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第28話 優勝賞品

 表彰式が終わり、熱狂の余韻が残る選手控室。


 ラギウスは、授与された優勝賞品──『転移の座標石』をテーブルに置き、腕組みをしていた。


「……やはり、ウンともスンとも言わんか」


 石板は沈黙を守っている。

 魔力を流しても反応せず、ただ鈍い光を放つだけの漬物石だ。

 漬物石としても別にいらないけど。

 というか、呪具の中には漬物石もあるけど。


「申し訳ありません、ラギウス様……」


 ミリアが解析用のモノクルを外し、肩を落とす。


「魔力回路は生きているのですが、中枢部分に強力なロックが掛かっています。これを起動するには、対となる『鍵』のような魔導具が必要かと……」

「謝る必要はない。想定通りだ」


 ラギウスは淡々と答える。


 『原作知識』によれば、このアイテムは単体では機能しない。


「不良品を掴まされたわけではない。ただ、少しばかり『手間』がかかるというだけだ」


 ラギウスは脳内の地図を検索する。

 必要な起動キーの名は、『界渡りの羅針盤ディメンション・コンパス』。

 そして、それが眠る場所は──。


「帝都の地下深層。古代の下水道よりもさらに深く封印された隠しマップ──『奈落の時計塔』だ」


 その名を聞いた瞬間、シライシ(執事モード)の眉がピクリと動いた。


「……マスター。あそこは、高難度エリアでは?」

「ああ。本来なら、世界を救った後の勇者パーティが、余興で挑むような死地だ」


 時空が歪み、物理法則が狂った迷宮。

 徘徊するのは、古代の機械人形や、時の狭間から零れ落ちた異形の魔物たち。

 平均的な学生が足を踏み入れれば、一秒でミンチになる場所だ。


「だが、行かねばならん。あの石が起動しなければ、領地との物流ラインは確立できない。俺の『産業革命』が画餅に帰す」


 ラギウスは立ち上がる。

 彼に迷いはない。

 レベルが足りない? 装備が足りない?

 関係ない。

 足りないなら、足りるだけの「道具」と「人材」を揃えて、強引に突破するだけだ。


「行くぞ。夏休みの宿題の残りだ。片づける」


 ★


 準備を整え、寮を出ようとしたその時だった。


「──待ちあそばせ!」

「どこへ行くつもりですか、カルゼラード」


 寮の玄関前で、二人の少女が立ちはだかった。

 燃えるような赤髪の皇女、イリスディーナ。

 そして、豪奢な縦ロールの令嬢、マリアベル。


 二人とも、なぜかフル装備だ。

 イリスディーナは愛剣を腰に、マリアベルは魔導杖を手にしている。


「……何の用だ。俺は忙しい」

「優勝祝賀会をすっぽかして、コソコソと夜逃げですか? 水臭いですね」


 イリスディーナが不満げに唇を尖らせる。


「貴方のことですから、また何か『ろくでもないこと』を企んでいるのでしょう? その賞品(石板)を持って」

「私を置いていくなんて酷いですわ、ラギウス様! 私は貴方の『敗北者』として、最期までお供する権利がありますのよ!」


 マリアベルが意味不明な理屈で詰め寄ってくる。

 どうやら、完全にロックオンされているようだ。


(……チッ。厄介なノイズだ)


 ラギウスは舌打ちし、追い払おうとして──ふと、思考を止めた。


 これから向かう『奈落の時計塔』。

 そこは、物理攻撃が効きにくい「霊体」や、魔法を反射する「鏡面装甲」を持つ敵が混在する、非常に面倒なダンジョンだ。


 物理特化のシライシと、技術担当のミリアだけでは、対応しきれない局面が出てくる可能性がある。

 特に、ボスの攻略には「高火力の魔力砲台」と「搦めデバフ」があると、効率が段違いだ。


 ラギウスは、二人の少女を値踏みするように見下ろした。


 イリスディーナ。

 『青き王火』による、防御無視の超火力。ボス戦における最強のDPSアタッカー


 マリアベル。

 『魅了の魔眼』による精神干渉。知性のある敵を同士討ちさせたり、動きを止めるクラウドコントロール(群衆制御)の達人。


(……悪くない)


 ラギウスの脳内で、ソロバンが弾かれる。

 この二人を雇うコスト(精神的疲労)と、得られるリターン(攻略速度の短縮)。

 計算結果は──「黒字」。


「……いいだろう」


 ラギウスは頷いた。


「丁度いい。『荷物持ち』が足りなかったところだ」

「は……?」

「荷物持ち、ですか……?」


 二人が目を丸くする。

 帝国の皇女と、大貴族の令嬢を捕まえて、荷物持ち扱い。

 あまりの暴言に、周囲にいた取り巻きたちが卒倒しかける。


 だが、ラギウスは構わず続けた。


「ついて来れるなら来い。ただし、足手まといになった瞬間、置いていく。……契約成立か?」


 その傲慢すぎる条件提示に。

 二人の少女は、顔を見合わせ──そして、花が咲くような笑みを浮かべた。


「ふふっ。いいでしょう。その『荷物』、私が焼き尽くして軽くしてあげます」

「望むところですわ! ラギウス様の荷物になれるなら本望です!」


 ……どうやら、契約は成立したらしい。

 若干、マリアベルの思考回路がバグっている気がするが、戦力として使えるなら問題はない。


「よし。パーティ結成だ」


 ラギウスは背を向けて歩き出す。


 前衛:シライシ(物理・盾)。

 火力:イリスディーナ(魔法剣)。

 支援:マリアベル(精神干渉)。

 技術:ミリア(解析・解除)。

 指揮:ラギウス(道具・絶対自我)。


 役割分担は完璧だ。

 本来なら世界を救うために集うべき才能たちが、一人の帝王の「私用(物流ライン確保)」のために集結した。


「さて、『課外授業』開始だ」


 目指すは帝都の闇。

 奈落の底に眠る、時の迷宮。


 ラギウス率いる、最強にして最凶の「邪道パーティ」が、今、地下へと潜る。

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