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ここに100人に聞けば100人が『可愛い』と答える程の可愛い子が存在する。
今年晴れて北山学園に通うことになった、新高校一年生・花月柚希
小柄な柚希は華奢な体つきで胸はないが、ぱちくりした大きな瞳と長い睫がお人形のようで愛らしく、もっともオタクに好まれそうな容貌である。
傷みを知らない綺麗な髪をひとくくりにし、尻尾のように揺らしながら学校まで全力疾走するのは今となっては毎日のことだ。
走って乱れるスカートも、下心むき出しの男達の視線も、一切気にせず豪快に走っていく。
柚希は始まったばかりの学園生活に大した感慨もなく過ごしていた。
『単純馬鹿』とは初めての友達であり幼馴染で親友の蜜弥望の評である。
単純で馬鹿で、新しい環境への期待や希望に満ちた顔とは程遠いアホ面をしているが、決して悩みがないわけではなかった。
柚希には人には言えない秘密がある。
道行く女子高生の中でもずば抜けて可愛い顔立ちをしているこの子は、なんと、歴とした男なのだ。
女子高生もどきの男子高校生――彼こそが、女血一家である花月家に唯一生まれてしまった、男の子孫。姉を四人持つ彼の家は“女血一家”と呼ばれ、古くから伝わる“女の子しか生まれない家系”だった。女が絶対的権力を持つ家系でもある。
顔は女の子そのもの。いや女の子よりも可愛いというのに、彼には立派……とは言いがたいが、一応それなりに男として重要なモノがついている。きちんと機能だってするのだ。
生まれるはずのない、男の子孫。
それは花月家の恥とされた。
その為、その姓を背負った彼は悲惨な学園生活を送るはめになる。
学園生活に何か特別なものを望んだわけではなかった。
彼女はいないが、彼女が欲しいなんていう年頃な悩みさえ抱いたことがなかった。
女家族の中で散々な扱いを受けて育った柚希は、年頃の男子高校生に比べて女の子への関心が非常に薄かったのだ。
女は好きか嫌いかと問われれば『嫌い』と答える方である。
柚希はただ普通の男の子として、男子高校生として、学園生活が送れたら……それでいいと思っていた。
この成長期に身長を伸ばし、男らしくなって、いつか女と間違われる日におさらばしたい。
そんな願望を抱き、当たり前のことが当たり前に訪れると思っていたのだ。
しかし現実は見事に柚希を裏切ることになる。柚希を陥れたもの。
女子校への進学。
男子高校生になるはずの柚希は女を装い、女子高生として、女子校に、通うことになってしまったのだ。
柚希はその女子校で、
ある日、
ある時、
あるきっかけで、
彼、彼女らと出会ってしまい、平穏とは程遠い学園生活を送ることになる。そんなこと誰が予想出来ただろうか。
それは高校生になって初めて迎える、暑い夏の出来事だった――




