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33 続々・問題児矯正計画、いかがですか?

 「ほら、掃除の時間だよ。言われる前にやる!」


 あれから3日経ったけど、相変わらず水谷君の動きは鈍い。

 少しわかってきたことがある。

 要するに、彼は、やりたい仕事とやりたくない仕事がはっきり分かれていて、嫌な仕事はとにかくやりたくないんだ。

 かといって、やりたがる仕事が特に得意ってわけでもない。

 まあ、レジがすごく得意ってどういう人だって感じだけど。


 コンビニのバイトって言えば、レジにいる人だよねってレベルで、彼のバイトのイメージは固定されていて、それ以外としては、品物を棚に並べているくらいしかないんじゃないかと思う。

 なんというか、水谷君は、自分の中で、「俺はこういう仕事するんだ」っていうのが固まっていて、その枠から出たがらないんじゃないかと思う。

 妙にプライドが高い気がするのも、そういうとこがあるせいかな。

 なんか、言動の端々に「俺はすごいんだぞお」って胸を張ってる感じが見え隠れしてるんだ。


 まあ、考えてみれば、うちの大学に入ってくるような人だから、中学・高校とそれなりにいい成績を取ってたんだろうし、プライドが高いのもわからなくはない。

 けど、今、ここのバイトやってる人って、ほとんどうちの大学の学生なんだよね。

 水谷君の成績がどれくらいか知らないけど、似たり寄ったりの成績の人が揃ってると思う。

 同じ大学の学生って考えれば、彼のプライドなんて何の裏付けもない薄っぺらいものでしかないんだよ。

 彼には、まず、その辺をきっちり認識してもらわないと。

 ただ、正面からポッキリ鼻っ柱を折っちゃうのもどうかと思うしなあ…。


 「終わりました」


 「はい、ご苦労様。

  もう少し、にこやかにしゃべれないかな?

  一応、うち、接客業だからね。

  じゃあ、次は、外のゴミ箱の袋、入れ替えてね」


 「…レジは…」


 「君は、当面、レジは立たなくていいよ。

  それ以外の仕事をこなせるようになるのが先だからさ。

  ゴミ箱、よろしく」


 「…」


 「ちょっと、水谷君!」

 僕は、水谷君の腕を掴んだ。

 「こっち」

 そのままバックヤードへ水谷君を引っ張っていくと、特に抵抗はせずに着いてきた。

 バックヤードで、僕は水谷君に


 「面白くないのはわかるけど、店内でそんなにあからさまにムスッとしてちゃダメだろう。

  何? 君は、レジ打ちしたくてコンビニのバイトに来たんだから他の仕事はしたくないって、そういうこと!?」


 「…そこまでは言いませんけど」


 「じゃあ、そのふてくされた顔、何とかしなさい。

  ここは接客業なんだってば。

  お客様が見て不快になるような態度は困るんだよ」


 「毎日毎日、掃除とゴミ捨てで、レジ打たせないで!

  俺に嫌がらせして楽しいんですか!」


 「思い違いもいい加減にしなよ。

  私はね、君が仕事のえり好みをしているから、万遍なく仕事を覚えられるように、君が嫌いな仕事に慣れさせようと思ってるだけ。

  毎日ったって、まだたったの3日だよ?

  この先1年2年続けるなら、何パーセントも変わらないよ。

  どんな仕事にだって、裏方とか色々あるもんだよ。

  トイレ掃除やゴミ袋替えも含めてコンビニの仕事なんだって、前にも言ったよね。

  君は、まず、そういう意識改革からやらなきゃならないと思うから、掃除中心に仕事を覚えていってもらってるんだよ。


  これもこの前言ったはずだけど、君がちゃんとトイレ掃除こなせるようになったら、他の仕事も回すってば。

  文句を言う前に、トイレ掃除くらいまともにやってみせなさい」


 ここまで言っても、水谷君の態度は改善せず、掃除専属から外れるまでに2週間も掛かった。

 やり直しさせること10回以上。

 正直、最後の方は、水谷君も意地になって手を抜いていたフシがある。



 最終的な転機は、水谷君と同じ講義を取ってる友人が店に来たことだった。

 彼らは、ちょうどその時ゴミ袋を交換していた水谷君に「よぉ、大変だな」と声を掛けた。

 それがどう作用したのか知らないけど、これがきっかけとなって、水谷君は吹っ切れたらしい。

 淡々と仕事をこなすようになった。

 手を抜いてた部分がなくなれば、人並みにできるようになるわけで、ようやくトイレ掃除は持ち回りに戻った。




 今回の件で学んだことと言えば、やっぱり人の気持ちって難しいってことだろう。

 何がどうなって改善したのかわからないから、もう一度やれって言われても、できない話だ。

 水谷君は、もう暫くは僕の下にいることになるけど、多分、夏が過ぎる頃には、別のシフトに入れるくらいになるだろう。

 問題児処理係としての僕の評価はまた上がったけど、あんまり実感が湧かない。



 「ねえ、人を育てるのって、難しいよね」


 「ん~、俺、育てたことないからなぁ。

  安易にそうだねって、答えられないんだけど」


 「僕、今回かなりキレそうになったんだよ。

  頑張ったご褒美、欲しいな~~」


 「何がいいかな?」


 「いっぱいキスして」


 うん、僕も、なんか吹っ切れちゃったみたい。

 寿也さんにおねだりするのに抵抗なくなってるよ。

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