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古いゴブリン  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
第二幕 王都動乱

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成長するために努力はしています

「お名前を教えて下さいませんか?」


 そう、名前だ。


 僕がここに連れてこられてから一度も彼の名前を聞いていなかった。

 後ろに控えている彼の部下である騎士様の名前は聞いていたけれど、彼については『大佐』であること以外は何もわからない。

 いや、他にもひげが偽物だということは知っているけれども、それについては触れてはいけない雰囲気なので自重することに決めた。


「そうだったな、名乗るのを忘れていた」


 大佐殿は「少し私も性急過ぎたようだ」と微笑して右手を差し出しながら言った。


「私の名前はシーブノ・タバレ。タバレ大佐とでも呼んでくれたまえ」

「タバレ大佐殿ですか」

「殿は要らないぞ」

「そうですか。はじめましてタバレ大佐。僕はタスカ領の更に奥地にあるガラズ村出身のエイルと申します」


 僕はタバレ大佐の手を握り返しながら自己紹介をする。

 彼の掌は、その外見とは裏腹にがっしりして固く、一線で働いている軍人であることを理解させた。


 僕の自己紹介にタバレ大佐の目が少し考え事をするように動く。


「ガラズ村か。初めて聞く村の名前だな」

「村人が五十人も居ない小さな村です。ガラズ村という名前も初代村長の名前が『ガラズ』だったからと聞いてます」

「なるほど。私はあまり辺境というものを知らずに生きてきたので不勉強な部分もあるのだ」


 自分の知らないことを素直に知らないと言えるのは素晴らしいことだ。

 ルーリさんに色々と教わっている時、彼女は常々そう口にしていたっけ。


 知らないことをさも知っているかのように振る舞ったり、知らないことを認めず知ろうともしない人間は徐々に腐っていく。

 そんなことを言っていた彼女の頭にはいったい誰の姿があったのか。

 あまりに実感がこもりすぎていたその時のルーリさんに、僕はそれを尋ねることは出来なかった。

 でもそれは『知る必要のないこと』だったのかもしれない。


「僕も村を出てエヴィアスで色々勉強するまで何も知りませんでした。エヴィアスのギルドの人達にはどれだけ感謝してもし足りません」

「そうか。エヴィアスというと例の……」


 タバレ大佐が僅かに僕の後ろに立つネガンさんに目線を送ると「ダスカス軍が占拠した町です」と答えが返ってくる。


「もう一つ質問よろしいですか?」

「ん? 名前以外にも聞きたいことがあったら聞いてくれ」

「タバレ大佐の軍……第13連隊の目的地はタスカ領ですよね?」

「そうだ。だから私はタスカ領のことを知っている旅人や商人を見つけては話を聞きながらここまでやって来たのだ」


 と言うことは僕以前にもタスカ領の話を何人もの人たちから聞いていると言うことか。


 これは下手に誤魔化したり嘘を言わない方が賢明だろう。

 もちろん元々聞かれたことは正直に話すつもりではいたけれど、なんせ僕はあの騒動の中心で色々王国から見れば知られたくないことを見聞きしてしまっている。


 辺境伯領主という貴族の裏切り行為。

 それに関わって居るであろう王国内に潜む、ダスカス軍の息が掛かった有力者の存在。

 そしてその有力者たちが関わっているに違いないアナザーギルド。


 もし目の前のタバレ大佐がそのいずれかの関係者であったなら、僕は最悪ここで暗殺される可能性すらあるだろう。

 一応もしものためにゴチャックのような隠密行動の出来るゴブリンたちを潜ませてはいるが、戦闘力には不安が残る。

 かといってゴブトやゴブナをテイマーバッグから先に呼び出しておくのもリスクが高いだろう。


 きっとこの場に居る二人ならゴブトの気配を察することくらいは容易いはずで。

 そうなれば変な警戒心を先に相手に与えてしまうことになるかもしれない。


 だからこの場に着くまでゴブトたちを呼び出さずにいたのだが。


「と言うことは僕のことはもう知ってますよね?」


 僕のその問いかけにタバレ大佐の返事は一瞬遅れ、彼の目が一瞬険しくなって僕の後ろに立つネガンさんへ向けられたのを僕は見逃さない。

 後方からネガンさんが僕の真後ろへ移動する気配を感じる。


「ふむ。と言うことはやはり君がダスカス軍を撃退したテイマーのエイル君で間違いないのだな?」


 僕が彼らを警戒するように、彼らも僕を警戒していたのかもしれない。

 多分王国への知らせや、ここまで来る間に仕入れた情報で僕の風体については知っていたはずだ。


「僕一人の力では無いですけど、それで間違いないです」


 そして僕がゴブリンたちやワイバーンと共にダスカス軍を撃退したことも。


「ふむ。確かに報告で聞いてはいたのだが」


 タバレ大佐は顎に手を当てながら僕の体から顔をゆっくりと確認するように上下になんども見返す。

 その動きに合わせて付け髭がゆらゆらと揺れ、徐々に斜めになっていくのを見て僕は内心ヒヤヒヤする。


「思ったより子供に見えましたか?」

「ん……いや、まぁ」


 言い難そうに口ごもるタバレ大佐に僕は自嘲気味の笑みを返しながら「そう言われるのにも慣れましたから」と答えた。


 辺境の外れの寒村。

 村から少し足を伸ばせば直ぐに強力な魔物がうろつき、猟をするのも命がけ。

 そんな場所では取れる食料もそんなに多くは無い。

 しかも僕は長男でもなく、家を継ぐ立場ではなかった。

 だから与えられる食べ物も日々最低限。

 僕の体が、町や王都の人々と比べて小さいのは仕方が無いことなのだと今はわかっている。


 それでも町に出て来てからはひっそりと体を大きくするために努力はしているのだ。

 ルーリさんには内緒でレリック商会のキリートさんに『背が伸びる食べ物が欲しい』と頼み込んで手に入れたチーズとか、なかなかに高価だったけれど毎日食べ続けていたりする。


「最初に報告を受けた時は、どんな凄い戦士がダスカス軍を退けたのかと思ったのは確かだ。だがテイマーだと聞いてな」

「たしかに自分が戦うわけじゃ無いテイマーだったら、それほど強そうに見えない人も多いですからね」

「うむ。だが話を聞けば聞くほど、情報を集めれば集めるほど信じられなくなってしまってな」


 タバレ大佐は頭を掻きながらそう話を続けた。

 途中、付け髭が落ちかけたのを慌てて付け直す彼に僕は「そちらも気にしなくても誰にも言いませんよ」と笑いかけてから立ち上がる。

 そしてテイマーバッグを彼に見えるように服の裾を上げ、腰を拈りながら言った。


「それじゃあ僕の自慢のゴブリンたちを紹介しますね」


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