43 赤い糸、いかがですか?
「いってらっしゃい」
寿也さんが社会人になってもうじき1年。今、僕は寿也さんと一緒に暮らしている。
結局、寿也さんの就職に合わせて同棲を始めることになった。
2人で色々考えて、同棲することのデメリットが見当たらないというのが決定打になった。
僕が同棲を拒んでいたのは、寿也さんに依存してしまいそうだからというのが一番大きな理由だったんだけど、既に僕は寿也さんのいない生活が考えられないくらいになっていた、つまりとっくに手遅れってことにようやく気付いた。
で、寿也さんが就職して仕送りがなくなることや、結婚資金を貯めるのに光熱水量を一本化する方が合理的なことなんかを考えた結果、僕が寿也さんの部屋に入る形で同棲を始めた。
色気の欠片もない理由だ。
寿也さんの部屋に住むことにしたのも、こっちの方が少し広かったのと、僕の部屋の方が綺麗で敷金の返還が期待できそうだったからという、割としょうもない理由からだった。
一緒に住む話を灯里にしたら、今更?って顔でものすごく呆れられた。
悪かったね、前言翻して。
去年のお盆には、寿也さんを連れて僕の実家に行った。一昨年は佐渡に行ったせいで帰れなかったからね。
もちろん、父さんに寿也さんと会ってもらって、今後のことを話した。
寿也さんを婿養子にって方向で、寿也さんの実家にも許可はもらってる。
この正月には、僕が寿也さんの実家に挨拶に行ってきた。
思いっきり猫を被って女らしい格好で行ったし、余所行きの口調にしてたから、そこそこ気に入ってもらえたと思う。
そして、2月にはうちの両親が寿也さんの実家に挨拶に行った。
僕達の結婚は、すっごい早さで決まった。
今年の6月には、僕達は夫婦になる。
あんまりジューンブライドに憧れはないんだけど、日取りはあっさりと決まった。
結婚式の費用は、うちの両親がかなり出してくれることになっている。
正直、親の脛齧って結婚なんてしていいのかと思うけど、なにしろ田舎で婿養子を取るっていうと呼ばなきゃならないお客とか色々いるので、それで規模が大きくなる分を考えて両親がお金を補助してくれるって形だ。
気は進まないけど、せっかく結婚に向けた動きができてきているので、変にブレーキを掛けないようにしている。
準備で結構きついのが、打ち合わせやら衣装合わせやらで頻繁に実家に顔を出さなきゃならないことだ。
料理だ引き出物だお色直しのドレスだ、と決めなきゃならないことが山ほどある。
僕は、婿をもらう側だし、マリッジブルーには縁がないみたいだけど、それでも鬱陶しくてやめたくなる時があるんだから、お嫁に行く人なんかは大変なんだろう。
寿也さんからは、クリスマスに婚約指輪を貰った。
色々お金が掛かるから、高いのでなくていいと言っておいたのに、二桁万の指輪だった。
ここで、嬉しいじゃなくて勿体ないと思ってしまうのが、僕の所帯じみたところだ。
一緒に暮らし始めたことで、拍車が掛かった感がある。
すっごく綺麗なダイヤの指輪だから、勿体なくて着けられない。
そういうところも僕らしいとは思うけど。
寿也さんは、イベントの時はちゃんと着けてくれよ、とだけ言って放置してくれてる。
もちろん、僕の胸には、初めてのクリスマスの時に貰ったネックレスが今も下がっている。
今、僕は、バイトの傍ら主婦をやっていて、週に2日、大学に行っている。
結婚する頃には大学は卒業しているけど、それ以外は、あんまり状況は変わらないみたいだ。
子供を産む時は実家に戻って、後は寿也さんの転勤先や子供の学校なんかのことを考えながら実家に入るタイミングを見計らう予定。
あれだけ悩んでたのが馬鹿みたいに、いい加減でなあなあな展開になった。
もし僕らの間に赤い糸ってものがあるのなら、その中間辺りに何かが引っかかったまま突っ走っているに違いない。
そんなことを言ったら、寿也さんが「赤い糸にひっぱられて生きていくのも、俺達らしいんじゃないか?」だって。
思えば、付き合うきっかけは「全力でこの子に関われ」って電波だったっけ。
状況に流されまくるのが僕ららしいっていうのは、まあ、否定できないかもしれない。
でも、ま、何がどうなるかわからないのが人生だし。
やり直しもクーリングオフもいらない人生ってのも、いいじゃないか。
なるようになるってことで。
後悔なんて、後でいくらでもすればいい。
本編は、これで終わりです。
この後、兄視点と後日談が入って完結の予定です。
もう暫くお付き合いください。




