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38 男の子のロマン、いかがですか?

 「日本海から昇る朝日?」


 夏にどこへ遊びに行こうか、なんて話をしてたら、寿也さんが素っ頓狂なことを言い出した。


 「ほら、俺って太平洋側の出身だろ? 小さい頃から、ドラマで海に沈む夕日を見て、どうやったら見れんのか考えたことがあったんだよ」


 「それが、なんで朝日になるのさ?」


 「少し大きくなるとさ、太陽が東から昇って西に沈むってのはわかるんだけど、そうすると、ドラマで海に沈む夕日はなんなんだってことになるわけ。

  んで、俺の夢は、太平洋に沈む夕日と日本海から昇る朝日をみることになったわけさ。もちろん、船の上からじゃ駄目だぞ」


 「それ、夢なの?」


 「ま、将来の夢とかそんなんじゃないけどな。

  野望って言ってもいいかな」


 「野望の方が、夢よりスケール大きい気がするけど、でも、やっぱりショボい」


 「いやいや、男のロマンなんだって。

  でさ、思いついたのが、島なんだよ」


 「島?」


 「そう! 例えば、佐渡の東の端に行けば、日本海が広がっているわけだ。

  そこなら、日本海から昇る朝日が見られるだろ」


 「ああ、そうだね」


 「感動がないなぁ。コロンブスの卵って気がしない?」


 「まあ、そうかもね。誰も考えつかないって点では。

  で、佐渡に行くわけ?」


 「そう。明星って、コンビニのバイト、あんまり休めないだろ?

  でさ、佐渡なら、2泊3日で船にも乗れるし海にも山にも行けるかなって」


 ああ、そこに繋がるのか。

 たしかに、僕はあんまり休めないけど。


 「あのさ、2泊3日って、僕には結構きついんだけど。

  ただでさえ、夏休みに帰省するバイトが多くてシフトが大変なのに」


 「この前、お盆に休み取れなかったって言ってなかった?」


 「言ったよ」


 そう、今年は、どう頑張ってもお盆に体が空かなかったんだ。

 元々、夏休みは帰省する人とか集中講義に出る人とかがいるから、シフトが変則的になる。

 実際、僕も夏休み序盤に、1週間の集中講義を受講してた。

 たった1週間、午前の2コマ出るだけで、半年分の2単位がもらえる上、外部の有名な講師を招いたりするから、すごくおいしいんだ。

 そういうのを狙う人が多くて人員が偏るところに、地元に帰省する人もいる。

 中には、集中講義を取ってて、それが終わったら帰省するなんて人もいるから、シフトを組むのが大変なんだ。

 そんなこんなで、帰省が集中しやすいお盆は人数が足りなくて、僕は8時間ずつ出と休を繰り返すというブラックな環境になってしまった。

 ここまでひどいシフトは、さすがに初めてだ。

 去年は、僕も帰省する側だったからなあ。

 チーフになったのは、秋口くらいだったっけ。

 チーフになると、こういうところが損なんだよね。


 「で、お盆に僕が休めない話が、2泊3日とどう繋がるのさ?」


 「だからさ、一番大変なお盆に出る分、ほかのところで休み取りやすかったりするんじゃないの?」


 ああ、そういうことか。


 「それにしたって、丸3日休むのは、さすがに無理。

  それに、実家に帰れなくなっちゃうよ」


 「実家、行きたい? 3月に行ったばっかだけど」


 「そりゃ、そうだけどさ」


 「お盆には、どのみち帰れないわけだし、その辺どうなのかな?」


 う…寿也さんが珍しくご機嫌伺いモードになってる。

 あ~~~、もう! わかったよ。


 「3日丸々は休めないからね! 午後から出発して、2泊が限界。もしかすると、3日目は戻ってからシフト入るかもしんない」


 「了解。

  んじゃ、1日目は新潟で1泊して、朝イチのジェットフォイルで佐渡に行こうか。

  スケジュール、どの辺が空くかわかったら、教えて」


 「…わかった」


 「あ、ジェットフォイルって水中翼船な。

  船体の前の方から海水を取り込んで、それを後ろに向かって噴射するんだ。

 半分浮いたような状態で走るから、水の抵抗を受けない分早くてね、1時間くらいで佐渡に着ける。

  フェリーだと、2時間半掛かるから、倍以上のスピードだよ。

  その分、波に弱くて、天気が悪いと欠航しやすいけどね。

  で、フェリーだと、遅いけど、いかにも船旅って感じになるんだ。

  カモメに餌やれたりもするんだってさ」


 現金だなあ。

 でも、こんなにはしゃぐ寿也さんって珍しい。

 なんか、僕と一緒に旅行っていうことより、朝日を見ることが主目的になってる気がする。

  そう考えると、なんだか腹が立ってきた。

  僕は、結構大変な思いしてバイト休むのに。


 「なんだったら、寿也さん1人で行ってきたら?

  そしたら、時間制限なしで朝日でも夕日でもゆっくり見られるよ」

って言ったら、寿也さんがムッとした。

 なんだよ、ムッとしたいのは僕の方だよ。

 一緒に旅行に行く話が、どうして寿也さんの野望の実現みたいになってるのさ。


 「さっきから寿也さん、自分のやりたいことに夢中で、僕がいる必要ないじゃないか!」


 あ~、これは久々のケンカになりそうな気がする。

 一瞬後悔したけど、僕自身、面白くないのは間違いないから、ここは引けない。

 と思ったら、

 「なんで? 明星と一緒じゃないと意味ないじゃんか」

とか言われた。

 今の話のどこに僕が絡む?


 「俺はさ、恋人と並んで夕日や朝日を見たいわけ。

  最初のデートの時に言わなかったっけ?」


 最初のデート。レンタカーで海に行った時。

 本当は、日本海に沈む夕日を見に行きたいけどって言ってた。

 あ…もしかして、デートで夕日を見るのが目的ってこと? 朝日も?


 「えっと、なに? それじゃ僕をたたき起こして朝日見るわけ?」


 「もちろん。ちゃんと早寝早起きしてもらうよ」


 「わざわざ旅行に行って、早寝?」


 「世の中には、大晦日の夜中から富士山登ってご来光見に行く奇特な人が、掃いて捨てるほどいるんだよ。

  俺なんか、可愛いもんんだ」


 「自分で可愛いとか言うかな」


 「まぁ、スケジュールの関係で、強行軍になるのは仕方ないよ。

  あとは、天候の問題だ。

  8月は観光シーズンで、宿取りにくいから、スケジュールわかったら早めに教えてくれ。

  日程とか詰めとくから」


 「まあ、頑張る」


 こうして、僕らの色気の欠片もない泊まりがけ旅行計画が始まった。

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