35 毛深い人、いかがですか?
「寿也さん、僕ね、寿也さんが毛深い体質じゃなくてよかったって、心から思うよ」
「なんだい、突然?」
今、僕は、寿也さんと布団の中。
ピロートークのしみじみしたところで、突然こんなことを言えば、そりゃ訳わかんないよね。
「僕さ、どうも毛深い人って生理的に受け付けないみたいなんだ。
今日さ、レジにいる時に、すっごい毛深いお客が来てさ。
半袖で、肘から先は全部長さ2~3cmの毛で覆われてますって感じなの。
信じられる? 指まで毛が生えてるんだよ! 1cmくらいの!
おつり渡す時に、ちょっと手が触れたんだけど、もう鳥肌立っちゃって。すっごくぞわぞわしたんだよ。
仕事じゃなかったら、悲鳴上げてたかもしれない」
「指って、手の?」
「そう。指の、第一関節っていうの? 爪のある先っちょのとこ以外は、指から手の甲からびっしり。
あ…思い出したら、気持ち悪くなってきた」
「うわ、ホントに鳥肌立ってるじゃないか。
まぁ、指までびっしりってのは、そう多くないかもしれないけど、一応、よくいるぞ」
「う…。ほら、兄貴ってあんまり手足に毛がないでしょ?
うちは、父さんもそういうタイプだから、手足にいっぱい毛が生えてるのは見慣れてないんだよ」
「ん~、髪は女性ホルモン、体毛は男性ホルモンによるって聞いたことあるなぁ。
そりゃ、星也は毛深くないわな。
けど、俺だって多少は生えてるぞ?」
「寿也さん、毛深くないから。
どこまでが許容範囲なのかわかんないけど、今までこんなに気持ち悪いと思ったことなかったから、気にしたことなかったんだよね」
「腕に毛が生えてる人って結構いると思うけど、それくらいは平気なんだ? 胸毛とかは?」
「僕、寿也さん以外の男の人の裸なんて、見たことないからわからないよ」
海とかでも、そんな他人のことジロジロ見ないし。
「ああ、ま、そりゃそうか。
けど、コンビニの客だったら、今までにも毛深い人くらいいそうなもんだけどなぁ?」
「う~ん。気にしたことないんだよね、本当に。
多分ね、今日のお客さんは、毛が長かったのがまずかったんだと思うんだ。
なんていうか、形容しがたい気持ち悪さでさ、本当に…うわ、もう駄目…」
くらくらしてきた。
ぽすん、と寿也さんの胸に顔を埋めたら、少し気分が持ち直してきた。
「おい、明星?」
「ちょっと、このままで。
寿也さ~ん、気持ち悪かったよ~~」
「あ~、明星? あんまくっついてると、俺の方も、その、もう一戦したくなってくるからな?」
「…いいよ。僕もしたいから」
もう一戦終わって、2人で寄り添って、僕はポツリと
「僕さ、毛深い人と体臭のきつい人が苦手みたい」
「体臭?」
「苦手なタイプの体臭ってあってさ、その人本人に対する好き嫌いに関係なく、近寄れない人っているんだよ。
寿也さんがそういうタイプじゃなくてよかった」
「体臭ねぇ…。
その辺はよくわからんけど、俺にも体臭ってあるんじゃないの?」
「うん、寿也さんの匂いは好き。
あのね、前に何かで読んだんだけどさ、女は、自分と遺伝子が近い人の臭いって本能的に嫌うんだって。
遺伝子の多様性を求める本能があるんだってさ。子孫を残すために。
匂いに対する好き嫌いは、そういう原始的な部分が出やすいんだって」
「なんか、聞いたことある気がするなぁ。
まぁ、俺達は出身地が離れてるから、遺伝子的には遠いんだろうとは思うけど」
「もちろん、それだけで寿也さん好きになったわけじゃないんだけど、もし寿也さんが僕の苦手なタイプだったら、きっと近付いてなかったよね。
そういう意味じゃ、寿也さんが毛深くなくてよかったなって思う」
「あ~、まぁ、そうだな。
そもそも、俺達の出会いからして、偶然の産物だったわけだし、運が良かったってことでいいんじゃないか?」
「そだね」
たまたま出会って、なぜか好きになって。
でも、これからを作るのは、僕らの努力も必要だし。
どんな形で結婚するにせよ、お互いの努力と妥協は必要になってくるだろう。
それでも、僕は寿也さんに出会った幸運に感謝したい。




