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32 続・問題児矯正計画、いかがですか?

 「水谷君、もうじき昼だから、弁当の棚出しお願い」


 「わかりました」


 休み明け、水谷君は、問題なく動いてくれている。

 すぐ動かないと忘れる癖も、すぐに動けば心配ないわけで。

 とか安心してたら、思わぬ罠が。


 「水谷君、今のうちにトイレの掃除、お願いね」


 「いえ、あの、今レジやってますんで…」


 あれ? 「わかりました」って言わない?


 「うん、だから、そんなに混んでないし、レジはいいから、トイレ掃除の方やってって」


 「はあ、あの、俺はこのままレジの方やってますんで、黒沢さんがお願いします」


 今、トイレ掃除やりたくないって言った?


 「ちょっと水谷君、チーフの私がトイレ掃除をしてくるよう言ってるのに嫌だって断ってるように聞こえるんだけど」


 「嫌って言うか、黒沢さんが自分でやればいいのに、どうして俺に言うんですか? 自分がやりたくないことを人にやらせるのは、よくないと思います」


 あ~。ちょっとカチンときた。

 まるで、僕がトイレ掃除したくないから水谷君にやらせようとしてるみたいな言い方するじゃないか。


 「君はまだ入ったばかりだから、色々な仕事を経験しておく必要があるんだ。

  だから、トイレ掃除をしてきなさいって言ってるの。

  わかった? わかったら、つべこべ言わないで仕事する!」


 僕が言い切ったら、水谷君は軽く睨むような感じで僕を見てきた。


 「なんで黒沢さんがそんなこと決めるんですか?」


 おいおい。それこそ、なんのためのチーフだと思ってるんだ。


 「私は、チーフなわけだよね。

  このシフトでは、私が仕事の割り振りを決める役なんだよ。

  なんで私が決めるんですかって、それがチーフの仕事だからだよ。

  私は私の、君は君の仕事をするんだよ。

  わかったら、さっさと動く!」


 あんまり上司風吹かせたくなかったんだけど、ここまで言って、ようやく水谷君はトイレ掃除に向かった。




 「終わりました」


 「はい、ご苦労様。

  んじゃ、棚出しお願いね」


 さて、掃除の成果はどうかな?

 って、何、これ?



 「ちょっと水谷君、トイレ掃除のマニュアルは読んだんだろうね?」


 「読んでません」


 「なぜ? 仕事関係のマニュアルは、全部読むことになってるよね?

  君、入ってからもう1か月だろ? なんで未だに読んでないわけ?」


 「トイレ掃除するなんて、思ってませんでしたから。

  俺は、トイレ掃除するためにコンビニのバイトやってるわけじゃありませんから」


 「トイレ掃除も大事なコンビニの仕事だよ。

  トイレに入りたくてコンビニに入って、それじゃ悪いからって買い物をするお客様だっているんだ。

  トイレを綺麗に保つことは、大事なんだよ。

  今日はもういい。

  でも、明日までにマニュアルをきちんと読んでおくこと。

  明日から当分、トイレ掃除は君の仕事にするよ」


 「そんなの横暴です!」


 「マニュアルを読んでもいない人に、そんなことを言う資格はないよ。

  文句は、やるべきことをやってから言うんだね。

  君がきちんとトイレ掃除できるようになったら、持ち回りに戻すから」


 きっぱりと言い渡したら、水谷君はもの凄く憮然とした顔で下がっていった。

 あれは、反省してないな。




 翌朝、店長からメールがあった。

 半ば呆れながら出勤すると、水谷君が僕と目を合わせようとしない。

 まあ、仕方ないかな。

 さて、引導を渡しておこうか。

 僕は、僕を避けるように動いている水谷君を追い掛けて、目の前に立った。


 「水谷君、マニュアルは読んできたかい?」


 「…はい」


 「じゃあ、2時間おきにトイレ掃除、よろしくね」


 「…はい…」


 凹んでる、凹んでる。

 さすがに、店長に直訴した挙げ句、一笑に付されたらそうなるよね。

 店長からのメールには、予想どおり、水谷君が、僕の横暴だと店長に泣きついたことが書かれていた。

 僕も少し成長したからね、自分勝手なタイプのとりそうな行動は、ある程度予測できるようになったよ。

 僕は、昨日の仕事が終わった後、店長に報告を入れておいたんだ。

 水谷君がトイレ掃除をやりたがらず、マニュアルも読んでいなかったこと、仕事として命じているのに反抗したことなど。


 シフトを替えてほしいと泣きついた水谷君に店長は一言、


 「替えてもいいけど、今回の話は当然引き継ぎするから、君が当分トイレ掃除を一手に担うのは、どこに行っても同じだよ」


と言ったそうだ。


 さらに、

 「チーフに命じられた仕事を真っ向から断ったんだろ? 普通、そんなことしたら怒鳴りつけられてクビだよ。

  黒沢君の対応は、随分優しかったと思うなあ。

  感謝しなきゃいけないよ」

とも。

 ちょっと持ち上げすぎだけど、水谷君の逃げ道を塞ぐには、これくらい言ってもらった方が良かったんだろうね。




 さて、この先、水谷君とはあまり友好的な関係は築けそうにないけど、一人前になればシフトを替えられるからね。

 言うことを聞くようになった今のうちがチャンスだ。

 なんとか使い物になるようにしなきゃ。

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