11 イブのデート、いかがですか?
ようやくイブのデートです。
なお、デートコース及びイベントは、フィクションです。
「おはよう、寿也さん。随分早いね」
待ちに待ったイブ当日。
今日の服は、この前灯里に選んでもらったもので、ブラウスの上に少しルーズなカーディガン、下はレギンスの上にキュロット。
スカートは絶対嫌だという僕へのギリギリの妥協だそうだ。
化粧も、いつものナチュラルメイクより、少し気合いを入れてある。
この辺も灯里監修だから、普段の僕より200%増しで女の子してるはずだ。
ゼロは何倍してもゼロだけど、僕の女子力はゼロではない! と思いたい。
10時の待ち合わせのところを9時半に到着したのに、寿也さんは既にいた。
待ち合わせ場所は駅の改札前と、これまた定番だ。
定番の「待った~?」「ううん、今来たとこ」をやるのはさすがに恥ずかしいと思いながら早く来たのに、寿也さん、いったい何時から来てたんだろう。
「あ~、まぁ、気が急いてね
目が覚めちまって」
「普段は朝起きられないくせに遠足の日だけ早起きする子供じゃあるまいし」
「随分具体的な喩えだなぁ」
「僕も朝早く目が覚めたクチだから。
あ、でも、僕は元々朝は弱くないけどね」
今日のコースはまだ教えてもらってない。
全部寿也さんにお任せにしている。
僕としては、どこかでプレゼントを買えるタイミングがあるといいなってくらいだ。
「寿也さん、最初に言っておきたいことがあるんだ」
いつ言おうか考えたんだけど、きっと最初に言っておかなきゃならないことだと思うから。
「お試し期間は、もうおしまい。
僕は寿也さんが好きだ。
しゃべり方もこんなだし、多分、付き合っててもその辺は変わらないと思う。
それでもよければ、僕は寿也さんとちゃんと付き合いたい。
今日は、そのつもりで相手してほしい」
ここから始めないと、フェアじゃない。
最後までいくにしても、キスとかで止めるにしても、お試しの制限の下じゃなくて、気持ちと流れに従って動きたい。
「ありがとう、嬉しいよ。
今日はいつもと雰囲気違う服装だけど、そういうつもりで選んでくれた?」
「うん。
女の子っぽい服とかよくわからないから、友達に手伝ってもらったんだ。
今日はイブだし、気合い入れて女の子っぽくしてきたけど、今後ずっとこのレベルってのは期待しないで」
「今日の女の子らしい明星も可愛いけど、いつものボーイッシュな明星も可愛いよ。
無理しないで自然体でいいから。
俺が好きになったのは、服装じゃないからさ。
じゃあ、改めて。
明星が好きだ。
俺と付き合ってほしい」
「うん、喜んで。
これからもよろしく。…って、ここからもう色っぽくないよね」
「それでいんでない? 俺達は。
それじゃあ、待ちに待ったイブのデート、始めようか」
「うん、楽しみにしてる」
こうして、僕たちは正式に付き合い始めた。
デートは、まず都心まで電車で出て、高層ビルの中の水族館に行った。
イブに水族館? と思ったんだけど、飾り付けやイベントがクリスマスバージョンになってるんだそうだ。
実際、入口では、サンタの服を着込んだペンギンの置物が出迎えてくれた。
さすがに、トナカイの格好をした鮫とかは泳いでいなかったけど、ペンギンのショーでは、サンタの衣装を羽織ったペンギンが歩いていたり、アシカのショーではサンタの帽子を被っていたり、イルカショーではお姉さんがトナカイのかぶり物をしていたり、イルカの割るくす玉がサンタのプレゼント袋の形だったりと、クリスマス特別版のイベントがいくつもあった。
お昼は、水族館の中のレストランで食べた。
なにしろペンギンやイルカのショーの時間の隙間を縫ってだから、少し慌ただしい食事になったのは仕方がない。
それから、売店でペアマグを買った。
こういうのって、イメージ的に同棲カップルが買う物だと思ってたんだけど、しょっちゅう訪ねてくる前提で、片方の家に一組置いておくことも多いんだって。
今日の思い出も兼ねて、取っ手がイルカになっているマグカップにした。
青イルカと白イルカ。
寿也さんもアパートに一人暮らしだそうで、カップは寿也さんの部屋に置くことになった。
「こういうカップ、可愛くないか?」
「ん~、可愛いとは思うけど、ちょっと使いにくくない?」
「こういうのペアで揃えるとさ、使うたびに今日のこと思い出すんじゃないかな」
「そうかもしれないけど、一緒に住んでるわけでもないのにペアマグなんて持っててもしょうがないじゃん」
「いやいや、別に同棲なんかしてなくても、遊びに来た時に使うとかってアリだよ。
ペアでなくても、人んちにマイカップ置いとくような友人ってのもいるもんだし」
「それって、男同士とかで?」
「そう」
「…まさか、兄貴のマイカップが寿也さんとこにあるなんてことは」
「ないない!
俺んちじゃなくて、溜まり場になってるような奴の家だと、毎回持って行くのが面倒だから起きっぱなしになるとかあるんだよ。
てなわけで、ペアで買わない? 俺んちに置いとく用に」
「それは、遠回しに、部屋に来いと」
「いやいや、ストレートに誘ってるつもりだけど」
「いいよ、僕、彼女なわけだし。
そのうち寿也さんの部屋、遊びに行くよ。
あ、ちなみにね、僕は女子力総じて低いけど、料理だけは人並みにできるんだ。
洒落た料理とかは作れないけど、今度何か作りに行ってあげるよ」
「そりゃあ嬉しいねぇ。
近いうちに、是非」
先の約束をするっていうのも、悪くない気分だね。
水族館を出る頃には、午後4時になっていた。
ショーを3つも見たから、時間が掛かるのはしょうがない。
今日の流れは寿也さんに任せているので、変に口を出すのもどうかと思うのだけど、さすがにあまり遅くなると買い物の時間がなくなるな~と思っていたところだった。
「さっきから、なんかそわそわしてるけど、どこか行きたいところでもあった?」
やっぱり鋭い。
せっかく水を向けてくれたから、ここは素直に話してみよう。
「寿也さんにね、クリスマスプレゼントを贈りたいけど、何を贈ったら喜んでくれるかわからなかったから、まだ買ってないんだ。
だから、一緒に選べたらなあって」
「いやいや、嬉しいこと言ってくれるねぇ。
それじゃあ、ちょっと予定を変更して、ショッピングといこうか」
「寿也さん、どんなのがいい?
小物系? 服とか?」
「何がいいかねぇ。
ん~~、それじゃ、ネクタイ選んでもらおうかなぁ」
「ネクタイ?
今って、クールビズとかいって、あんまりネクタイしないんじゃないの?」
「昔に比べりゃ、確かにしなくなったろうけど、一応、俺、これから就職活動するからなぁ。
リクルートスーツ着なきゃならんし、当然ネクタイもいるんだよ。
ま、リクルートスーツに合う柄って縛りはあるけど、明星に貰ったネクタイ着けてりゃ御利益がありそうだからなぁ」
「就職、ほぼ決まりって言ってなかったっけ?」
「ほぼはほぼさ、絶対じゃない。
それに、リクルートスーツは濃紺が一般的だからね、濃紺に合うなら、就職後も使えるんだよ」
「まあ、寿也さんがそう言うならネクタイにしよっか。
濃紺のスーツに合う真面目な感じのネクタイね」
「そんでもって、どこかに遊びとゆとりを感じさせるワンポイントが欲しいな」
「ワンポイント?」
「柄とかにさ、真面目だけどそれだけじゃないって何かが欲しいな。
そこんとこを明星のセンスで選んでほしい」
「難しい注文だねえ。
僕にファッションセンスを期待されても困るんだけど。
んじゃ、選んでみるから、寿也さんの好みとかも参考にさせてね」
こうして、一緒に買い物という、なんだかデートの王道みたいな展開になった。
アドバイスをくれた灯里には、感謝しきれない。
結局、見る角度によって光沢に変化の出る淡いグリーン地に濃いめのグリーンのドット柄にした。
ポイントは、ドットに混じって、時たま星形があること。
よく見るとわかるレベルで混じっているので、オフィシャルな場所でも浮かないはずだ。
星が混じっているのは、きらりと光る何かがあるって洒落と、僕の名前を引っ掛けて。
まあ、僕らしいものになったと思っておく。
少し気恥ずかしいけど、寿也さんが喜んでるから、まあいいや。
夕食は、別のビルにあるスカイラウンジのレストランだった。
都心にしてはと言うべきか、都心ならではと言うべきか、夜景が綺麗だ。
席に着くと、寿也さんからリボンで包装された小箱を渡された。
開けるのは、家に帰ってからにしてほしいって。
それはそうと。
「あのさ、こういうところでイブのディナーの予約とか、簡単に取れるもんじゃないよね?
いったい、いつから予約してたの?」
「2か月前」
「付き合い始めた直後!?
気が早すぎない?」
「何度も言ってるだろ? 『全力で関われ』って電波が来るんだよ。
だから、ダメ元で予約した。
結果的に正解だったろ?」
「思い切り良すぎでしょ、それ。
僕が寿也さん好きにならなかったら、どうするつもりだったのさ」
「だから、ダメ元だって。
ホントにダメだったら、知り合いにでも譲ればいいさ。
まぁ、お試し期間には引っかかってるし、少なくとも食事くらいは付き合ってくれると思ってたけどね」
「あんた、大物だよ。
褒めればいいのか、バカにすればいいのか、わかんない」
「見事、明星のハートを射止めた俺を褒めてくれ」
「あー、そうだね、凄いね、偉いね。
こんな可愛げのない男女のどこが良かったのさ」
「可愛げは十分あると思うけどなぁ。
星也に気を遣って男っぽく振る舞ったりとか、敢えて損な役回りをしてるとことか」
「別に、兄貴に気を遣ってるわけじゃ…」
「今はそうかもしれんけどさ、小さい時に星也の呼び方をお兄ちゃんにしてみたり、男の子扱いされても否定しなかったりとか、すごい気の遣いようだと思うけどな」
「なんでそんなこと知ってんの!?」
「なんでも何も、前に自分で言ってたじゃないか。
多分、明星の中では当たり前だから、話したことすら覚えてないんだろうな。
あんなこと全く気負わないで話してるのを見たら、けなげで可愛くて、そりゃあ惚れるだろう」
「――――。
僕、そんなこと言ったっけ?
なんでさ?
僕よか兄貴の方がよっぽど女らしいってみんな言うのに」
「俺は、『みんな』の中に入らなくても全然構わないけどな」
「…僕ね、中学の時に付き合った子に、『お前みたいな男女と付き合ってられるか!』って言ってふられたんだ。
自分が女の子らしくないのはわかってるけど、それでもショックだった。
寿也さん、兄貴から弟だって言われてた僕のこと、女の子だって気付いてくれたよね。
僕はさ、ガサツだし女子力低いけど、それでも女の子なんだよ。
きっと僕は、自分のこと、女の子として見てくれる人を待ってたんだと思う。
だから、こんなにすぐに寿也さんのこと好きになっちゃったんだ。
今回、クリスマスプレゼントに何を贈ろうって考えた時にね、僕は寿也さんのことなんにも知らないことに気付いたんだ。
どこに住んでるのかも、一人暮らしなのかも、何が趣味かとか、そういうのなんにも知らないのに好きだとか、おかしいよね」
「いいんじゃないの?
俺が最初に明星に感じたのって、単なる勘だよ。
『全力でこの子に関われ』ってね。
明星の色々なところを知って惚れ込んだのは、その後さ。
どうして好きになったかじゃなくて、好きになったこと自体が大事なんじゃないかな。
どこが好きかなんて、長い人生じゃ変わることだってあるさ。
体型が好きだってんなら、中年太りしたら好きじゃなくなるかもしれない。
でもさ、『この人は何となく好き』っていう感覚は、明確じゃないかもしれないけど、だからこそ変わらないって思わない?」
「寿也さん、キザだよ…。
僕さ、寿也さんのこと、好きでいいんだよね。
寿也さんと一緒にいたいよ」
「もちろん、一緒にいてくれよ。
知ってる? 『ボーイッシュ』ってのはね、ボーイじゃないからこそ『ボーイッシュ』なんだよ。
明星は、どこから見ても女の子だよ。
よっぽど特別なところでなきゃ、男物着てたって構わないからさ。
今日の服、とっても可愛いけど、デートのたびにそこまで気合い入れなくてもいいよ。
もちろん、気合い入れてくれたら嬉しいけどさ、俺が好きなのは、何も気負わずに星也の弟を演じる明星の優しさだから」
どうしよう、このままずっと寿也さんといたい。
誘われたら、求められたら、応じるつもりで、明日も休みにしたけど。
さすがに、僕からは誘えないよ。
寿也さん、早く誘って。
このまま僕を抱きしめてほしい。
続きは、明日(7/4)午後8時過ぎに更新する予定です。




