクラスの奴らと戦うことが出来るだろう。
そして今現在、俺はアラストル学園の門の前にいる。
何故かって?
入学試験の合格発表日だからだ。
人が多いのぉ。
めっちゃ子供と親のペアがおるやん。
てか、めちゃくちゃ緊張しているけど、よく考えたら俺の合格は決定しているんだよな。
試験の模擬戦で、あれだけ丁度いい感じに目立ったのだから、Sクラスになれただろう。
最低のFクラスなんてなるはずがない。
これはフラグではない。
よ~し、気楽に行くぞ!
俺は他の受験者たちの間を通って門をくぐり、合格者が書いてある紙が貼られているボードを見て行った。
まずはSクラス。
‥‥‥あれ?
おかしいな、俺の受験番号である505がどこにも書かれていない。
‥‥‥う~ん?
何度見てもないぞ?
隣のAクラスを見てみよう。
お~ん?
‥‥‥ない。
俺の視力が急激に低下したってことはないよな?
Bクラス!
ない。
この紙‥‥‥バグってる?
Cクラス。
ない。
Dクラス。
ない。
Eクラス。
ない。
Fクラス。
‥‥‥ない、かと思ったら一番下に505と書かれてある。
よかったぁぁ───ってよくねぇよ?
なんで俺が最低のFクラスやねん。
俺ってそんなに成績が悪かったのか?
ボードの横にもう一枚の紙が貼られているので、見てみると‥‥‥、
『合格者は全員体育館に集合してください。みんなが集まり次第入学の説明会を行います』
とのことらしい。
ふむふむ。
結果は気に食わないけど、まあこんな所で立ち止まっておくのもあれだから行くか。
そう考え俺は、他の受験者に交じって体育館へと向かった。
そしてものすごく広い建物の中に入ると、Fクラス合格者の席へと座る。
‥‥‥。
はぁ。
俺‥‥‥最低のFクラスか。
てっきりSになれるのかとばかり思っていたわ。
‥‥‥周りにいる奴ら、全員レベル高くね?
正直俺は唯一出来た算数だけで上位のクラスへ行けると確信していた。
けど、あれじゃ駄目だというのかね?
一教科程度では相手にならないほど全員が頭いいのかね?
「あ、君もFクラスなの?」
椅子に座ってふぅ~っと一息ついていると、少し離れた場所から声が聞こえて来た。
向いてみると、三つくらい向こうの席に女の子がいる。
‥‥‥容姿はめちゃくちゃ普通。
俺と同じ茶髪で、かなりボサボサ。
髪が多すぎて目元が見えない。
そしてかなり汚れた服を着ていることからして平民っぽいな。
口元は‥‥‥多分普通。
髪がボサボサすぎるせいで、全体的に悪印象だ。
「そうだよ」
俺が自分の髪を掻きながら返事をすると、ボサボサな茶髪の女の子は何かを思い出したような顔をした。
「あ、そういえば君って‥‥‥入学試験の模擬戦で唯一生き残っていた子だよね?」
ほう。
「覚えててくれたんだ」
「まあね、あれだけインパクトがあったら忘れられないよ」
「そうなんだ」
「でさ、あれってどうやって防いだの?」
ああ、教師たちが放った子供を殺す気満々の魔法のことか。
面倒くさいし適当に誤魔化しておこう。
「たまたま魔法同士が相殺しあっていた感じかな? 俺自身にはあまり当たらなかったから」
「えー、そうだったんだ。‥‥‥でも、かっこよかったよ?」
「えっ!?」
今‥‥‥この子、俺のこと好きなんじゃね? という考えがよぎってしまった。
レイン=フォレストよ、勘違いは止めておけ。
こういう子は誰にでも話しかけるような女の子だ。
うん、これは男子あるあるなのである。
思春期の男の子は、挨拶をして来ただけの女子に対して勘違いを行いやすい傾向にある。
あれ? この子俺に好意があるんじゃね? みたいな。
だが、期待するだけ無駄である。
ふっ、名も知らぬ女の子よ、鈍くなくてごめん。
「‥‥‥あーあとさ、私‥‥‥君と友達になりたいな?」
「お、俺と?」
めっちゃいきなりやん。
「うん。私、同級生の貴族たちと仲良くなれそうにないし、君平民でしょ?」
「まあそうだけど」
「だから平民同士で友達になっておきたいなって」
「そういうことなら、いいよ?」
快くそう言ってあげると、女の子の口元がにっこりとした。
「よかった。じゃあよろしくね!」
「あ、うん。よろしく」
ということで、俺とこの普通の女の子は友達になったらしい。
‥‥‥。
ごめん。
正直言ってあまり好みな容姿ではない。
だから友達止まりだとは思うけど、仲の良いクラスメイトが増えるのはいいことだ。
てかこの子、さっき「貴族たちと仲良くなれそうにない」って言ってたよな?
もしそれが本当なら、貴族の同級生とは友達や恋人になれないということかね?
‥‥‥おい、まじかよ。
清楚で美少女の女の子とか、カラフルな髪のお姫様とかとハーレム学園生活を送りたかったのに‥‥‥。
おーん?
出来ないの?
かなりがっかりしつつも俺は他の合格者が揃うのを待ち、やがて説明会が始まったっぽいので静かに聞いていった。
しばらくして‥‥‥。
ふぅ、やっと終わった。
俺は体育館を出てすぐに背筋を伸ばす。
はぁ、校長先生の話長すぎだろ。
お菓子のひもQか、この野郎!
まず前置きが一番長かった。
確か最初に、「さてみなさん、初めに合格のお祝いを申し上げます。最近は温かくなって来て、ますます過ごしやすい季節となって来ましたね。みんなは全員がすごい倍率を潜り抜けてここにいる訳ですが、今までたくさんの苦労を積み重ねて来たことでしょう。えぇー、かの有名な偉人はこう言いました。努力をした分だけ人は成長する。生徒の中にはそれぞれ才能の差があると思いますが、それは努力をすることによって埋める‥‥‥いや、超えることが出来ます。かの有名な別の偉人は、努力はするだけでは意味がないと言ったりしていましたが、私はそんなことはないと考えています。人は頑張ることによって成長し、強くなれる。だからこの入学試験に受かったからと言って気を抜かず、ひたむきに努力を続けて行ってください。‥‥‥次に───」
次に!?
まだ続くのかよ!?
説明会のくせに、全然説明が始まらねぇ。
流石に疲れたわ。
白いひげを生やした校長先生よ、入学式でもこんな感じなのかね?
そんなことを考えつつも俺は門に向かって歩いて行く。
「ねぇねぇ、君!」
後ろからそんな声が聞こえて来る。
振り向いてみると、説明会が始まる前に会話をしたボサボサな茶髪の女の子が、こちらに向かって走って来ていた。
「どうしたの?」
「えーっと、その‥‥‥名前を聞いておきたくて」
女の子は少し照れた表情でそう言った。
別に損することもないし、教えてあげるか。
「レインだよ。レイン=アルトリア」
「レインくんか、可愛いね。‥‥‥因みに私はティナ=フォールだよ!」
「じゃあフォールさん?」
「‥‥‥あのさ、名前で呼んでくれない?」
もう名前呼び!?
ちょっと展開が早いような‥‥‥。
まあ別にいいけどさ。
「てぃ、ティナさん。じゃあまたな!」
俺がそう言って手を振ると、彼女は嬉しそうな表情をする。
「うん、レインくんまたね!」
俺は走って行く彼女の姿を見届けた後、歩いて門の外へ出た。
さてと、入学式は明後日で、その時に色々と資料を提出しないといけないから、また宿屋で書いておくか。
誓約書。
入学金。
購入するもの一覧。
その他。
考えるだけで面倒くさい。
俺の家族の設定であるフォード=アルトリアさんの住所などが書かれている紙と、ハンコなどは受け取っているので、あとは俺が書くだけだな。
読んでくださりありがとうございます。




